第353話 どこまでも俺には災難しか降ってこないらしい

 これからどうすると言う話になり、落ち着いたグレールが提案した。


「色々気になる点もありますが、今まで立て続けに様々な事が起きていました。心身共に休暇が必要でしょう。なので、今日はこのまま寝ようと考えているのですが、グラースはなんと言っていますか?」


 横にいるグラースを見ると、笑顔で頷いていた。


「頷いているぞ」

「それなら良かったです。では、私はこれで。少々考えたい事もありますので、明日まで声をかけないでください」

「…………はい」


 笑み……笑みを浮かべていた。

 いやぁ、グラースと似ている素敵な笑みだったね。圧は全く違ったけど。


 殺気に似た何かを感じたよ。

 同じ顔で、ここまで違う笑みを浮かべるなんて思わなかったなぁ、ははっ……。


『兄さん、困惑してる。まだ……』

「まぁ、すぐに受け入れろって厳しいだろう。死んだと思い込んでいた弟が、いきなり現れたと聞いてんだから」


 死んでるんだけどな、幽体だし。


『そうだね…………』


 ……落ち込んでる。

 落ち込まれても、俺には何も出来ないぞ。


 俺以外に見えてないから他の奴らに助けを求める事も出来ないし、これは困ったなぁ……。


 つーか、なんで俺にしか見えないんだよ。見るための条件をいつの間にかクリアしちまったのか? 勘弁してくれ……。


「知里が一人で話しているように見えて、少し怖いね」

「うるさい」


 俺を変人みたいに扱うな。

 仕方がないだろう。俺だって、出来れば話したくない。


「なんか、いい方法はないのか? つーか、なんでいきなり俺の目に前に現れたんだよ」


 今までだって、何度も星屑の図書館に行っていた。

 それなのに、見えたのは今日。

 なんで、今日なんだ?


『何を言っているの? 僕、ずっと星屑の図書館にいたよ?』

「……え? ん?」

『それに、何度も君の前に立っていたよ? 気づかなかったのは君だよ』


 な、なんだと?

 そんなことあるのか?


 なら、なんで今、見る事が出来ているんだ?


「もしかして、魔力と関係があるのかな」

「魔力と?」


 まぁ、確かに今関係あるとしたら、魔力か。

 俺は今、魔力がない。今までの違いと言ったらそれしかないよな。


 でも、魔力が無くなって見えなくなるとかならわかるが、なんで見えるようになるんだ。


「よくわからんが、まぁ、見えるようになっちまったし、仕方がない。ただ、意思疎通は口に出す以外でやりてぇな」


 アマリアが言うように、傍から見たら俺が一人で話しているように見えちまうからな。それだけは避けたい、恥ずかしい。


「そうだね。僕も、独り言を呟いている人の隣は心臓に悪いし、普通に恥ずかしい」


 口に出すんじゃねぇよ、悲しいわ。


『でも、何か方法あるの?』

「そこなんだよなぁ。筆談もめんどくさいし、心の中で話せたら一番いいんだが……」


 難しいよなぁ、無理だよなぁ、はぁ……。

 アビリティみたいに意思疎通できればいいんだけど……。


『お呼びでしょうか』

「意図的に呼んだ訳ではないが、何かいい案はあるか?」


 指輪からアビリティ出現。

 アルカとリヒトは久しぶりのアビリティ出現に驚いている。

 アマリアも、平静を保っているが、肩をビクッとさせたの見えたからな。


『…………』

「ないんかい」

『方法が無いわけではありません』

「え、どうやるんだ?」


 もし、方法があるのなら、それはありがたい。


『取り憑かれればいいのです』

「お前は、俺に呪いにかかれと言っているのか?」


 嫌だよ、俺、取り憑かれるの。

 これは偏見だけど、肩が重くなったり、体がだるくなったりするんだろう?


 他にも体に不調が起きるみたいじゃないか、絶対に嫌だよ。


『他に方法はありません。あとは独り言を言っている自分を許すしか』

「それも嫌なんだが?」

『わがまま言える立場ですか?』


 え、なんで俺、怒られてるの?

 俺が悪いの? 絶対に俺、悪く無いでしょ。


『なるほど、確かに取り憑くことが出来れば意思疎通は簡単に出来るね』

「まさか、やろうとしているの? 嫌なんだけど? 体に不調が出始めたら、どう責任とってくれるの?」

『その言葉、逆に責任を取る事が出来れば、取り憑いてもいいって解釈できるけど、大丈夫かな?』

「駄目だが???」


 な、なに、これ。

 お、俺、マジで何をされるの?


「ねぇ、取り憑いてもらった方が良くない? 正直、普通に怖いよ?」

「本当に勘弁してよ、アマリア君…………」


 なんで、俺ばかりに災難が降り注ぐんだよ。

 勘弁してくれ、理不尽は管理者だけで十分なんだよ此畜生。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る