第373話 なんでこんなことになっているんだよ……。

「なんと!! それはどこの海底だ!!」

「オスクリタ海底です。一人の魔法使いが襲っているようです」

「そうか!!!」


 っ、俺の方にイルドリ王が振り向いた。


「地上が危険だ!! オスクリタ海底だと、君も世話になっていただろう!! 行くぞ!!」


 は、はい!!!!


 ※


 イルドリ王がいれば、一瞬だったな、移動が。ワープしたくらいに、一瞬だった。


 地上に着き、すぐオスクリタ海底に向かうと――……


「――――な、んだ、これ」

「酷いな……」


 水が、オスクリタ海底を埋め尽くしてる。


 でも、海底の周りに張られている壁に穴は空いていない。それに、空いていたとしても、すぐに塞がる仕様になっているはず。


 どこから、こんな大量の水が入ってきた?

 まさか、さっきアンヘル族が言っていた"一人の魔法使い"が、大量の水魔法を出してオスクリタ海底を埋めつくしたのか?


 ────いや、それを考えるのは後だ。

 今は生存者の確認が先。海底人はみな無事なのか、逃げきれたのか。


 周りをいくら見回しても、水で何も見えない。


 ロゼ姫は、リヒトは。

 アマリア、グレール、クラウドはどうなった。


『に、兄さん? 兄さんはどこ?!』


 っ、グラースが顔を青くして取り乱し始めた。

 体が冷たくなる、俺にも影響が出てるんだが?!


(「落ち着けグラース! グレールは強い、大丈夫だ!」)

『兄さん……、そ、そうだよね。兄さんは、強い。大丈夫……、大丈夫……』


 自分に言い聞かせているけど、さすがに心へのダメージが大きい。

 俺も、確証が持てていないから、これ以上のことが何も言えない。


 それに、俺だって不安じゃ無いわけじゃ……。


「ここを住処としている海底人は、王妃と王の合体魔法で城内に避難しているらしいぞ!!」

「っ、え」


 イルドリ王が片目を手で隠しながらそんなことを言ってきた。


 何かの魔法? 

 いや、アンヘル族は魔法が使えないはず。


「クラウド皇子の視覚を共有したのですかぁ?」

「そうだ!!! 今ちょうど、城の一室に避難している光景が映っている!! だが、危険な状態なのには変わりないらしい!! 早く行くぞ!!」


 あっ、俺を抱きかかえてんだからもっと安全運転で頼むって!!

 風が頬に当たって痛いんだって! 目も乾くし……。


「っ、グラース、大丈夫か?!」


 後ろを見ると、グラースがその場から動かない。


(「グラース! グラース!!」)

『っ、あ』


 やっと俺達が動き出したことに気づいたらしい。

 直ぐに追いついた。


『──兄さんは、大丈夫なんだよね?』

(「現状では、確証は持てないが、おそらくは大丈夫だろう。王と王妃の合体魔法で城に避難しているみたいだしな」)


 イルドリ王の言葉を伝えると、安堵の息を吐いた。

 さっきまで、周りの声が聞こえていなかったらしいな。


 グラースが落ち着いたのなら、今は海底だ。

 今はイルドリ王に抱えられて上空から海底を見下ろしているのだが……。


「…………マジで、酷いな」

「カガミヤ……」


 アンジュに抱えられているアルカも、不安そうに眉を下げていた。


 そりゃ、そうよ。

 もう、海底の地面どころか、お店すら見えないんだからな。

 城は、大きいから全てを埋め尽くされてはいないみたいだけど……。


 もう、オスクリタ海底の復旧は難しそうだ。

 一体、誰がこんなことをしたんだよ……。


『…………ここまでの水魔法。誰が出すことできるんだろう……』


 グラースが眉を下げて、一人呟いている。

 少しは冷静になったらしい。


 誰が出すことが出来る……か。

 そうか、こんなの、普通の人は出来ないのか。


 当たり前だ。

 壁に穴が空いていないのなら、魔法で水を作り出すしかオスクリタ海底を埋め尽くす方法は無い。


 でも、ここまで大量だと、相当な魔力を使うはず。俺くらいか、それ以上は必要だろう。


 そんなの……、もう、一人しか思いつかないんだけど……。


「――――hawk・waterホーク・ワーター


 っ!? 上から魔力?!


Mitrailleuseflameミトラィユーズ・フレイム!!」


 咄嗟に炎のガトリング砲を発射、上から迫って来ていた水の鷹を破壊。


 今の魔法、見覚えあるぞ。

 この水魔法は、やっぱり……。


「最近よく会うねぇ〜、知里」

「アクア……」


 上から、黒いローブを揺らしながら笑顔で降りてきたのは、管理者の一人、アクア。


 つまり、この大洪水はアクアの魔法ということか。

 でも、魔法なのなら消えているはず。水の鷹を放ったんだから。


 魔法って、同じ属性魔法を同時に二つ以上放つことは出来なかったはず。

 それなのに、なんでまだ海底を埋めつくしている水が残ってるんだ?


「まさか、王様達がここまで抗うとは思っていませんでしたぁ~。でも、少しは始末出来ましたので、良かったですぅ」

「し、まつ……?」

「はぁい!」


 満面な笑みを浮かべ、アクアが銀髪を揺らし俺達に近付いて来る。


 唖然としているとグンッと後ろに体が引っ張られるような感覚。

 俺を抱きかかえていたイルドリ王が距離を離す為に動き出したみたい。


「君はさっきまでの奴らとは違うな!! 戦うのは危険そうだ!!」


 感覚的に感じ取ったのか、イルドリ王はアクアと距離を取り、城へと飛ぶ。

 アンジュとアンジェロ、グラースも置いて行かれないように着いてきた。


「へぇ、逃げるのぉ? 悲しいよぉ~」


 右手を動かし始めた。

 何がくる――――え?


「なんか、オスクリタ海底を埋め尽くしている水、波打ってないか?」


 アルカの指摘通り、なんか、こう、なんか。

 徐々に波が大きくなってないか?


『大きな攻撃がきそうだねぇ…………』

(「きそうだなぁ」)


 イルドリ王は後ろを警戒している。

 アンジュとアンジェロも同じく気配を感じ、アルカもアンジュに抱えられながら周りを見ていた。


「イルドリ王」

「なんだ!!!」

「あいつは管理者の一人、アクア。魔力が化け物で、戦闘に特化した管理者だ。さっきまでの奴らとは桁違いに強い」


 クロの本気の実力は知らんがな。

 ウズルイフよりは確実に強い。


「やはりそうか!! このまま城に向かうのは危険か!?」

「確実にやめた方がいいだろうな」


 城が壊されたら、避難した奴らが巻き込まれる。それだけは避けたい。


「来るよ!!」


 アンジュの声でアクアを見ると、あいつの背後に高波が現れていた。


 あれは、俺の水魔法、wavewaterウェイヴ・ワーターに似ている。


 四方に高波を作り、水責め出来る水魔法。

 まさか、その攻撃が来るのか?


「逃がしませんよぉ~」


 もう、瞳孔開いてんじゃん。

 狂気的な笑い声と共に、高波を俺達に向けて放ちやがった!!


「くそ。なら、水には水を――――wavewaterウェイヴ・ワーター!!」


 出力最大、迎え撃ってやる!!!


「行け!!!」


 イルドリ王に抱えられながらというのがかっこ悪いが、構わねぇ。

 このまま高波同士、ぶつかり相殺出来ればっ――――え。


「俺のwavewaterウェイヴ・ワーターの動きが、止まった……?」

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