第346話 最悪な事態になっちまった

 最悪だ、俺の魔力が消えた……。


「チサト様の魔力が消えたのは、予想外ですね。今後に大きく関わってしまう」

「そうね。アマリアさんもチサトさんの魔力が無いため、気を失ったのかも。精霊はいかがでしょうか」


 ――――あっ、そうだ。

 確かに、精霊はどうなっちまうのか。


「リンク、スピリト、出てこい」


 言うと、うっすらと姿を現した二体。

 少し弱っている、魔力が足りないのか。


「まずいな。このままだと、精霊もアマリアも、どちらも失う」


 でも、今すぐにどうにか出来る訳じゃないし、どうしたものか……。


「…………そうだ」


 魔導書。

 魔導書の魔力をひとまず精霊に送ろう。


 ソフィアに使わなくてもいいと言われてからは、使っていない。部屋の端に置いている。


 立てかけられていた魔導書を手に取り、魔力が残っているか確認。


 感知、できるな。

 やっぱり、俺の体内にあった魔力だけが取られた感じか。


 精霊に魔力を送ると、少し元気になった。


「だが、すぐに魔力は無くなる。魔力を…………」


 そう言えば、ソフィアからもらったピアス。

 これは確か、他の奴の魔力をこの雫状のピアスに込める事が出来るはず。


 魔法を放つには他の魔道具が必要らしいが、俺と契約している精霊に送る分には問題はないはずだ。


「なぁ、誰でもいい、このピアスに魔力を――」


 ――――ガチャ


 扉が開かれた。

 そこには、汗を流しながら立っているソフィア。


 あ、汗を流し? 少し息も荒いし、な、何があった?


「ソフィア……」

「まだ完全に調べられていない。だが、少しだけでも危険だという事はわかったから一度戻ってきた」


 言うと、ソフィアが中に入ってくる。

 後ろをアンキが付いて来る。


「あー、影響が出ているんすね」

「らしい。バラバラ野郎の影響が一番かと思っていたが、まさか、精霊まで持っていたなんてな」


 言いながらベッドで横になっているアマリアに近付いて行く。


「おい、何を考えてる?」

「まず、バラバラ野郎をどうにかしねぇと、命があぶねぇだろうと思ってな」


 命、か。

 アマリアは今、俺の魔力で生き長らえている状態。

 俺の魔力がなくなってしまえば、アマリアの命もなくなる、当然の流れだ。


「どうするつもりだ?」

「俺は詳しくわからん。呪いで見ただけだからな。だから、教えろ。こいつは、どうやって魔力を工面していた? どのように黒髪からバラバラ野郎に魔力を送っていた」


 そういや、そこまで詳しく話したことなかったな。

 話すきっかけもなかったし、当たり前だけど。


「アマリアの心臓部分に、特別製の魔法石を入れ込み供給しているんだ。リンクの魔法を使ってな」


 今は送る魔力も、リンクの魔法を発動させることも出来ないけどな。

 酸素を失った状態、苦しいのは当然だ。


「なら、リンクが使う魔法を他の奴に接続すれば、特に問題はないという事か?」

「そんなこと、できるのか?」

「出来るかは知らん。だが、今のままだと魔力不足で確実に死ぬ。その魔道具も、そこまで多くの魔力を蓄えられるわけじゃねぇんだ。精霊二体と、人一人を支える魔力何て無理だ」


 こんなに小さいのだから当然か。


「結局、何もしなければ死ぬ。なら、可能性に賭けるしかないだろう」

「…………わかった。何をすればいい」

「まず、魔力をその雫に送れ。誰でもいい」


 言った時、一番最初に手を上げたのはアルカだった。


「俺の魔力でも大丈夫なら、使ってくれ!」

「わかった。なら、黒髪から魔道具を受け取れ」


 言われた通り、アルカに魔道具を渡す。


「そんで、魔法を放つ時と同じで、魔力を持っている手に意識を集中しろ。吸い取られる感覚があるはずだが、慌てるなよ。満タンになれば自然と止まる」


 わかったというように頷き、アルカは深呼吸。

 眉を吊り上げ、魔力を込め始めた。


 一瞬、ピクッと片眉を上げたが、すぐに冷静を取り戻し魔力を送り続ける。


 数秒、アルカは汗を流しつつも、吸い取られる感覚がなくなったらしく息を吐いた。


 タイミングを見計らい、ソフィアは手を伸ばす。


「くれ」

「あ、あぁ」


 アルカが渡すと、ソフィアが外套に手を入れる。すると、何かを取り出した。

 それは、指輪。


「指輪?」

「これがないと、この中に入れた魔力を使う事が出来ない。んで、これを使うのは、これからバラバラ野郎の魔力管理が出来る奴になる。この中で、一番魔力があるのは誰だ」


 部屋を見回すが、誰も手を上げない。


「おい、誰なんだ」

「まぁ、待てって。さすがに魔力を適切に計算できていないから誰も手を上げる事が出来ないんだ」

「なら、誰でもいい。時間はないぞ」


 わかってはいるが、誰に頼めばいい。


 アマリアの身体に魔力を送り続けるから、少ない奴からはとてもじゃないが無理だ。すぐに強制睡眠にはいっちまう。

 中途半端だと、戦闘には参加できなくなるだろう。


 そうなると、グレールとアルカは避けたい。

 最悪、俺が戦闘に出られなくても、この二人がいれば戦闘自体は問題ないだろう。


 そうなると、リヒトかロゼ姫になる。

 二人の魔力は普通。アマリアに送るだけの量があるのか……。


「それなら、私が魔力を提供します」

「いいのか? ロゼ姫」


 一番最初に手を上げたのは、ロゼ姫だった。

 リヒトも手を上げようとしていたけど、僅差だったな。


「この中では、私が適切でしょう。チサトさんが戦闘に参加できない今、アルカさんとグレールは万全な状態でいていただきたいです。リヒトさんも、唯一のアシスト魔法持ちなため、戦闘には必須でしょう。それなら、私が受け持ちます」


 しっかりと分析しての挙手だったらしい。

 グレールが何か言いたげにしているが、理屈を理解している分、何も言えない。


「わかった。なら、これを持て」

「わかりました」


 素直に指輪を受け取ったロゼ姫。すぐに次の指示を聞く。


「それじゃ、黒髪は精霊に接続解除と、再接続の指示。姫は少しでも魔力が吸われたと思った直後に、魔道具の魔力を体に取り入れろ。自然と指輪が反応し、魔力を出力する」


 そういうシステムだったのか、知らんかった。

 ………………………………が、頑張ろう。

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