第351話 証拠を出しただけでなんで殺されそうにならないといけないんだ
え、な、え?
「誰って、ここにいる人だけど……」
グラースを指さすが、アマリアとリヒト、アルカは顔を見合わせるだけで首を傾げてしまった。
「えぇっと。疲れてる?」
「疲れてねぇけど?」
「なら、誰かの魔法にかかった?」
「かかるタイミングあったか?」
「ないね」
この反応。ま、まさかだが……。
グラースを見ると、ニコッと笑みを返される。
その視線を下にゆっくり下げると――――影が、ない。
目を丸くし足元を見ていると、やっとグラースは口を開いた。
『僕は、もう死んでいるの。だから、他の人には見えないよ』
………………………………え。
驚きすぎて距離を咄嗟にとっちまったが、こいつは表情一つ変えない。
ニコニコと、笑みを浮かべるだけ。
「…………アマリア、ここに、いるよな? グレールに似ている、一人の青年が。弟だってよ、なぁ」
おそらく、今の俺は顔面蒼白だろう。
アマリアに縋るが、意味は無かった。
「いないよ、知里。僕達には見えない」
…………もう、嫌だ。
※
城に戻り、グレールを呼ぶ。
ロゼ姫が心配だと言っていたが、今は眠っているだろう。
俺も、もう寝たい。
寝たいけど、グレールと話をしないと安心して寝れない。
だから、嫌がっているグレールを無理やり廊下へと連れ出しました。
「何ですか…………」
「不機嫌なところ悪いが、お前、弟とかいるか?」
聞くと、目を大きく開き、「えっ?」と、困惑の表情を浮かべた。
そんなグレールの隣に、フヨフヨと浮かぶグラース。
顔を伺うように覗き込むが、グレールの目には映っていないらしく目が合わない。
『…………兄さん…………』
おい……、悲しげに呟くな。
しょうがないだろう。だって、見えないんだから。
「ち、チサト様。な、何故その事を?」
「弟から聞いた」
「そ、そんな事ありえません!! だって、だって、弟は、グラースは…………私が…………」
????
私が? なんで、そこで"私が"という言葉が出る?
それだと、なんか、お前が殺したみたいな感じの文面にならないか?
『兄さんは、責任感が強いから、やっぱりそう思うよねぇ~』
「責任感が強いのは知っているが、どういうことだ?」
俺が急に話し出したからなのか、グレールはポカンと阿保面を浮かべた。
「あ、あの、壊れましたか?」
「ここにいるんだよ、お前の弟と名乗るグラースが」
「そ、そんな事ありえないですって!! 嘘ばかり言わないでください!」
顔が、青いな。
なんか、必死に何かを隠しているような気がする。
今までどのような展開が起こっても、冷静に対処していたグレールからすれば珍しい。
そこまで取り乱すほどに、何か兄弟の中で亀裂があったのか?
それにしては、グラースはニコニコしているだけだけど。
亀裂というより、グレールがすべてを背負い込んでいる感じっぽいな。
「えぇっと、何を言えばお前は信じてくれるんだ?」
「何を言っても信じませんよ。この場にグラースがいる訳がありませんので…………」
頑なだなぁ。
アルカとリヒトもどうすればいいのか、気まずそうに俺を見て来るし。
どうすればいいかなぁ。
「…………知里。弟は今、何かしているの?」
「今はグレールの隣でフヨフヨ浮いているよ。ニコニコ笑ってる」
「なにか、弟君しか知らない情報とか聞き出せるの?」
アマリアも疑いの目を向けてきてはいるけど、そんなことを言ってくれる。
「グラースしか知らない情報。何かあるか?」
聞くと、こっちに来て、耳打ちし始めた。
いや、他の奴に聞こえないんだから耳打ちしなくてもいいだろう。
………………………………。
「ブフッ!!!!」
「え、きもっ」
「アマリア、さすがに傷つく」
なんの前ぶりもなく笑った俺は確かに周りからしたらきもいかもしれないが、さすがに今のは傷つくぞ。
「えぇっと、グレール。お前、小さい頃魔法が上手く発動できず、がむしゃらに魔力を手に集めていたら自分を凍らせてしまったんだって?」
笑いを込み上げながらもなんとか耐え言うと、グレールは徐々に顔を赤くさせていった。
「な、な…………」
「これでわかったか? ここには、お前の弟がいるんだ。さすがに信じるだろう?」
…………あ、あれ?
なんか、グレールの身体、震えてないか。
「…………ふぅ、わかりました」
『あっ、兄さん、怒ったかも』
え、怒った?
あ、あれ? なんで俺の足元、凍り付いているの?
なんで、俺の足は氷で動けなくなっているの?
「――――記憶を抹消させていただきますね。物理的に」
……………………なんで俺は、こんなにも運が悪いんだ。
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