第370話 絶体絶命……かもしれない

 俺が返答に困っていると、グラースは笑みを浮かべウズルイフへと目線を向けた。


『一応、感謝はしているんだよ? 体を一瞬でも貸してくれたこと。だから、僕が出来る事があるのなら、やる』


 そんなこと言われても……。


『大丈夫、僕は人間じゃないし、近づくことくらいは出来るからさ』

「えっ、なっ、おい!」


 言いながら向かってしまった。

 確かに、あいつは幽体だし、相手も気づいていないみたいだし、大丈夫……か?


 っ、ウズルイフが一瞬、向かっているグラースを見たような気がした。

 それは、グラースも感じたらしく一度止まる。


「…………」


 見えてはいない……らしいな、気配だけを感じ首を傾げている。なんで気づいた……。


 そ、そう言えば、ウズルイフは五感が人並み以上なんだっかぁ?


 死角をとっても意味は無く、隙を突く事すら出来ない。

 まさか、幽体であるグラースの気配を感じ取ったか?


「よそ見とは!! やはり余裕があるな!!」

「まぁ、余裕というか、気になるもんを感じただけなんだけどなぁ」

「そうか!!! ──っ」


 イルドリ王は一度、動きを止める。

 その事にウズルイフは首を傾げた。


「どうした? 諦めたかぁ?」

「諦めてなどいない!!! ただ、貴様と同じだ! 気になったものがある!!」


 気になったもの?


 ウズルイフの場合は、五感が鋭いから幽体のグラースに気づいたのかもしれないと思ったが、イルドリ王は何が気になるんだ?


 まさか、グラースに気づいたのか?

 見えている? でも、そんな素振り一度も見せなかったぞ。


「なんか、おめぇめんどくさいな。声もでけーし、イラつくわ」

「奇遇だな! 私も貴様の目、行動、言動。すべてにイラついていたところだ!!」


 …………目が、笑ってない。ガハハッと笑っているが、目は笑ってない。


 腕を組み、動かなくなった。

 攻めてこなくなった相手に対し、ウズルイフは眉間に深い皺を寄せた。


 また、お互い動かなくなる。

 なんだ、この空気、気まず。


 ――――パンッ!!


 っ、発砲!?

 クロがいつの間にかライフルを上に向けて放っていた。


 今はなった弾はっ!? ――――イルドリ王は気づいて反射で避けたらしい。良かった。


「────アルカ!? それに、アンジュとアンジェロも…………」


 三人が、地面に倒れ動かなくなっていた。

 殺られてしまったのかと思ったが、怪我とかは所々のみ。気絶するほどじゃない。


「――――少し手間取った。すぐにやる」

「早くやれ」


 なんだ、今の発砲に何か意味が…………っ?


「なんだ、あれ…………」


 今の発砲、いや、放たれた弾は空中で動きを止めたかと思うと、グリャグリャと形を変え始めた。


「――――わ、鷲?」


 放たれた弾の大きさでは到底作れない等身大の鷲。

 鋭く光る眼光は、イルドリ王に向けられる。


「よし、あれであっちは大丈夫かな。こっちは、もう終わらせよう」


 ガランッと、ライフルを落とし、動けない三人を見る。


 まずい、三人が殺られるともう……。


 イルドリ王を見るが、無表情になりウズルイフを見ているだけ。いや、動けないんだろうな。


 ウズルイフが動きを制限している。

 流石の王でも、管理者の作り出す空気感にはそう簡単に勝てないんだろう。


 それに、周りは嵐。視界も悪いし、むやみに動けば死角を取られる。

 くっそ、グラース、頼む、何かを見つけてくれ――……


 ※


 一度立ち止まったグラースは、イルドリ王とウズルイフが話している際に近付いていた。


 背後に回り、触れないようまじまじと、何かを隠していないかを探す。


 でも、何もない。

 何かを隠し持っている様子も、準備している様子も。


 自分が見つけられないだけかもしれない。

 そう思い、ため息をつく。


『砂時計……。どうやって作り出しているんだろう』


 二つの砂時計を見て、グラースは首を傾げる。同時に、何かに気づいた。


 それは、イルドリ王の視線。

 ずっとウズルイフに向かっているイルドリ王の目線が、グラースを見ているように感じる。


『な、なに……?』


 わからず困惑していると、ウズルイフはチラッと後ろを振り向いた。

 鋭い視線、目を細めグラースを見る。


 でも、視線は定まらない。

 グラースと目が合わないため、見えていないのは明らか。


 このまま動かない様にしよう。

 そのうちに、イルドリ王の目線について考えよう。


 そう思っていると、ふとっ、何かに気づく。


 それは、ウズルイフの懐から覗く球体。

 二色の水晶が顔を覗かせていた。


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