第349話 すっかり忘れていたが、このまま忘れていたかった感
俺の持っている魔導書の主な特徴は、持っているだけで魔力を蓄えられる。
それと、魔導書に魔法を印字し、魔法を出す手伝いをしてくれていた優れもの。
だが、今はもう魔法を放つのは魔導書を使わなくても瞬時にできるようになっていた。
これは、本当にいつの間に。
俺も頑張って来たんだなぁ~。
「持っているだけで魔力を蓄えられる…………か。グレール、魔力を借りてもいい?」
アマリアがロゼ姫を支えているグレールに声をかけた。
でも、いつものようにすぐ動こうとしない。
眉を下げ、どうしようか悩んでいる様子。
まぁ、悩むわな。
だって、ロゼ姫からほんの少しでも離れたくないもんな。
なんなら、肩を支えている手を離したくないんじゃないか?
少しでも離れてしまえば発狂しない? 大丈夫?
「グレール、行きなさい」
「…………わかり、ました」
……渋々だなぁ。
アマリアはわかっていたのか、表情が変わらない。
近くに来たグレールが手を差し出してくる。
魔導書を渡せと言う事だな、へいへい。
素直に渡すと、空いている方の手を表紙にかざし始めた。
水色の光が魔導書に照らされる。
だが、光るだけで変化はない。
吸い込まれているのなら揺れるとか、なにか変化があってもいいような気がするけど……。
「――――魔力、おそらく入り込んではいませんね」
「やっぱり、持ち歩かないと駄目という事か」
「だと思います」
まぁ、わかってはいた。
「なら、この魔導書はもう使えんか…………」
高かったからダメージがでかいぞ。
仕方がないとはいえ、ウズルイフ許すまじ。
「ソフィア様がどのような判断をするかにかかってきそうですね」
「なんでだ?」
「ソフィア様が今の事態に一番慣れているお方だからです。我々も管理者と戦ってきたとはいえ、経験は浅い。それに比べ、元殺し屋であるソフィア様は今回のような事態は慣れているでしょう。先ほども冷静に判断され、指示を出していました。打開策が出るまで待ちましょう」
言いながらグレールがロゼ姫の元に戻っていく。
そのまま部屋を出ようとしたが、ロゼ姫が止めた。
「あの、アマリア様」
「なに?」
「距離は、どこまでが限界なのでしょうか」
あぁ、アマリアと離れられなくなったもんな、ロゼ姫。
確かに距離は気になるか。
「知里と同じだった場合、オスクリタ海底内ならどこまで行っても大丈夫だよ。ただ、魔力量が関係あるのなら、予測出来ないかな」
「わかりました。危険の場合は、体に変化があるのでしょうか」
「多分あると思うよ。それで距離を測っていたしね」
横目でこっちを見られても……。
「わかりました。では、私はひとまず部屋に戻ります。何かございましたらお声かけください」
そのままグレールの肩を借りて、二人は部屋から居なくなる。
残ったのは、さっきからずっと話さないリヒトとアルカ。
まだ落ち込んでいるアンキとクラウド。
あとは、俺とアマリア。
この、微妙な時間って、どうすればいいんだろう。
寝るにはさすがに早いし、魔力がないから修行も出来やしない
アマリアが巻き込まれたことで、リヒトも修行に集中出来ないだろう。
アルカも、グレールがロゼ姫につきっきり。
クラウドは…………マイぺースだなぁ。
我関せず、壁に寄りかかり寝ている。
よく、寝れるなぁ。マジですげぇ。
「…………兄ちゃん」
「あ? なんだ?」
落ち込んでいたアンキが、やっと立ち直ったのか顔を上げた。
「体の方は特に違和感はない感じっすか?」
「そうだな、魔力以外は特に変わらん。気分も悪くない」
「なら、一つ聞いてもいっすか?」
「なんだ?」
改めて聞かれると、なんとなく怖いんだけど。
何を聞かれるの、俺。
「どうして、星屑の図書館の従業員出入り口にいたっすか? 何か用事でもあったんすか?」
「………………………………あっ」
やっべ、すっかり忘れてた。
まぁ、でも、多分そこまで俺に執着もしてなかっただろうし、アシャーも忘れているだろうな。
あえて俺が行かなくてもいいような気はするし、このまま何事もなかったように過ごそうか。
「なんでもねぇよ。なんとなく居ただけだ」
「何かやましい事でもあるんすか~?」
「うるせぇよ。巻き込まれそうになったところ、ギリギリで躱した感じだ」
言うと、今度はアマリアからの視線。
これ、説明しないといけない感じか?
…………めんどくせぇー。
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