第366話 相手がフレンドリーすぎると逆に困る時もある

 地上の出来事を全て話すのは、正直骨が折れる。

 だから、事細かにではなく、管理者の行っていることや、その被害を大雑把に伝えた。


「――――と、言う訳で、ここまで来たのですが…………」

「ふむ!!! わかった!!!」


 わかったなら何よりです。

 声を抑えてくれるともっと嬉しいのですが、無理ですよね。諦めます。


「その、管理者のトップ、クロヌについてだが……そうだな……。少々、厄介がしれんな」

「厄介……? どういう意味ですか?」


 聞くと、イルドリ王は一度頷き、にぱっと笑みを浮かべた。な、なんだ?


「そういえば、自己紹介が遅れてしまったな、すまない!!」

「え、あ、はい」


 今更? なんで今?


「我の名は、メイヴェン家第三国王、イルドリ・メイヴェン!! 代々フォーマメントを守り、アンヘル族を導いて来た王の一族の一人よ!!!」


 背後に”ドンッ”という効果音が鳴りそうなほどの堂々とした自己紹介をありがとうございます。


「君達の名前なども教えてくれると嬉しいのだが、いいか!?」

「鏡谷知里、冒険者。以上」


 アルカに「他にもあるだろう!!」と小声で言われたが、聞かれたのは名前だけ。

 冒険者というおまけもしっかりと言ってやったんだ、文句はないだろう。


「ふむ、カガミヤチサトか。これからよろしく頼むな!!」

「え、あ、は、はい」


 こ、これから? 長い付き合いになるのか?

 え、なに、話の流れが分からない。



「実はなんだが、時々主の事は、クラウドの目を通して見てはいたのだ!! 曲者だということはわかっている!!」

「……色々言いたいことはあるが、クラウドを通してって、なんすか?」


 この人がクラウドを追放したのって、まさか地上を監視するためとか?

 でも、それはクラウド本人に言えば済む話。追放とかはしなくていいだろう。


 …………あの性格を見越してとかじゃないよな? さすがに……。


「今、なぜこの話をしたか!! それを話すぞ!!」

「はい」

「時々、なんの前触れもなく、クラウドの視界が真っ暗になる時が度々あるのだ!!」

「真っ暗?」

「あぁ、なにか心当たりはないだろうか! それを聞きたいのだ!!」


 今その話を出したのは、そういうことか。

 クラウド共にすごしていた俺なら、なにか心当たりがあるかもと……。


 あるな、一つだけ。


「それって、クラウドが一人でに動き出した時とかじゃねぇかな」

「一人でにだって? それはどういうことだ!!」

「クラウドが誰かに操られたみたいな時があった。もしかしたら、その時かもしれねぇなって、そうおもっ――……」


 ………………………………やっば。


「か、カガミヤ?」

「チサト、さすがにすごいねぇ~」

『チサト~、溶け込み過ぎじゃない~』

(「黙れ」)

『僕だけに言うのずるい~、酷いよぉ~』


 グラースは口に出さなくても意思疎通が出来るからひとまず文句を言っただけだ。

 それより、まずい、これはまずい。


 俺、ナチュラルに王様に向かって普通に話しちまった、敬語が抜けた。

 ロゼ姫相手にするような感覚になった。


「どうした!!! 何かあったか!?」

「…………敬語を外してしまって申し訳ありませんでした」


 こういうのは、変に誤魔化すより、早くに謝る。

 というか、イルドリ王が気にしてなさそうだったから謝るのが吉と思った。


「それか!! 気にする必要はない!! それより、話を進めよう!! 敬語はいらんから話しやすいように話してくれ!!」

「そうか、それなら助かる」


 許しを得た、これで俺は普通に話せる。

 アルカが驚きのあまり俺を指さし固まっているが、知らん。


「クラウドは、操られていたのか!?」

「一回だけ。詳しくはさすがにわからない」

「君は酒におぼれて別行動をしていたからな!!」

「…………」


 黒歴史を思い出させるな、俺はもう酔うほどの酒は飲まん。


「まぁ、それはどうでもいい。最後に見たのは、やっぱりクラウドと同じ、おっさんだったのか?」

「恐らくだ! 霞んでいてよく分からんかったから断言は出来ないがな!! だが……」

「だが?」


 なんだ? なんか、気がかりでもあるのか?


