第337話 良いヒントをもらったような気がした

 久しぶりの一人の時間。

 一人でいても、誰かしらは途中合流していたから、こんな静かに過ごせることはなかった。


「ふわぁぁぁ…………」


 欠伸が…………。

 まだ夜だろうし、いつもなら寝ている時間、眠くなっても仕方がないか。


「…………本当に、強くなれるんかねぇ」


 ここ最近、成長が見られない。


 ソフィアは本当にすごい。的確に指示を出してくれる。

 アンキも、ソフィアに合わせて俺の相手をしてくれている。


 俺も考えてはいるんだが、やっぱりわからない。

 ゆっくり集中すると、時々は新flameフレイムを出す事が出来る。


 でも、ゆっくり集中力を高めるなんて、戦闘中は不可能。

 すぐに集中力を高める事は出来ているはず、なのになぜか出ない。理由は集中力だけではない。


 他に理由があるはずなのに、わからない。

 普通のflameフレイムと新flameフレイムの違いさえ分かればいいのに。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁああ…………」


 柵に顔を埋め、視界を塞ぐ。

 虫の声、水の音。それらが鼓膜を揺らす。

 心が落ち着く自然の音。

 意識しないと聞けない音。


 なんだか、一人だと色んな物に意識が行くな。


 ………………………………そうか。

 一人の方が五感に意識が行くのか。

 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。


 今は、聴覚に意識が向いている状態らしい。

 目を閉じると、自然と周りの音を拾う。


 この無意識って、魔法にも注ぐことできないのかねぇ。

 無理か。さすがに魔法は集中しないとできっ――――



 ――――――――少しでも可能性があるのなら、それは不可能ではない



「…………そんなこと、ソフィアが言っていたなぁ」


 不可能ではない、か。

 だが、どうすれば無意識を魔法に意識出来るんだよ。


 …………あぁ、文体がおかしくなっちまった。


「…………はぁ、やめだやめだ」


 もう、考える時点で無意識から遠くなっている。


「はぁぁぁぁぁぁあ…………」


 魔法って、ここまで難しい物だったのか。

 出せれば終わりではないのはわかっていたが、さすがにチート魔力だけではどうに もならなくなってきたなぁ。


 どうすれば、今以上に強くなる事が出来るのか。

 もう、何でもいいから楽をして強くなりたい。


 ――――トンッ


 っ!? 人の気配!!


flameフレイム!!」


 薙ぎ払うように放ったflameフレイム

 それは、後ろに立っていた人に地を這い向かう。


「っ!? え」

「あっ…………」


 やっべ、やっちまった。


「…………ど、どうもです、アマリア君」

「…………何か他に言う事、ない?」

「トツゼンマホウヲハナッテシマイスイマセンデシタ」

「棒読みな感じがするけど、まぁいいや」


 後ろにいたのはアマリアだった。

 はぁ、アマリアで正直良かった。普通に上に飛び避けてくれた。


 一般人だったら、やばかったなぁ。

 いや、そもそも一般人は屋上に来れないんだっけ。


「ねぇ、今のflameフレイム、いつもと違ったけど、ソフィアとの修行で掴んだの?」

「掴んだ…………というか、掴みかけている状態」

「掴みかけてる?」

「うん」


 なんで今、新flameフレイムが出たんだろう。

 意識していたわけじゃない。偶然集中していた感じか。


「なんか、悩んでいるみたいだね」

「まぁな」

「悩むのはいい事だと思うよ。思いつめるまで行かなければね」

「思いつめるなんて無駄な事、俺がすると思うか?」

「うん」

「……………………思いつめる前に通帳を見て発散するから問題ねぇわ」

「そう」


 即答された。

 そんなに俺、思いつめているかぁ?


 おっ、隣まで移動して来た。


「ここにどうやって来たの?」

「新しい魔力のコントロールで新acquaアクアを作り出して上ってきた」

「…………そう」

「色々言いたげだな」

「今のが説明になっていると本気で思っているのなら、知里の頭を疑いたいなって思っていただけ」


 まぁ、説明する気がないからな。

 全てを説明するのはめんどくさい。


「まぁ、進化をしたという事はわかった」

「まだ、無意識で出来るまでには到達していないけどな。百発百中で出せねぇんだよ」


 手に炎を灯すと、炎がメラメラと燃える。

 これは、いつものflameフレイムだ。


 もう、めんどくせぇ。


「魔法を無意識で出すと、ちょっと危険じゃない?」

「危険?」

「だって、さっきみたいなことが起こるって事でしょ? 僕だったから良かったけど、他の人だったら危険だったよ」

「…………確かに」


 それは避けたい、普通に怖いわ。


「はぁぁぁぁぁぁぁ…………」

「悩んでるねぇ~」

「うるさいなぁ」


 もう、何があっているのか間違っているのかわからん。


「何に悩んでいるのかわからないけど、まぁ、頑張れ」

「くそが…………」


 空中に浮かび、余裕そうにオスクリタ海底を眺めるアマリア。

 ほんと、マイペースだなぁ。


「…………そういや、アマリアはどうやって音魔法を出しているんだ?」

「ん? 君と同じじゃない?」

「まぁ、だよね」


 普通に魔力を集めて、手から放つ。

 誰もが同じ。違いなんて、そう無いか。


「ただ、僕の場合は、知里の魔力を貰っている側だから、制御はしているかな」

「魔力をなるべく使わないって事か?」

「そうそう。魔法は、それぞれ一定の魔力があれば放てる。だから、出せるだけの最低限の魔力と集中でいいんだよね。無駄に高めようとすると時間もかかるし疲れる。一定でいいの、最低限で」


 それはそれでいいのかっ――……


 ――――キーーーン


 あ、あれ、今、何かを、掴みかけたような気がする。


「――――なぁ、やっぱり、使う魔力が少なければ少ないほど、集中力を高める時間は短くなるのか?」

「当たり前でしょ? 使えば使うだけ集中力は必要になるけど、使わなければそれだけ節約が出来る。それに、すぐに放つことも可能。音魔法は威力がない分、スピード重視で扱う事もあるから、意識はしているかな」


 なるほどな。

 確かに、それはそうだよな。


「もう一つ聞く。集中力を高め、魔力を多く込めれば、強くなる……よな?」

「当たり前でしょ。なんで、そんなことを聞くの」

「なら、多くためる事でのマイナス要素って、魔力の節約ができないだけか?」

「いや、それのほかにもあるよ。オーバーヒートしたり、自身を巻き込む魔法を放たれたり。あとは、魔法自体が変わってしまう」

「魔法が、変わる?」


 どういうことだ?


「人間にはリミッターがあるんだよ。オーバーヒートするとは言ったけど、そうならないために、人間の身体は無意識にセーブする。だから、強すぎる魔法を放とうとすると、逆に体が勝手にセーブして、威力が弱くなる。怒りや憎しみ、歓喜などといった感情に呑み込まれなければね」


 ――――へぇ、そういう事か!


「…………なに、にやついてんの、気持ち悪いんだけど」

「失礼だな」

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