第362話 直感に頼る事もたまには大事だよな

「管理者の話しをしようとした僕を遮ったのは、起爆スイッチを押さないようにだったんだね。何事かと思ったよ」


 腕を組み、アマリアがため息を吐いている。

 リヒトとアルカは、何故か口を押えている。

 多分、余計なことを言わないようにだろうな。


『大変そうだねぇ~』

(「まったくだ。何でこんな目に合わなければならない。正直、マジで意味が分からん」)


 俺が何をしたというんだ。


 俺はただ、チート魔力で金儲けをし、ついでにカケルの封印を解こうとしているただの一般会社員――――じゃないんだったわ。


「はぁ……、どうすればいいんだよ……」

「術者を倒すか、方法を探すしかないね。現段階で言えることは、何も無いと思うよ」


 冷静に言うなよ、アマリアくん。

 もう、色んな物から逃げたい、目を背けたい、金に埋もれたい。


「遠い目をしても意味は無いと思うよ? 踏ん張り時かもね」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ……………………」

「今までにないほどのため息、お疲れ様」


 リヒトとアルカが何やらオロオロしている。

 無暗に言葉を発する事が出来ないから頑張って耐えているみたいだな、関心関心。


「…………口止め魔法って、アンヘル族皆が使えるのか?」

「全員が使えるわけじゃないよ〜。術者が様々な力を複合させ、魔力を込めて放ったんだろうねぇ〜」

「なるほどな……」


 アンヘル族の力に魔力を込めて、俺に放った。

 クロヌという存在、少し見えてきた気がする。


『まさか、クロヌという管理者が、アンヘル族の可能性とか考えてる?』

(「まぁな。だって、なんとなく、そんな気がしないか?」)

『僕には知識がないからわからないよ。ただ、まだ決めつけない方がいいという事だけは伝えておくね。変な先入観は、真実から遠のく枷となる』

(「わぁーってるよ」)


 さて、今後、どうやって動こうかしらねぇ~。

 

 悩んでいると、予想外な方向から意見が吹っ飛んできた。


「 おい、アンヘル族が関わってんなら、こいつらにフォーマメントに連れて行ってもらえば早くねぇか?」


 クラウドがあくびを零しながら、そんなことを言う。


「フォーマメントって、確かアンヘル族が住処としている所だったか?」

「そうだ」


 確かに、クロヌがアンヘル族だった場合、ほんの少しでも情報があるかもしれないな。


「んで、クラウドが指してんのは、アンジュ達だが、行けんのか?」

「人数を絞れば行けるよぉ〜。クラウド皇子が協力してくれるのなら、三人までは行けるはずぅ~」


 アンジュの問いかけに、クラウドは「あぁ?」と眉間に深い皺を刻み凄んできた。

 自分で言ったくせに、関わるのは嫌らしい。


「協力できそうですかぁ?」

「何を言ってやがる、んなもん無理に決まってんだろうが」

「おやぁ、それはなぜでしょう?」

「俺様は追放された身だぞ、戻れるわけねぇーだろうが」

「――――あっ」


 …………今の反応を見るに、普通に忘れていたな。俺も、正直忘れていた。


「追放設定がクラウドに装備されていたのを忘れてたなぁ」

「設定って言い方がなんとなく口に出さない方がいいような気がするけど、まぁいいか」


 アマリアがそんなこと言っているけど、それこそ、"まぁいい"というやつだ。


 クラウドが協力出来ないとなると、二人しかフォーマメントに行けないな。


『僕は行けるのかなぁ~。なんか、気になるぅ~』


 隣にいるグラースがそんなことを言っている。


 あー、確かに、幽体って数に含まれるのか? 聞いてみるか。


「なぁ」

「なぁに?」

「今、ここに幽霊が存在するんだが、そいつもフォーマメントに行きたいらしい。幽体は数に含まれるのか?」

「「幽霊??」」


 二人が顔を見合わせ、再度俺の方を向く。

 まぁ、そういう反応にもなるか。


「そうだ、ここにいるんだが……見えないから指さしても意味ねぇか」


 隣を指さすが、結局グラースの姿は見えないんだから意味はなかったな。


「え、その人、幽霊、なんですかぁ〜?」

「え、見えてんの?」

「はい〜」


 アンジュの焦点は、あってんな。

 完全にグラースを捉えてる。


 アンジェロは──見えているらしい。

 顔が真っ青だ。


「おそらく、魔力が関係しているのかもね。アンヘル族は、魔力を使って魔法を放つわけじゃないし、体に魔力そのものがないのかも。だから、見えているんじゃないかな」

「一理あるな」


 魔力が無くなった俺が見えているんだし、元々持っていないアンヘル族が見えていても、なんの不思議もない……か。


「うーん、でも、幽体……。どうなんでしょうかぁ〜 姉さんはどう思う〜?」

「…………」

「ん? 姉さん?」


 あ、あれ?

 アンジェロが顔を俯かせてしまった。

 どうしたんだろう?


 そういや、さっきも顔を青くしてたし……ま、まさか……。


「お前、幽霊怖いのか?」


 聞くと、今までツンツンしていたはずのアンジェロが素直に頷いた。

 顔を上げたかと思うと、な、涙、目??


「こ、こわい…………」


 ……………………普通の男なら一瞬にして恋に落ちそうな顔をしているな。

 この場にいる全員、女に興味ない男共だから誰も何も思わないけど。


『怖いのは仕方がないよ~。でも、今までは幽霊に気づかなかったのに、不思議だねぇ〜』

(「そういうもんだろ。人間だと思っていたら、実は死人でしたなんて。お前は生きている時、怖くなかったのか?」)


 聞くと、うーんと、考え込んじまった。


『僕は、生きた人間の方が怖かったかなぁ〜。だって、普通に殺しに来るんだもん。同じ人間を』

(「生きてきた環境の違いだろうな。だが、怖がるやつももちろんいる。そこはしっかりと理解してやってくれ」)

『わかった~』


 まぁ、俺も、理解はするが寄り添いはしない。

 今は、誰が幽霊に怖がっていようと関係ないからな。


「んで、結局幽体は、フォーマメントに連れていけんのか?」

「多分、大丈夫だとは思うよ〜? 多分ねぇ~」


 多分、が何よりも怖いんだが?


「それはその時の方がいいと思うよ。それで、どうする? 行く?」

「行く。それしかないだろう」


 だが、誰を連れて行く。


 一番はアマリアなんだが、今はロゼ姫と繋がっている。距離が離れすぎるし不可能。

 グレールだと、ロゼ姫がいないと不安定になるし、いつ戻るかわからない、危険だ。


「なぁ、俺、行きたいんだが、駄目か?」

「アルカ?」


 まさか、アルカ自ら挙手するなんて思ってなかったな。


「アルカ、何か気になるようなことがあるの?」

「いや、なんというか。行かなきゃなんない、みたいに感じて……」


 頭を掻いて、苦笑いを浮かべている。

 言葉では表せないが、感じるものがあるのか。


「なら、アルカ、一緒に行くか?」

「い、いいのか!?」


 めっちゃ、目を輝かしてくる。

 ま、眩しい……。


「現状だと、一番の適任かもね」

「そうだな」


 今回はアルカと共にフォーマメントに行く事となった。

 争いごとがないのだけを、ひたすらに祈って旅立ちます。


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