第347話 苦労人というのはどこにでもいるんだな

「準備は、いいか?」


 ソフィアに聞かれ、ロゼ姫と頷き合う。


「なら、始めろ」

「へいへい。準備はいいか、リンク」


 リンクも緊張しているみたいだが、頷いてくれた。

 魔導書の中に入っている残りかす程度の魔力。それを全てリンクに送る。


『私もお手伝いいたします』

「え、アビリティ?」


 あっ、魔力がスムーズにリンクに送られる。

 リンクの身体が光り出した。


『アマリア様と主の接続を解除します』


 リンクが唱えると、体がフワッと軽くなる。

 解除、された。


『再度、ロゼ姫に接続いたします』


 同時に、ロゼ姫の顔が固くなる。接続されたらしい。


「こ、これは結構、吸い取られますね…………」

「大丈夫ですか、ロゼ姫」


 体から力が抜けたロゼ姫の肩を掴み、優しく支えるグレール。

 辛そうだな。俺は特に何も感じなかったけど。


「今はバラバラ野郎の魔力が枯渇されていたんだろう。体内に輸出している状態だ、耐えろ」


 ソフィアの言い方にグレールが睨むが、すぐにロゼ姫が止めた。


「わかっております。このくらい、出来なければ…………」


 大量の汗、相当きついらしい。

 俺、本当に魔力に恵まれていたんだな。


 今まで無駄に多くの魔力を使っていたから枯渇しちまっていたのが再認識された気分。


「すぐ魔道具は使えなくなる。アンキ、お前の魔力も与えてやれ」

「了解っす~」


 アンキがロゼ姫に近付くと、雫に触れた。

 すると光り出し、魔力が送られる。


 アンキの表情は変わらない、余裕そうに笑みを浮かべていた。慣れているっぽいな。


 二人分の魔力を送られ続けたアマリアだが、目を覚ます気配はない。


 時間がかかるのは仕方がない。

 今日中に目覚めない可能性の方が高いだろうし、待つしかない。


「おい」

「ん? なんだ?」


 ソフィアが急に声をかけてきた、なんだ?


「バラバラ野郎には、常に魔力を送っている状態だったのか?」

「そうだな」

「こいつが魔法を放つ時は、お前の魔力を利用してか?」

「そうだ」

「相当なバケモンだな」

「チート魔力所持者なんで」

「それにかまけていたらしいな」

「うるせぇ」


 なんで、そこで俺を落す。

 そんなもん、言われなくてもわかってるっつーの。頼むから、俺の心を抉るな。


「まぁ、ここからはこいつらに任せるしかない。次に、お前の方だ。その魔導書、まだ持っていて正解だったらしいな」

「だな。だが、これは持っていると魔力が自然と蓄えられるものだ。あの魔道具のように送る事が出来るかわからん」


 言うと、ソフィアが何か思いついたのか、ハッとなる。

 な、なにか、嫌な予感。


「前にタッグバトルでもらった賞金の魔導書、覚えているか?」

「あ、あぁ。確かにもらったな。俺は今の魔導書が使いやすいから興味なく、今は放置されているけど」


 部屋にあるテーブルの上に置きっぱなしだったはず。


 アマリアが寝ているベッドの脇に置いてあるテーブルを見ると、誰も触れていないからずっとオブジェの役割を果たしてくれていた魔導書を発見。


 手に取りソフィアに渡すと「借りる」とだけを言い、部屋から出て行った。


 な、なんだ?


 アンキもすぐに向かうと思ったが、その場から動かない。けど、視線だけは追っている。

 行きたいらしいな、ムズムズしているぞ。


「……はぁ、ソフィアさん。本当に自由過ぎるっす……。俺っちの事も連れて行ってほしいっすよぉ~」

「行かない理由は、やっぱり魔力か?」

「俺っちを指したという事は、ここにいろと言う無言の意思表示っす。一人で調べ物がしたいんだと思うっすよ」


 深い溜息を吐いている。

 なんか、こいつも大変そうだな。


「すぐに戻ってきてはくれるのだろうか……」


 不安だが、今は待つしか出来ない。

 まさか、俺の魔力がなくなっただけで、ここまで影響があるなんて思わんかった。


「大丈夫ですか、ロゼ姫」

「はい、大丈夫ですよ。はぁ……。今は、だいぶ落ち着いてきました」


 幾分か顔色は良くなったか。

 一気に吸い取られていたみたいだが、今はだいぶ落ち着いたらしい。

 アマリアの体に魔力が蓄えられた証拠だろう。


「――――んっ」

「おっ、アマリア?」


 ベッドから声。

 近付くと、眉間に皺を寄せ身じろぎしていた。もう少しで起きるか。


 待っていると、目を覚ました。

 左右非対称の目を視線が合う。


「……………………知里!!」


 ――――ゴツン!!


 ……………………額に、強い衝撃を受けました、痛い。

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