第371話 いきなりそんなことを言われてもこっちは何をすればいいのかわからない
クロが三人を狙う。
殺されてたまるか、でも、どうすれば……。
魔法が使えない今、どうする事も出来ない。
俺は、無力。だが、嘆いていても状況は変わらない。
「ちっ!」
地面を蹴って、クロに向かって走る。
作戦は考えていない。でも、走らないと後悔する。
「…………へぇ、あんたって、ここまで無謀だったっけ?」
「俺でも思うよ、無謀だってな!」
魔法も何も纏っていない拳を振り上げ、クロを殴る。
でも、まぁ、わかっていたけど、簡単に交わされた。
アルカ達の前に立ち、クロを引きはがす。
さぁて、ここからどうする。
面と向かって対峙するなんて不可能、絶対に負ける。
作戦を今すぐに考えないと……。
「――――ん?」
後ろから、影? ――――え?
「えっ、動けるようになったの……?」
クロの目線は、俺の背後に現れた土人形に注がれる。
地面に倒れているアルカを見ると、顔を少しだけ上げ、地面に手を付け魔法を発動していた。
────そうか、体が動かせないだけだから、魔法は発動出来るのか。
でも、苦しそうだぞ、大丈夫か?
「しょうがない、本気を出そうかな」
ライフルを構えた。
俺もろとも殺るつもりか。
でも、アルカの土人形が前に立っている。
ライフル一つではどうする事も――
――――ドカン!!
「――――なっ」
発砲音、次に土人形が崩れる音。
目の前で俺達を守っていた土人形が、一発で破壊されてしまった。
「終わりだね」
くっそ!!!
「チサトとやら!! これを!!」
えっ、上からイルドリ王が何かを投げた。
しっかりとクロに向けて。
何が投げられたのかわからず、クロは避ける。
地面に叩きつけられ割れたのは、水晶?
「――――あ、あれ?」
これって――――
「ぐっ!!」
上から苦しげな声?
上を向くと、ウズルイフをイルドリ王が捕まえている。
え、え?
砂時計はどうなった? 無くなってる?
時間を戻されていたはずなのに、何故……。
後ろから首を絞められているウズルイフは、イルドル王を睨んでいる。
「力……まだ隠していたのかよ……」
「当たり前だ。最初から全力を出すわけないだろう」
まだ余裕があるのかと思ったのか、今より力強く締め上げる。
「ガハッ!」と、苦しげな声を上げるウズルイフ。同時に、アルカ達が動き始めた。
まさか、ウズルイフがアルカ達の動きを止めていたのか?
時魔法なら出来そうだな……。
「ちっ……。
さっき放った弾は、クロの魔法だったのか。
たしかに、鉄の鷲はどうしたんだ――――え?
「鷲が、光の刃に貫かれてる?」
空中に、複数の光の刃に貫かれて、無残な姿になっている鉄の鷲。
身動きが取れないみたいで、ギシギシと音を立て藻掻くのみ。
このまま拘束出来たら一番いいんだけど……。
「動けるようになったのなら~!!」
っ、アンジュが片膝を突き、ハープで奏で、光の刃を放った。
クロは簡単に避ける、苛立たし気に舌打ちをした。
『チサト、さっきイルドリ王が投げた水晶、ウズルイフが持っていたモノだよ』
(「え、ウズルイフが?」)
『そう。だから、何かあるのかなって思っていたら、イルドリ王が急に光の刃で砂時計を破壊したの。力でイルドリ王が勝ったんだよ、きっと』
なるほど、それで……。
でも、助かった。
これで――……
――――チッ チッ チッ
「な、なんだ? 時計の刻まれる、音?」
あ、あれ、ウズルイフ、笑ってる?
「――――三、二、一」
カウント、ダウン?
イルドリ王が何かに気づきウズルイフを投げるように離し、距離を取った。だが――……
――――ドカン!!
「っ、イルドリ王!!!」
なんだ、急に爆発!? イルドリ王が巻き込まれた――いや、イルドリ王が爆発したように見えたぞ。
「ウズルイフ、大丈夫?」
「さすがに焦ったがな。もう少し時間を短くしたかったが、仕方がねぇ」
っ、しまった。
気が逸れちまった、クロとウズルイフが合流した。
「どうするの? まだ、殺るの?」
「そうだなぁ……。もう俺は魔法を使えない、クロはまだいけるか? 出来ればまだやりたいんだが?」
「わかった。なら、やろう」
っ、二人が俺を見てきた。
やっぱり、最終的には俺が狙いか?
「そう、わかった。アイ、まだ動ける?」
アイ……? ん? 女?
あいつ、女いるのか? はぁ?
「あ、鉄の鷲が動き出している」
ギシギシと、大きな音を立て、もがいている鷲。なんか、光の刃から抜け出しそうじゃないか?
――――ガッシャーーーン!!
イルドリ王が封じ込めていた鉄の鷲が、完全に動けるようになった……だと?
「それじゃ、邪魔もんは殺せ」
「はぁ……。わかった」
――――っ!?
「アンジュ!!」
「わかっているよ!! 絶対に守るからね!!」
アンジュが激しい音をハープで奏で、光の刃を複数作り出し、二人に放つ。
だが――……
「
ウズルイフが右手を前に出し、光の刃を全て封じる。爆発し、塞がれちまった……。
魔法は出せないとさっき言っていたじゃねぇかよ!!
「あー、時魔法って、厄介だねぇ~」
マイペースな口調だが、焦りが表情に滲み出ている。
アンジェロも動こうとするけど、自身がまともに攻撃を放つことが出来ないのはわかっているらしく、迂闊に動けない。
「はい、とどめ」
黒煙が広がる所に鉄の鷲が突っ込む。
イルドリ王……大丈夫……か?
――――ガキンッ!!
「な、なんだ?」
なんか、硬い物がぶつかる、音?
風と雨で黒煙が薄くなる。
中からは、余裕そうに鉄の鷲を片手で掴み止めているイルドリ王の姿。
服が所々焦げているが、怪我はないみたいだ。
…………俺よりチートじゃね?
ウズルイフ達もさすがに驚いているぞ。
まぁ、そうだよな、驚くよな、俺だけじゃないよな。
「…………へぇ、さすがにむかついてきた」
「奇遇だな、俺様もだ」
二人とも、苦い顔を浮かべている。
まぁ、相手からしたらイルドリ王は厄介でめんどくさくて戦いたくない相手だろうな。
まぁ、俺も、厄介な相手になるだろうけどな、ウズルイフ。
戦闘に参加しようとした瞬間、上から名前を呼ばれた。
「チサトとやら!!!」
「っ。はい!!」
あ、思わず返事しちまった。
声が大きいし、王という立場だから、反射的に敬語になる。
「任せろ!!!」
「何をですか!?」
本当に、何をですか!?
主語をお願いしまぁぁぁぁああす!!!
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