第345話 こんな状況、マジであり得ないんだけど

 アシャーには悪いが、話を切りあげさせてもらい、城の裏へ走る。

 そこにはロゼ姫がいた。


 それと、苦し気に胸を押さえ地面に四つん這いになっているアマリアの姿。


「アマリア! 何があった!!」


 俺が来たことで、ロゼ姫は顔を上げ、青い顔を向ける。


「チサトさん………」

「ロゼ姫、何があったんだ。というか、リヒト、何があった。なんで……」


 後ろで服を掴み立っているリヒトに聞くが、困惑の表情を浮かべるだけ。


「わからないんです。指示通り、私は魔法華に魔力を送り、育てていただけなんです」

「い、色々聞きたいが、今はいい。だったら、いったい…………」


 まさか、俺が足を掴まれたのと何か関係あるのか?


「ち、ちさ、と」

「な、なんだ、アマリア」


 苦し紛れに俺の名前を呼ぶアマリア。

 耳を傾けると、急に服を掴まれ引き寄せられた!?


「なっ――――」

「なにを、っ、した」


 な、何をしたって、何もしてねぇよ、俺自身……。


「何をしたとかは、ないが……。されたと言えば、されたことはある」

「なにを……」

「足を、掴まれた。その時、何かを仕掛けられたのは確実だ」


 言うと、アマリアが服を離し、地面に倒れ込む。


「アマリア!?」

「ごめん、限界…………」


 げん、かい?


「っ。アマリア? アマリア!!!」


 気を、失っちまった……。


 ※


 部屋に戻り、ベッドに眠らせる。


 意識を失う事なんて今まで無かったのに。

 確か、痛感とかもないんだよな? なんで、倒れた、何があった。


 わからない。

 アマリアに影響のあることを、俺がされたのはそうなんだろうけど。


 ……そういや、管理者にいた時は、アマリアがウズルイフに狙われていたんだっけか。

 また、狙いをアマリアに変えたのか?


 それとも、アマリアを狙う事で、俺を動揺させ、心を壊そうとしているのか?

 わからないが、こんなことをするのはウズルイフくらいだろう。


 なんだよ、くっそ。


「カガミヤ!」


 アルカとグレール、クラウドが戻ってきた。

 リヒトが呼びに行ってくれていたらしい。


「何があったんだよ」

「わからん。いや、要因はわかるが、原因がわからない」

「要因?」


 アルカに簡単に説明すると、顔は真っ青。横に垂らしている拳を震わせている。


「な、なんだよそれ。一体、何が…………」

「わからん。だが、ソフィアが今調べてくれているはずだから、それを待つしかないだろうな」


 アマリア、まだ苦しそう。

 アシスト魔法でどうにか出来ないのか……。


「どうすればいいんだ……」


 接続を切る? いや、そんなの本末転倒だ。

 今は、やっぱりソフィアを待つしか出来ない。


 でも、血で何か分かるのか?


「あの、魔力の供給でアマリア様は生き長らえているんですよね?」

「え、あ、あぁ……」


 なんだ、グレールが深刻そうに…………。


「チサト様、魔法、使えますか?」


 え、魔法?


「使えるに決まってんだろ。今日だって、普通に使っていたし………」


 グレールは何を言っている。

 焦りもあり働かない頭で言うと、今度はクラウドが口を開いた。


「魔力で生き長らえていたっつーことは、逆に考えれば魔力さえあれば問題ねぇーという事じゃねぇの」

「そ、うだが…………」


 今まではそうだった。

 苦しがっていたのは、クロヌが現れ精神的ダメージを食らった時のみ。


「それなら、おめぇの魔力に何か変化があったから苦しんでいるんじゃねぇの?」

「っ、試してみる」


 まさか、まさか、だろ?

 そんな、でも、嫌な予感が頭を走り、確かめずにはいられない。


 手のひらを上に向け、flameフレイムを発動。


 ――――だが。


「っ! flameフレイムが出ない!!」


 何度も何度もflameフレイムを唱え、魔力を集中するのに出てくれない。

 というか、自分の中に流れているはずの魔力を感じない。


 …………体に流れているはずの魔力も、感じない。


「――――俺の中の魔力が、消えた?」


 ※


「ヒュー、これは面白い。こんな事も出来るのかよぉ~。

「はぁ……。ウズルイフ」

「わかっておりますってクロヌ様~。これは、大事に俺様が保管しておきますよぉ~」


 ウズルイフとクロヌは、会議を行う時によく使われる青空の間で、一つの水晶を片手に話していた。


 ウズルイフの手には、拳くらいの大きな水晶。

 色は赤と青。中で勾玉のように二つに分けられていた。


「まさか、相手の魔力を吸い取る事が出来るなんて。さすがに知らなかったんですけどぉ~?」

「使う機会がなかったからな。魔力を吸い取るより、ワシが自ら手をかけた方が早い」

「クロヌ様が動く時に限り、ですよねぇ~」

「あぁ」


 クロヌはそれだけ答えると、振り向き歩き出す。


「気を付けるんだぞ。完全に魔力を抜き取ったわけではない。あやつが自身の中に残っている魔力を増幅させれば、水晶は壊れ、持ち主の元へと戻る。それまでに始末をしておけ」

「了解了解」


 手を振り見送り、ウズルイフはまた手元にある水晶を見た。


「一番自慢していた魔力を抜き取られ、知里はどれだけショックを受けるのか。アマリアも道連れに出来たのは好都合」


 にやぁと、白いギザ歯を見せ、厭らしく笑う。


「さぁ、また動き出すぞ。俺様を楽しませやがれ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る