第354話 良いのか悪いのかわからない可能性が浮上したぞ
次の日、昨日の出来事が夢であってほしいと思い静かに目を開けるが、夢ではなかった。
部屋の中には、アルカとリヒト、アマリアとクラウドと俺。
…………と、幽霊のグラースがニコニコ顔で隣に立っていた。
いや、浮いていた?
まぁ、どっちでもいいか。
「夢じゃなかったか」
『夢であってほしかったみたいだね、残念残念』
ケラケラ笑うな、くそ腹立つわ。
――――コンコン
苦笑いを浮かべていると、ドアをノックする音。
返事をすると中に入ってきたのは、昨日より顔色が良くなったロゼ姫とグレールだった。
「体調は大丈夫なのか?」
「まだ、魔力が吸い取られている感覚はあり体は重たいですが、昨日よりはマシになったかなと。ただ、これが長く続くとまた強制睡眠に入ってしまいます」
確かに、まだ苦しそうだな。
早く魔力をどうにかしねぇと……。
「それより、グレールから話は聞きました。今、この部屋にグラースさんがいると。事実なのでしょうか?」
…………いるぞ、お前の隣に。
グラースは、ロゼ姫が入ってきたのと同時に隣まで移動していた。
顔を覗き込み、ジィ~と見ている。
何か気になる事があるのか?
今のお前をそのまま伝えてもいいのか? 変態扱いされてもおかしくないぞ。
「あぁ、この部屋にいるぞ。とりあえずグラース、お前は何をしている」
『この人が兄さんのお姫様なんだと思って……。兄さんを拾った方の娘さんなんだと考えると、少しだけ興味が湧いちゃった』
「グレールを拾った人の娘さん?」
それは、一体どういうことだ?
俺が呟くと、グレールが慌てて俺の口を塞ぎやがった。
おい、俺の口を塞いでも意味は無いだろう。
まぁ、口を塞がらなければならない奴の姿が見えないのだから、仕方がないけど。
「少し、黙っていただいてもよろしいですか?」
「モゴモゴ」
「黙るつもりはないと?」
「…………」
なんとなく文句を言いたかっただけなのに、少し口を動かしただけで殺気を放たれた。解せぬ。
「私の話は今はどうでもいいです。それより、グラースは何か目的があってこの世をさ迷っていたわけではないんですよね?」
「………」
「あ、話していいですよ」
やっと手を放してくれた。
「目的については本人もわからないみたいだぞ。だから、この世にいる理由や未練があったりするかもしれないし、そうじゃないかもしれないらしい」
俺の説明であっているのか確認するため、いまだにロゼ姫の近くにいるグラースを見ると、小さく頷いた。あっていたらしい。
「…………そうですか」
「だから、今すぐにグラースをどうにかする事が出来ない代わりに、今は俺が口に出さなくてもグラースと意思疎通できる方法を考えてほしい」
独り言を呟いているおっさんは、本当に痛いからな。
「なるほど。今は何か一つでも、案は出ているのでしょうか」
「俺に取り憑かせる事らしい」
「…………リスクありですね」
「お前ならわかってくれると信じていたよ」
でも、それ以外はないんじゃないかという気持ちもある。
だって、魔法とかが使えたら方法はあるかもしれないけど、今は使えないし。
魔力があると、グラースを見る事が出来ないし……。
「…………あの、私達の会話は普通にグラースには聞こえているんですよね?」
「あぁ。今もロゼ姫の隣にいるからな」
言うと、グレールは首を痛めるんじゃないかというくらい勢いよく振り向いた。
目線の先には、目を丸くしているロゼ姫。
「わ、私の近くにいられるのですか?」
「右隣にいるぞ。ニコニコ顔で」
ロゼ姫が右隣を見るけど、何も見えないらしい。焦点が合っていない。
「…………いるのであれば構いません。グラース、貴方は取り憑いた方を危険に脅かそうなど考えていませんよね?」
目線は定まっていないが、グレールはロゼ姫の隣にグラースがいる事を信じ話しかけた。
『僕の意思では絶対にありえないね。でも、意思と反する事が影響する可能性があるから、何とも言えないかな』
今の言葉をそのままグレールに伝えると、何故か安心したように安堵の息を吐いた。
「まぁ、そうですよね。そこは安心しました」
「俺は安心してねぇよ。正直、意思で俺に何かしようと考えているのなら説得も出来たが、意思と反する影響があるのなら、何も出来ないしお手上げじゃねぇか」
安堵の息を吐いてんじゃねぇよ。
俺にとってはマイナスな条件だったぞ。
――――でも、結局今、戦闘に出れないからな。
少し体に影響があっても、そこまで困らなかったりするのか? いや、そんなことはないはず。私生活に影響が出るだろう。
…………怖いな。
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