第365話 耳が壊れるか、俺の怒りメーターがマックスになるかの勝負だな

 黙って付いて行くと、一番奥であろう部屋に辿り着いた。


「着いたよぉ~。ここが、王様のいる部屋。フレンドリーな方だから、緊張しなくて大丈夫だよぉ~」


 そんなこと言われてもなぁ……。

 やっぱり、少しは緊張するよな、さすがの俺でも。


 アルカはもう、借りてきた猫のようになっているし……。


 はぁ……。俺の後ろに隠れて、カタカタと震えんなよ、俺を壁にするな。


 つーか、なんか……戦闘前より緊張していないか?

 お前、一応オスクリタ海底の姫と普通に話しているだろう。


「イルドリ王、地上の冒険者を二人、お連れしました」


 勝手に呼び出すな!

 声をかける前に、もう一度確認しろ!


 って、あ、あれ? 

 声をかけるのと同時に、アンジュとアンジェロが耳を塞いだ?


 ん? なんか、大きな扉の奥から、大きく息を吸う気配が…………。


『はいれぇぇぇぇぇぇええええええ!!!!』


 耳いってぇぇぇぇぇえええええ!!!!!!


 ※


「ふむ!! よく来た!! 地上の冒険者よ!!」


 耳が痛い中、大声が聞こえた部屋に入ると、滅紫色めっしいろの短髪に、藍色の瞳の活発な男性が王座の間に座っている姿があった。


 なんとなくクラウドの面影はあるけど、性格は全く違うみたいだな。


 声はクラウドと比べると少し低い。

 けど、爽やかボイスというか、耳にすんなり入ってくる感じだ。


 …………もう少し声が小さかったら……だが……。


「イルドリ王、もう少し声を落していただけると非常に嬉しいです」

「わかった!!! このくらいならどうだろうか!!!」


 ・・・・・・何か変わった?

 普通に耳が痛いままなんだけど?


 耳は痛いけど、王に無礼を働くわけにもいかないから、王の前で皆、膝を突き何とか耳を塞がないように耐えている。


 いや、アンジュとアンジェロは慣れているのか、諦めているのか。

 一度口にはしたけど、これ以上は何も言わなくなった。


 いや、もっと何か言ってよ。

 これで会話すると、我慢できなくなるぞ、俺。


「それで!! なに用か!!!」


 …………もう、いいわ。

 余計な事で話を長引かせるより、早く終わらせよう。うん、そうしよう。


「今、地上で大きな事件が多発しており、それがアンヘル族の仕業の可能性が浮上致しました。そのため、イルドリ王のお言葉を聞きたく思います」


 アンジェロが言うと、イルドリ王……だったか? が、片眉を上げた。


「なんだと? アンヘル族が、地上に被害を出しているだと?」


 おっ、なんか、声が小さくなった?

 それでもまだでかいけど…………。


「はい」

「もう少し、詳しく話しては貰えないだろうか!!!」


 あっ、気のせいだったわ。

 普通に声がでかかった、油断したよ、耳痛い。


 って、あ、あれ? なんか、イルドリ王、俺を見てないか?

 いや、アンジュとアンジェロが俺の方を振り向いているから、視線を辿った感じ、か?


 え、なんで俺の方に歩いてきてるの?!


 なんで、俺の前にしゃがむの?!


「詳しく教えてもらおう!!!!!」

「最悪、本当に最悪!!!!」


 俺が説明するのかよ!! 二人がしてくれよこんちくしょぉぉおおお!!!


 ※


 イルドル王が玉座の間では話が出来ないと言って、王宮から外に。


 その間、アルカが俺に「大丈夫か?」と聞いて来たから、俺は答えてやった。「大丈夫ではない」と。


 だが、それを言ったところでアルカが何かできる訳もなく、ただただ困らせただけで終わる。


 困るんだったらなぜ聞いた。

 何か打開策がある時のみ聞け、ないのなら聞くな。


『イルドル王って、何を考えているんだろうね』

(「わからん。わからんから、もういい。どうにでもなれ。俺は、またよく分からんもんに巻き込まれたんだ、そうだ……」)

『うーん。でも、巻き込まれただけで終わるとは思えないなぁ』


 隣を浮いているグラースは、何故か怪しむようにイルドル王の背中を見続けている。


 俺も同じく見るけど、後ろを気にせず歩く王の背中という事しかわからん。


『…………あの王様、完全なる味方にすると、すごくいいかもねぇ~。なんか、凄いものを持っているような気がするよ』


 いつもの笑みを浮かべ、そんなことを言ってくる。


 王を仲間というか、せめて気楽に話せる仲までになる事が出来れば、確かにいいかもな。

 なにか、俺達に優位な何かをもたらしてくれるかもしれない。


 アンジュ、アンジェロ、クラウド。

 この三人だけでも、まぁ、アンヘル族がどんなものを持っているのか大体わかったし、味方にしたい。


 そんな会話を続けて外を歩いていると、王が地上を眺められるフォーマメントの端で立ち止まった。


 透明な壁があるとわかっていても不安になるな、そんなギリギリに立って大丈夫なのか?


 ……あぁ、アンヘル族は飛べるから問題ないのか。


 少し距離のある所で立ち止まると、くるりとイルドル王が振り返った。


「では、ここで話そう!! 周りに聞かれるなどと考えなくてもいいぞ!!」


 腕を組み、仁王立ち。声が木霊する。


 凛々しいねぇ、凄いなぁ。

 というか、歩いている時は気づかなかったけど、王宮から外に出て、ずっと街を歩いていると、徐々にアンヘル族がいなくなっていた。


 王が歩いていたから皆、巻き込まれたくなくて離れたのか?

 それにしては、イルドル王は普通だし…………。


「さすがに、ここまでフォーマメントの端まで行くと、白い翼を持っていると言えど、足は竦むものだ!! それに、端の方まで行かないように皆には伝達している!!」

「なら、イルドル王も危険では?」

「私は問題ない!!!」


 あ、これ。

 他人は駄目で、自分はいいという思考の奴だ。


 これ以上は突っ込まないで良いや、めんどくさい。


「では!! 地上の被害について、詳しく教えてもらおう!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る