「なんとなくな、見覚えのある奴だった気がしてな…………」


 眉間に深い皺をよせ、考え込んじまった。

 思い出しているらしい、ここからは沈黙。


「――――見覚えのある、人物…………か」


 クロヌについて、知ってたりするか……。

 ちょっと、聞いてみるか。


「なぁ」

「なんだ!!」

「管理者の頂点、クロヌって奴について、詳しく──……」


 ――――――――カーーーーーーン!!!!


「な、カガミヤ、この音?!」

「外から、だな」


 外から聞こえる。な、なんだ?


 フォーマメント全体に響き渡るほどの鐘の音。

 いや、これは鐘の音という優しいものではない。


「…………」


 外から嫌な気配が……。


「話は一度中断させてもらおう! 少々、荒事をする。巻き込まれないよう気を付けるのだぞ」


 言うと、白い翼を大きく広げ羽ばたいた。

 同時に、またしても鐘の音っ――……



 ――――――――カーーーーーーーン!! ドカンッ!!



「な、なんだ!?」

「外から何かが突き破ってきた!?」


 街の方に落ちてった!

 アンヘル族は大丈夫なのか? パニックになっていないか。


「何が起きているんだ――――っ!?」


 透明な膜が今回の攻撃で破れ、外の光景が見えた。


「ウズルイフに、クロ」


 空に浮かぶ、二人の影。

 目を細めるとわかる。小さい身長のクロと、黒いローブのフードをかぶっているウズルイフ。


「うちの仕事、これで終わりでいい?」

「いや、まだだ。ここからは俺様の援護射撃をしてくれ」

「わかった」


 ウズルイフがこっちに来る。

 クロは――ライフルか、武器。遠距離射撃が得意らしいな。


「おい! イルドリ王!! あいつらが――……」

「管理者と呼ばれる者達なのだろう!! わかっている!!」


 言いながら光の刃を右手に作り、左手には光の、鞭? なんか、細く、柔らかいものを作り出した。


 近付いてくるウズルイフに向けて、まず長い鞭を薙ぎ払う。

 簡単に避けられているが、それでも追撃をやめない。


「鞭かぁ、厄介な武器だなぁ~」


 っ、時魔法を放とうとしている!!


tempsテムス


 右手を前に出し、イルドリ王は光の鞭に放つ。だが、動きを止められ、爆発。消されちまった。


「――――ほう、そのような魔法を使うんだな!!」

「面白いだろう?」

「つまらんな!!!」


 また、同じく鞭を作り出し、薙ぎ払う。

 ウズルイフが舌打ちをし、体を捻り回避。距離を取った。


「どうした!!! すぐに今の魔法を放てばいいだろう!!」

「ちっ、やっぱり、アンヘル族を相手はめんどくさいな……」


 苦い顔を浮かべている。

 アンヘル族は、ウズルイフにとって大敵なのか?


「それは、誉め言葉か!! 戦闘中に敵を褒めるなど、余裕だな!!!」


 鞭を乱雑に振り回す。

 ウズルイフは避けきれないことを悟り、また魔法を発動。爆発させ消滅。


 イルドリ王は爆発したのと同時に、再度同じ武器を作り出し、放つ。


「ウズルイフが、押されてる?」

「ように見えるが、あのウズルイフだ。何を隠しているのかわからん」


 事前準備を欠かさないウズルイフの事だ。

 今は切羽詰まっているように見えるが、無防備にフォーマメントにまで来るわけがない。


 絶対に、何か準備はしているはず。

 油断はできない、何が起きても対処出来るようにしておこう。


「────っ!?」


 今、ウズルイフが、笑った?


 ――――――――パンッ!!


 隣、血しぶき。人が倒れるような音。

 地面を見ると、地面が赤く染まっている。


 見ると、アルカが、地面にうつぶせになって倒れていた。

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