第340話 深く聞いてはいけない時もあるよな

 格技場まで移動すると、いるのはアルカとクラウド、グレールの三人。

 見ている限り、魔法を使わないでの模擬戦をしていると思われる。


 今は、グレールが監修を務め、クラウドとアルカが模擬戦をしていた。

 クラウドは光の刃を武器にしているが、アルカは自身の剣を使用し、魔法を使っていない。


 剣と刃の重なりあう音が響く格技場、なんか、いいな。


「――――おや。いかがいたしましたか?」


 おっ、グレールに気づかれた。


「やほ~、少し気になってな。今は模擬戦中か? グレールが相手する訳じゃないんだな」

「はい。私が混ざる時もありますが、基本は二人が戦っています。大体はアルカ様が負けていますが」


 実力は高いもんな、クラウド。

 アルカも強いが、まだまだ発展途上、これからの若者だ。


「一応聞くが、クラウド、噛みつかないか?」

「最初は噛みついてきましたが、凍らせた後に黙らせ、今はアルカ様との戦闘を楽しんでいますよ」


 ……………………なにも聞かなかったことにするか。


 ――――カラン


 おっ、勝負がついたみたいだな。

 アルカが剣を落し、クラウドがアルカの喉元に刃を突き立てている。


「勝負は終わりです」


 グレールが言うと、二人は俺に気づく。

 目を微かに開いたかと思うと、すぐに駆け寄ってきた。


「やほ~」

「カガミヤ!! 修行はどうしたんだ?」

「なんか、今日は早くに終わっちまった」

「えっ」


 …………驚いてんな。

 まぁ、あんな強引に長い模擬戦させてたのに、こんなすぐに終わる日があるなんて誰も思わないよな。


「体の調子がわりぃのか?」

「まさか、クラウドからそんな言葉が出るとは思わなかったぞ? 熱か?」

「別に…………」


 あ、視線がグレールに向いている。

 完全に手懐けやがったな……すげぇ。


「心配するような事じゃねぇよ。一度気絶させられただけだ。ただ、それをソフィアが怪訝しているみたいで、今日は休むことになった」

「なるほど…………。確かに、それはいい判断ですね」


 俺的には助かった半分、もう少しやりたかった半分なんだけど。

 感覚を忘れたくないし、今日のうちに体に染み込ませたかった。


「修行内容は、ずっと模擬戦か?」

「はい。魔法を使わない模擬戦です。アルカ様の場合は、魔法頼りにするより、身体能力を生かした戦闘方法の方がよろしいかと思いまして。それと、クラウドは魔法という概念がないため、お互いにとっていいのです」


 色々考えてんだなぁ。

 受ける方は指示に従うだけだから、応える事だけを考えればいいが、する方は、色々相手のこと見定め、一番効率の良い方法を考えなければならないのか。


 俺、受ける方で良かったぁ。

 絶対に自分の力になるし、自分の事以外考えなくていい。


「それにしても、アルカ様は本当に優秀です。チサト様より身体能力高いですし、感覚が鋭いです」

「それは俺も思うが、何であえて俺と比べた?」


 おい、顔を背けるな、なんだよ。

 グレール、やっぱり俺の事嫌いだろう。おい、こっちを向け。


「ただ、頭で考えてしまうと穴が生まれてしまいますね。頭は一切使わず戦闘をしないとアルカ様の本領を発揮できない。ある意味、凄すぎます」

「感覚に頼り過ぎだろう、アルカ……」


 首を傾げているアルカ、クラウドは欠伸を零しそっぽを向いている。


「ですが、だからこそ私にも新しい発見があり、楽しいですよ」

「楽しい?」

「えぇ」


 笑っているわけではないが、確かに心なしか楽しそう。

 ワクワクというか、ウキウキというか。

 なんか、楽しそう。


「アルカとクラウドは、何か変わってきたか?」

「クラウドの動きは俊敏で無駄がないため、アルカ様も真似をしようと、今四苦八苦しています。新しい事をしようとしている為、今は大きな変化はありませんよ。これからですね」

「なるほど。これからに期待という事か」


 まぁ、アルカだもんな、俺も期待しているぞ。


「なので、これからも二人には模擬戦をして頂こうと思っております。その方が、二人の為でしょうから」

「確かに、掴めそうなものがあるのなら、継続した方がいいよな。頑張れよ」

「はい。がん、ば、ります。頑張るのは私ではない、の、ですが……。ですが……」


 あ、あれ? な、なんだ?

 なんか、異様な空気になっているぞ?


 あ、あれ? なんか、体震えてねぇか? だ、大丈夫か?

 俺より、お前の方が体調悪いんじゃないか?


「ロゼ姫にしばらくお会いできていないのです。な、何故なのでしょうか。なぜ私はロゼ姫に会えないのでしょうか。まさか、避けられている? そ、そんなことはありません。私がロゼ姫に嫌われるなど、今まで何を捨ててきてもロゼ姫だけを考えていたというのに。なぜ…………」


 …………深く聞かないでおこう。


「任せたぞ、アルカ」

「あ、あぁ…………」


 さて、俺はリヒトの方に行くか。

 アマリアの気配を探れば簡単に見つけられるだろう。


 んじゃ、おじゃましましたぁ~。

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