第348話 どんどん悪い方向に向かっているような気がする

「何か言う事」

「俺が悪いの?」

「うん」

「絶対に謝らないからな」

「えぇ、酷い」


 アマリアが額を摩ってそんなことを言ってきた。

 俺も額を摩ってアマリアを見る。


 今回は、心配で顔を覗き込んでいただけだ。

 覗き込んでいるところに、アマリアが突っ込んできただけだ。俺は悪く無い。


「…………体、重たい。何が起きたの」

「俺からロゼ姫に魔力の供給を移したんだ。重たいのは、魔力が十分に回っていないからだろう」

「…………え」


 おっ、首、大丈夫か? 

 すごい勢いでロゼ姫の方向いたけど。


「…………何が起きたの」

「俺の魔力がなくなった」

「枯渇したって事? でも、寝てないよね」

「枯渇じゃねぇ。吸い取られたというか、なくなったというか。俺の体内にあった魔力という物が消滅したんだ」


 何と説明すればいいのかわからんが、こんな感じだろう。


 アマリアならわかってくれるだろうし、もしかしたら何かを思い出してくれるかもしれない。


「……………………クロヌの仕業だ」

「やっぱりなにか思い出してくれた」

「え」

「ナンデモアリマセン」


 口に出ちまった。

 だって、本当に思い出してくれるなんて思わなかったんだもん。


「クロヌって、管理者の中で一番やべぇ奴だっけか」

「そうだよ。アクアと裏路地でやりあっていた時、最後回収したおっさんいたでしょ? そいつだよ」


 いや、おっさんかどうかは黒いローブでわからんかったんだが?

 声は確かにじじぃだったが……。


「本当にそのクロヌって奴、何でもアリだな」

「なんでもありなんだよ、本当に。何が出来ないのか僕にはわからない」


 なんでも出来るなんて、そんなことあるわけないだろう。

 そのように見せているだけ、絶対に弱点はあるし出来ないこともある。


「――――ま、待てよ? まさか、俺。その、クロヌという奴を倒さない限り、魔力が戻ってこないとか…………ない、よな?」

「それはないとは言いきれないけど、でも、大丈夫じゃないかな」


 え、なんで?


「こんな事、クロヌが自らやるなんて考えられない。こんなことをしなくても、普通に殺せばいいだけだからね」

「…………ウズルイフか」

「可能性としては、一番濃厚かな」


 最悪、もう動き出してんのかよ。

 せっかく、ソフィアに魔法を強くしてもらったのに、これだと意味ねぇじゃねぇか。


「クロヌを相手にするなら、絶対に知里は必要不可欠。でも、ウズルイフなら、アルカとグレールがいれば…………まぁ、多分」

「難しくねぇか? だって、戦闘が苦手と言っても、時魔法は相当厄介だ。魔力を上回る以外の解決策なんてないだろう」


 以前、少しだけ戦闘を行ったが、時魔法はマジで苦戦した。

 俺の放った魔法は全て時を止められ、相殺される。


 あれは、魔力量が多ければ余裕だけど、同等とかだったら勝てねぇだろうが。


「戦闘が始まってしまったらそうかもしれないね。始まったら、だけど」


 なんか、アマリア、嫌な顔をしている。

 これは、厭らしいことを考えているな。


「えぇっと、何を企んでいるんだ…………?」

「目には目を、歯には歯を。トラップにはトラップを――とか?」


 う、うわぁ。

 怖い、普通に怖い。


 なんで、普段笑わない奴が笑うだけでここまで恐怖を感じるのだろうか。

 なんで、ここまで冷や汗が流れるのだろうか。


「でも、相手の方が一枚上手だから、うまくいく保証はない。少しでも保険は多い方がいいし、今のうちに色々話しておくよ。結局、管理者について深く話せていないわけだし」


 確かにそうだな。

 だが…………。


「でも、今すぐじゃないよ。僕も疲れているし、ロゼに悪い。だけれど、本当に困ったね。何か打開策はないだろうか」


 ロゼ姫はだいぶ落ち着いてはきた。

 後は、夜寝れば明日には回復しているかな。


 アンキは「ソフィアさぁ~ん」となぜが嘆いている。

 魔導書について調べているとは思っているんだけど、どのくらいかかるんだろうか。


 あと、俺の血についても、完全には調べ切れていないと言っていた。

 相当、時間かかるだろうな。


「…………ねぇ、その魔導書、他の人の魔力をロゼに送るとかは出来ないの? 罪悪感半端ないんだけど」

「俺には感じていたんか、その罪悪感」

「感じる必要ある?」

「…………」


 なんで、そんなに俺に対してみんな当たりが強いんだよ。

 俺だって感情があるんだぞ。悲しいぞ。


 おじさんが涙を流すところみたいのか?

 見たくないだろう? もっと俺に優しくしてくれよ。

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