第339話 こんなに早く修行を切り上げられるとは思っていなかった

「――――ん、あ、あれ?」

「起きたか?」


 空が深海、魚が泳いでる。

 隣にはソフィアは片膝を突き座り、何故かアンキの頭には三段のたんこぶ。


 俺は、訓練場のシールドの中で寝ていたらしい。


「…………まず、質問」

「なんだ」

「なんで、アンキの頭に三段たんこぶ出来上がってんだ?」

「俺は、気絶させろという指示は出していない」


 あ、あぁ。俺を気絶させたからか。


「これで時間は大幅にロスした」

「そんなに俺は寝ていたのか?」

「一時間弱。その時間があれば、他にも色々出来ただろう」


 なんか、俺も責められているような気がするんだが?


 えぇっと、なんで俺、気絶したんだっけ?

 …………あぁ、思い出した。


 アンキに黒煙の中、新flameフレイムを繰り出したんだった。

 だが、アンキは足音一つさせず、気配すら悟らせず俺の後ろへと回った。


 そこで一発喰らって、俺は終わったんだったな。


「くっそ、今回はイケると思ったんだけどなぁ」


 背中を伸ばしているとソフィアが立ちあがり、土を払いながら横目を向けてきた。


「今回のは、良かった」

「え?」


 え、良かった?

 良かったって、褒め言葉?

 褒め言葉であってるっけ?


 あれ、じ、辞書が欲しい。


「悪くなかった。それに、二つのflameフレイムをうまく使いこなせていた。昨日より格段に技が磨かれていたが、なにがあった?」

「あー、昨日、ヒントを貰ってな」

「? ヒント?」

「あぁ」


 まさか、アマリアの言葉でここまで変わるなんて思っていなかった。

 意識一つでここまでとは…………。


 いや、今までは無駄に肩に力が入っていただけ。

 肩の力が抜ければ、ここまでの事が出来るという事だ。


「魔法って、面白いかもな」

「それは俺を馬鹿にしている発言か?」

「スイマセンデシタ」


 やっぱり、なんだかんだ言っても、こいつ、気にしているじゃねぇかよ。

 だが、それでもしっかりと受け入れ、前に進んでいる。


 自分のマイナス要素って、自分で受け入れるのって難しんだよな。

 かみ砕いて、逆に自分の強みにする奴とかもいるが、俺には難しい。


 どうしても、逃げちまう。

 まぁ、この世界に来てからは、逃げたくてもそれを許されはしなかったんだけどな。


 今回も、逃げられなかった。

 でも、 逃げなかったからこそ、新しい技を身に着ける事が出来た。


 逃げるのはもちろん大事だ。自分の身体を壊す事を続ける必要はない。

 でも、少しでも可能性があるのなら、貫くのもまた、やらなければならない。


 転移前の俺は、逃げてばかりだったなぁ。

 親から逃げ、同僚からも、金という理由を付け逃げ。


 もしかしたら、その先に何かあったのかもしれないのに……はぁ。


「体の方は問題ないか?」

「――――え、う、うん」

「なんだ」

「いや、心配、してくれてんのか?」

「当然だ。自ら眠ったわけでなく、気絶したんだ。本来なら、体に不調が出ていてもおかしくはない」


 な、なるほど?

 元殺し屋と言っても、ちゃんと人の心があるんだっ――――


「それと、そんな状態で再度修行を行っても半分の実力しか出ないからな。意味がないから、聞いただけだ」


 …………理解。

 本当に、意味のある事しかしない奴なんだな。

 その方が俺としても助かるからいいんだけど。


「んで、今の話を聞いて、お前は大丈夫と答えるか?」

「え、えぇっと…………」

「立ってみろ」

「お、おう」


 言われた通りに立って――――っ。


「っ! つ…………」


 頭が痛い、微かな眩暈。

 でも、立てなくはないし、頭痛は少し経てば治まる。


「…………今日はもう辞めだ。また明日やる」

「え、いや。確かにふらついたが、今はもう大丈夫だぞ?」

「今は大丈夫だろうと、意味は無い。始める前から少しでも不調があるのならやめる」


 シールドを開け、本当にソフィアは行ってしまった。

 アンキが「待ってくださいよ~」と泣きながら追いかける。


 んー、もう少しやりたかったな。


 今回は、アンキも手加減してくれていたとはいえ、余裕をもって戦闘を行う事が出来た。


 その感覚を持ってもう一戦でもやりたかったが、仕方がない。


 今はお昼過ぎ位か、それよりもっとか。


 そういや、リヒトとアルカ、クラウドはどこで修行をやってんだ?

 どんな修行を行っているのかも気になる。


 少し、覗きに行くか。

 だが、どこでやっているのかわからねぇ。


 格技場とかだろうか。

 そこで前にアマリアが変な生物を持ち込み、リヒトを吊るし上げていたっけなぁ。


 いやぁ、今となっては懐かしい。

 今回も吊るし上げられていたら笑うけど。


「…………行ってみるか」


 格技場の場所は覚えているし、そこ以外で修行はおそらくないだろう。

 アルカもそこでやっているかもしれないし。


 よし、行こっと。

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