第367話 これから何が始まるんだ?

「アルカ!?」


 アルカの腹部から大量の血。

 何とか立ち上がろうとしているけど、力が入らないのかすぐに倒れる。


「おい、無理して動くなっ――――っ!」


 ――――――――パンッ!!


 アルカに近付こうとすると、発砲音。

 くっそ、近づけない。


 魔法を使う事が出来れば、すぐに対処が出来るのに!!


「アンジュ!!」

「わかりましたぁ~」


 瞬時にハープを作り出し、奏で始めた。

 すると、アルカの身体が淡い光に包まれる。


 そうか、アンジュは怪我を癒す力があるんだった。

 でも、クロが黙って見ているわけがない。


 見ると、狙いを俺達の方に――……


「じゃがみなさい!!」


 後ろからアンジェロの声。

 体が勝手に反応し、しゃがむ。同時に、頭上に光の刃…………?


「――――へ?」


 上を向くと、刃は刃だけど、なんか、こう、違う。

 いや、違くはないんだけど、違う。


 だって、あんな、え? 

 やい、ば?


 三日月のような形の大きな刃。

 本当に、大きい。俺達全員を覆いつくすほどの、三日月。


 ウズルイフとクロも驚いてんな。

 そんな二人の様子など一切気にせず、アンジェロは右手を横一線に薙ぎ払った。


 大きな三日月はクロに向かって放たれる。

 コントロールが上手くいっていないのか軌道はぶれているが、大きさが大きさだから関係ない。


「こ、こんなの!!! 聞いてないんだけど!!!!」


 文句を言いながらもクロは、下に移動し避ける。

 大きければ動きは遅い。簡単に避けられる。

 でも、時間稼ぎにはちょうどいい。


「アルカ!!」


 アルカの傷は、完全ではないにしろ、塞がっている。

 気絶していると思いきや、すぐに目を開け体を起こした。


「いってて…………」

「大丈夫か」

「おう。すまん…………っ!」


 まだ腹に痛みが残っているらしい、顔を歪ませ抑える。


「僕の音色だと、ここまでが限界だねぇ~」

「いや、助かった」


 止血だけでも助かるところ、アルカが普通に動けるようにまで回復してくれた。


 それはもう、大助かりだ。


「あれが管理者と呼ばれる、化け物集団でいいのかなぁ~?」

「そうだ。ただ、普通の管理者じゃねぇんだよ、フード被っている奴」


 俺が視線を送っているところを、アンジュも見る。

 フードをかぶり、白いキザ歯を見せ笑っているウズルイフと、イルドリ王がにらみ合っていた。


 どっちも笑顔なのが、普通に怖い。


「今回は何を狙ってんだぁ? まさか、俺が魔法を使えないからとかいう単純な理由じゃないだろう…………」


 他にも必ず狙いと細工があるはずだ。

 フォーマメントまで来たわけだし……。


 ――――っ!?


 一瞬、こっちを見た?


「アンヘル族の情報はすこぶる少ない。あんまり集めなかったんだよなぁ。さっきの三日月もびっくりな攻撃だった」

「そうか!!! 誉め言葉として受け取ろう!!」

「誉め言葉だから、そのまんま受け取ってもらえて何よりだ。だがな、情報が全くないわけでもねぇんだぜ?」


 言いながらウズルイフは、フードを取り素顔をさらす。

 隣にクロも移動、ライフルを持ち、目の前に浮かぶイルドリ王を見据えた。


「確か、アンヘル族は魔法という概念がない。光の刃や音楽に力を宿し、放っている。俺様達でいう魔力が、お前らでは精神力と呼ばれているんだろう?」


 ウズルイフが聞くと、アンジュとアンジェロの肩がピクッと動く。

 イルドリ王は表情を変えない、さすがだ。


「ほう!! そこまでわかっているのか! 相当調べただろう!!」

「情報収取は得意なものでねぇ。そんで、その精神力は命と等しい。力を使い過ぎるのは、自身の命を削っているのと同じだろう?」


 へぇ、そうなんだ。

 知らなかった。


 って、感心している場合じゃねぇ。

 アンジェロが苦い顔を浮かべ、アンジュは「あらら~」と、肩を竦めている。


 肝心のイルドリ王は、笑みを絶やさず腕を組み、ウズルイフを見据えていた。


「ほう!! そこまで知っているのは驚きだ!!」

「だろう? …………ところでなんだが」

「なんだ!!!」

「お前――もう少し声を抑えて会話は出来ねぇのか?」


 あっ、そこは気にするんだ。


「うるさかったか!! それはすまなかった!! それなら、これではどうだろう!!」

「何か変わったか?」

「変わったぞ!!」


 あっ、ウズルイフが頭を抱えている。

 へぇ、イルドリ王みたいな性格は苦手なんだ。対応に少し困ってる。


「殺そう。ね、殺そうよ、殺させて」

「それは山々だが、今は駄目だ。無意味に殺していいのは、色々準備が整ってから」


 クロが殺意MAXだな。

 というか、おい、ウズルイフ、無意味に殺すな。


「それで!! お前らは何のためにここまで来た!! なぜ!! 攻めてきた!」

「そうだなぁ。話してもいいんだが…………」


 顎を撫で考えると、ニヤッと俺を見てきた。

 な、なんだ? 気持ち悪いんだが?


「少し、楽しみたい事があったんだ」


 言いながら右手を前に出す。

 まさか、何か魔法を放つつもりか!?


 イルドリ王も組んでいた腕を解き、姿勢を整えた。


「――――sablierサブリイェ


 魔法を唱えると現れたのは、大きな砂時計…………?

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