第363話 止めるのはわかっていたが、どうやって突破するつもりだ?

「それじゃ、準備はいい?」

「あぁ」

「大丈夫だぞ!」


 オスクリタ海底から地上に移動、周りは何もない草原。

 俺が酔っ払って色んな奴に求婚した場所。


『なんか、げんなりしてない? どうしたのぉ〜?』

(「ここは、俺の忘れられない思い出の場所なんだよ」)

『へぇ〜、どんな思い出?』

(「秘密。俺の心が死ぬ」)


 グラースと心中で会話しながらため息を吐いていると、アンジュとアンジェロが頷き合い、畳んでいた白い翼を大きく広げた。


 倉庫で捕まった時より大きく、太陽の光を反射し輝いているように見える。

 隣に立っているクラウドが二人の羽を見て、不機嫌そうに舌打ちしてる。


「クラウド、妬ましいのか?」

「んなわけねぇだろうが。翼が無くても飛べる。問題ねぇよ」


 口ではそんなこと言っているが、目は違う事を訴えているぞ。

 素直になれって、妬ましいんだろ?


「それじゃ、行こうか」


 言いながら二人は、ピアスに触れる。

 手にハープが握られ、奏で始めた。


 耳に優しい音楽、自然の音が二人の演奏に合わせるように音を鳴らす。


「――――おっ?」


 二人の背後に、切れ目というのか? なんか、切り開かれた空間が作り出された。


 パキパキと音を鳴らし、切れ目が大きくなっていく。


「お、おぉ?」


 人が余裕で通れるくらいまでに大きくなった切れ目の中に広がるのは、青空に浮かぶ国。


「あれが、フォーマメントか?」

「そうだよぉ~。綺麗でしょ? 僕達アンヘル族は、あそこで生活をしているんだよぉ〜」


 へぇ、やっぱり、天使だから天空で暮らしているのか?


「早く行きましょう。無駄な時間はないわ」

「はーい。それじゃ、チサトは僕の手を、アルカは姉さんの手を握ってくれる? そのまま飛ぶね」


 なるほど。だから、二人までなのか。

 往復もめんどくさいしな、そうなるか。


『僕は、ついていけそうな所までついて行くねぇ~』

(「おう、わかった」)


 途中どうなるかわからんが幽体だし、問題ないだろう。


 それより、アルカだ。

 不安そうに俺を見て来るが、見て見ぬふり。


 俺が握ると、アルカも震える手でアンジェロの手を掴む。

 まだ動き出していないのに目を閉じて、小動物のようにプルプルとふるえっ……はぁ。


「なぁ、どっちの方が飛ぶの得意なんだ?」

「僕だねぇ~。姉さんも飛ぶくらいなら大丈夫だと思うけど、誰かを抱えてだと少し危険かもぉ~?」


 気まずそうにアンジェロは顔を逸らしている。

 アルカも今の話を聞いて、さっき以上に体を強張らせてしまった。


「はぁぁ…………。わかった。アルカ、俺とスイッチ」


 ※


「ここがフォーマメントだよ」


 無事にフォーマメントに辿り着いた。

 無事に、ぶじ…………に…………。


「うっぷ………死ぬ」

「貴方が重たいのが悪いわ」

「おめぇの飛行能力に問題があるだろうが…………」


 女のこいつに俺みたいな大の大人を運ばせたのは悪かったよ、それは思う。

 だがな、それを抜いたとしても、お前の飛行能力は破壊的だったと思うぞ。


 アンジュは柔らかく言っていたらしいが、あれは命綱なしのジェットコースター。

 上に行ったかと思えば急降下。右に行ったと思えば、落ちるように左に曲がる。


『大丈夫?』

(「死後の世界を見た」)

『見ただけで終わって良かったねぇ〜』


 というか、無事にグラースもたどり着くことが出来たらしいな。


 もう、見ている余裕すらなかったが、着いてこれたみたいで良かったよ。しかも、ダメージなしで……な、はぁ。


「ゴッホン。んで、ここがフォーマメントということはわかったが……」


 立ち直し、周りを改めて見てみるが……。

 中央に王宮、周りは白い雲。


 空中に浮いている国。

 端の方に行くと、見えない壁が張っているから落ちる事はない。

 地面は石畳、花壇が周りに作られているから華やか。


 アニメとかで描かれそうな、一般的な天空だな。


「それじゃ、中に入ろうかぁ~」

「ほーい」


 アルカが目を輝かせながら周りを忙しなく見ているから、無理やり連行。

 前を歩くアンジュとアンジェロについて行く。


 周りは、白い羽をはやした人間達。

 いや、アンヘル族達。俺達を見て、ヒソヒソと隣の人と話している。


 天空に人間がいること事態、おそらく珍しい事だもんな。

 ヒソヒソと話されるのは、仕方がない。


 だが、あまりこっちに視線を送らないでほしい。

 話すのは良い、視線はやめろ。痛い、煩わしい。


 アルカが迷子にならないように首根っこを捕まえて歩いていると、城の両開きの扉まで辿りついた。


 両隣には、白い羽を広げた門番。

 当たり前のように王宮の扉を開こうとしたアンジュ達を前に、二人の門番は手に持っていた槍をクロスにし、止めた。


「おい、誰の許可を得て中に入ろうとしている」


 まぁ、止めるわなぁ。


『めんどくさいねぇ~、どうするんだろう?』

(「俺達は何も出来ねぇから、アンジュ達に任せるしかないわな」)


 めんどくさいのはわかるが、中にはおそらく王や王妃がいるはず。

 ここまで厳重なのは当然だろう。


 でも、二人はどうやって中に入るつもりなんだ?

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