第360話 人に罰を与える存在が人なのも、正しいのかどうかわからない

 グレールとクラウドの戦いがなかなか終わらない。


 グレールはめんどくさいという空気感を纏っているけど、クラウドは楽しそうに光の刃を振るっている。


「終わらせなくていいの?」

「魔法が使えない俺には何も出来ない」

「あー……。やっぱり、魔法が使えないという現状って忘れるね」

「俺も」


 魔法が使えたらもうとっくに止めているわ、待っているのも疲れるから。


「――――icicleアイシクル


 っ、氷の柱。

 地面から突き出し、クラウドに襲い掛かる。


 すぐに体を捻ったり、跳んだりし避ける。

 影からグレールが氷の剣を握り、クラウドの死角から現れた。


 死角から、氷の剣を振るう。

 すぐにクラウドは気づき、光の刃を横に傾け受け止めた。


 でも、グレールの狙いはそこじゃないな。


「っ!? くっそが!!!」


 氷の柱がクラウドの足元から突き出した。

 足元のバランスが崩れ、その場にしりもちをつく。


 顔を上げるのと同時に、首元に剣を突きつけ勝負あり。


「――――ふぅ。発散しましたか? では、早く部屋に戻りましょう。チサト様が起きてしまいますよ」

「もう起きているから大丈夫だぞ」


 やっと声をかけるタイミングを見つけたから声をかけると、ゆっくりとこっちを見た。


「誰かの気配は感じましたが……。おはようございます。しっかり眠れましたか? 体に何か変化ありませんか?」

「少し体が重たいが、特にそれ以外はないぞ。クラウドの相手、お疲れさん」


 氷の剣と柱を消し、グレールが近寄ってきた。

 後ろではクラウドが立ちあがり、苦い顔を浮かべグレールを見ていた。


 負けた事が悔しいらしいな。

 だが、グレールに魔法を出させたんだから上出来じゃねぇか?


 それに、魔法を出させてからも粘っていたし、悔しがることないだろう。

 それを言っても機嫌を損ねるだけだから、言わんけど。


『言ってもいいような気はするけどねぇ~。楽しい試合だったよ?』

「お前はずっとみっ――はぁ、いきなり声をかけるのはやめてくれ、声に出しちまう……」

『えへへ、ごめんね?』


 またしてもアマリアから不審者を見るような目を向けられた。

 俺だって、口に出したくないよ。でも、口が勝手に動くんだから仕方がないでしょ。


(「それで、お前は大丈夫なのか? 体に変化とか」)

『ないよ~。しいて言うなら、少し体が軽いかなぁ? 気持ちが和らいだからかもしれない』

(「なるほどな」)


 人と話せるという安心感もあるかもしれないな、知らんけど。


「では、部屋に戻りましょう」

「へいへい」


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 部屋に戻り、アマリアが中心に座り、管理者について話し出してくれた。


「まず、管理者が設立されたところから話すね。管理者の始まりだよ」


 重たい所から始まるな。


「管理者は、クロヌが作り出したんだ。だが、一人ではと考え、ウズルイフを仲間に加えたらしい」

「まずそこから色々突っ込みたいんだが?」


 なぜ、ウズルイフを仲間にした。

 というか、何で管理者を作り出そうという思考になった?


「クロヌは、常に口にしていたんだ。この世界は理不尽が溢れている、平等にしなければならないと」

「平等?」

「うん。今、無理やり平等の世界が作り出されているでしょ? 良くも悪くも、管理者は相手がどんなに位が高い人でも、悪い事をすれば罰を食らわせる。逆に、スラム街やソフィアみたいな殺し屋も、信念が強く、人を保っているのなら放置。そんな世の中を作りたかったらしいよ」


 考える事はもっともだが……。


「それで、動き出したばかりのクロヌに最初近付いたのがウズルイフ。あの性格上、クロヌを利用して楽しもうと考えていたのかもしれないけど、あの人の本心は分からない。口から出る言葉全てが嘘で、本当。信じれば裏切られ、信じなくても、裏切られる。クロヌも相当手を焼いているらしいよ」


 お疲れ様、まったく同情しないけど。


「二人が設立した管理者と言う組織は、クロヌが化け物なだけあって、名前が広がるのが早かった。それでも、二人では限界があり、ウズルイフがまず、フィルムを誘った。そこから僕とフェアズ、クロ、アクアと……。どいつも、弱っているところに付け入るようなやり方で誘っているんだよね。あたかも、”自分が助けてやった”というように」


 アマリアは、そんな風に思っていたんだな。

 確かに、弱っているところに手を差し伸べられたら、助けられたと思い、恩を返そうと動いちまうか。ウズルイフが考えそうな魂胆だな。


 クロヌがどんな性格しているのか、さすがに現状ではわからないからそう思うのかもしれないけど。


「そこから仲間が増え、アクアという強敵を見せるため罰を目の集まる所で行った事で、”管理者には逆らってはいけない”と思わせた。それにより、この世界には管理者と言う名前が多くの人に伝わり、今のような形へと変貌していった」

「管理者が現れる前は、どうな感じなんだ?」


 聞くと、アマリアが目を伏せ、拳を軽く握る。


「管理者が出来た事で平等の世界が生まれた。それを踏まえて考えればわかるんじゃない?」

「あー、なるほど」


 不平等な世の中が広がっていたという事か。

 だが、それは現代社会で生きてきた俺からすると、当然な世界なんだよなぁ。


 部下は上司の言いなり、子供は親のおもちゃ。

 金を持っている者は栄光を勝ち取り、金がないものは泥を舐める生活を強いられる。


 理不尽だし、めんどくさいとも多々思った。

 でも、それを受け入れなければ、生きてはいけない。


 クロヌは、受け入れられなかった側も人間だったんだろうな。

 そういう奴もいるが、大抵身を亡ぼす結果になっているぞ。


「平等になった世界は、もちろん生きにくい人もいれば、生きやすい人もいる。僕は、それに感じては特に何もない。ただ、僕達だって、もとはただの人間なんだよ。人間が、人間に罰を与える権利があるのか。それが、僕にはわからなかった」


 緩く作っていた拳を強く握り、アマリアが苦し気に呟いた。


 人間が、人間に罰を与える。

 それは、確かに必要かもしれないが、管理者のやり方が正しいのかは、俺にもわからんな……。

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