第338話 肩の力を抜くのはいい事だ

 屋上から降りて、部屋に戻る。

 ヒントを見つけたからなのか、安心して寝る事が出来た。


 目を覚まし、いつものようにソフィアが部屋に来た。

 訓練場に向かい、シールドの中に。


 アンキも準備が出来たらしく、その場でストレッチしている。


「変な空気を纏っているな」

「なんだ、その変な空気って」

「気が晴れたような感じだ」

「あー、それは当たっているかも」


 昨夜、アマリアからヒントを貰って少し魔法の出し方がわかったからな。


「…………面白いな」

「そうか?」

「あぁ。アンキ、お前は鉄球を使うな、もう一つの武器を使え」


 ソフィアがそんなことを言う。

 最初は驚いていたが、アンキはすぐに「はいっす」と頷き、鉄球をシールドの端に置く。


 懐に手を入れたかと思うと、取り出したのは一本のナイフ。


「ナイフ?」

「アンキは、鉄球が主の武器だが、あれは俺が提案したから使っていた。最初の武器は、今あいつが持っているナイフ」


 へぇ、武器を途中で変えていたのか。


「ナイフは、一対一の時に使うようにしろと言っていたんだが、今回は特別に使ってもらう」


 な、なんだ?

 深緑色の瞳が、俺を見る、貫く。


「何か掴んだのなら、発揮しろ。いくらでも付き合うぞ」

「――――あぁ、よろしく頼むぞ、ソフィア」

「俺っちも忘れないでくださいっす!!」


 隣でアンキが子供のように飛び跳ねる。

 はいはい、忘れてないぞ。


「それじゃ、模擬戦、 始めるぞ」

「おう」


 魔力のコントロール、節約。

 ――――よし、


「来い」

「行くっすよ」


 アンキが最初に動き出す。

 地面を蹴り一瞬で距離を詰めた。


 だが、これはもう慣れた。


 簡単に、振りかぶられるナイフを避ける。

 距離を取るが、また詰められる。

 簡単に避け続けた。


 視界の端に映る、アンキの影に隠れたソフィア。

 拳銃を構え、俺を狙う。


 ――――来る。


 ――――パンッ!


 もう、無駄に集中しない。

 必要な分だけを見定める。


flameフレイム


 抑え目に放つと、やっぱり普通のflameフレイム

 これは、もう少しだけ上げてもよさそうだな。


 放たれた弾がflameフレイムに当たり爆発。視界を塞ぐが。かき分けアンキが突っ込む。


 頬をギリギリ掠める。でも、焦りはない。

 見極めているから。動きが読めるし、簡単。


 ソフィアは接近戦に持ち込もうとはしないらしい。

 拳銃を構え続ける。


 撃て、早く、撃てよ。次を試したいんだから。


 まぁ、flameフレイムをアンキに放てばいいんだが、それだと逃げた感じになりそうなんだよな。


 どうせやるなら、ソフィアに一泡吹かせたい。


 ――――あ、それならあえて普通のflameフレイムをアンキに放てばいいか。

 なにも、flameフレイムすべてを新しい方で放たないといけないわけじゃない。


 あー、俺は今まで、頭が固かった。

 夜、外出したのは良かったのかもな。頭がすっきりしている。


 もしかしたら、アマリアの言う通り、俺、自分を追い込めていたのかもしれねぇ。

 悩むなんてことしていたから当然か。


 俺が悩むなんて、なや…………結構悩んだ人生だったなぁ。

 まだ二十八歳だけど。


 ――――パンッ!


flameフレイム!」


 さっきより集中力を高める。でも、またしても普通のflameフレイム

 だけど、少しだけ赤みが帯びていた。


 爆発、すぐにアンキが来る。


 もう少し、高めるか。


「舐めてるっすねぇ」

「あぁ?」

「模擬戦だろうと、ここまで舐められると、気分は良くないっすねぇ~」


 あぁ、簡単に避けて、且つ、他にも考え事をしていたからか。

 流石に失礼だったな。


「魔法、使ってもいいっすか?」

「いいけど、どんな魔法だ? 見てればわかるっすよ。tuulトゥール


 唱えると、ナイフに風が巻かれた。

 

 なるほど、武器を強化する魔法か。

 風という事は鎌鼬的な感じに、近づいただけで相手を斬る事が出来そうだな。

 風って、そういうイメージ。


「行くっすよ!!」


 身長が低い分俊敏、避けるのが大変。

 風の巻かれたナイフを振りかざす、早すぎるから避けきれねぇ!!


 だが――…………


 ――――ガシッ!!


「受け止める事は、簡単だよなぁ~」

「力がないと言いたいっすか?」

「それはない。あんな鉄球を片手で投げている時点でお前の力は化け物」

「なら――――」


 だが、力を込めるのも、集中力を高めるのと同じで、ほんの少しだけ穴があるだろう。そこを突かせてもらうぞ。


 力を込められる前に持ちあげ、後ろへとぶん投げる。


「おっ?」

「――――flameフレイム


 普通のflameフレイムを放つ。

 避けられないと悟ったアンキは、顔付近で腕をクロスにし、防ぐ。


 ――――ドカンッ


「ぐっ!!」


 もろにぶつかるが、冷静に体をくるりと回し、地面に足から落ちる。

 まだ、俺のターンは終わんねぇぞ!!


 すぐに距離を詰め、足を地面に突けたのと同時に――っ!?


 ――――パンッ!!


 駆けだした直後、発砲。しまった、意識が逸れてた!


 集中力、一瞬で高められる程度でいい。さっきより、ほんの少し、高めるだけでいい!!


 炎が灯されるのと同時に、右手を薙ぎ払う。


flameフレイム


 ぶわっと、濃い炎がソフィアへと放たれた。

 弾に当たると、爆発が起きることなく包み込む。だが、それだけで消える。


 今まではそのままソフィアへと向かっていた。

 無駄な集中、魔力を使っていた証拠だ。


 足は止めていない。

 アンキへと突っ込み、今度は普通のflameフレイムを手に灯し、放つ。


「甘いっすよ!! tuulcouteauクトー・トゥール


 ナイフを横一線に薙ぎ払う。

 すると、鎌鼬のように、鋭い刃が複数放たれた。


 普通のflameフレイムを出したことがあだとなっちまったか。

 まぁいい、ぶつかれ!!


 ――――ドカンッ


 っ、黒煙。


flameフレイム


 今度は、濃い方を放つ。

 勢いは普通のflameフレイムよりある。


 黒煙をかき分け、奥にいるアンキにむかっ――…………


「っ!? いねぇ!?」

「後ろっすよ!!」


 はぁ!? ――――ガツン!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る