第336話 意外と出来るもんだな

 リヒトと話してから数日、ソフィアとアンキを相手に模擬戦を幾度となくしてきた。


 徐々に新flameフレイムを出せる確率が上がってきた。

 だが、完ぺきではないし、自分の意思ではなく、反射で相手の攻撃を避けようとした時に出せることが多い。


 自分の意思で放とうとしても、それはほとんど普通のflameフレイムになっちまう。


 自分の意思で放つことが出来ない。

 くっそ、腹が立つ。


「――――このまま、何も解決策を考えずに模擬戦をしていても意味は無いな」

「…………」

「少し、お前に時間をやる」

「は?」


 シールドの中で、ソフィアが俺に近寄ってくる。

 警戒を高めるが、意味は無かった。


「お前は体を休めつつ、普通のflameフレイムと新flameフレイムの違いを考えろ」


 そ、そんなこと言われても困るんだが!?

 え、本当にそれだけを言ってシールドの外にアンキと共に出て行ったんだが!?


「え、えぇ…………」


 もう、本当に、嫌だ……。


 ※


 夜、寝静まった部屋の中。

 自然と目が覚めちまった。


「くわっ…………はぁ…………」


 今、何時だ、何時間寝た。


 疲れは溜まっているはずなのに、眠いのに、寝れねぇ。

 そういや、歳が上がれば上がるほど、長く寝る事が出来ないとか聞いたことがあるな。


 ……………………年齢か?


 いやいや、そんなことはないはず…………おじさんだった。

 あぁ、歳か、歳で寝れなくなったか。


 逆に疲労が溜まっているから、寝る体力がないと、そういう事か。

 ははっ、悲しくなんかねぇんだからな。ぐすん。


 …………今のままじゃ寝れねぇし、外の空気でも吸ってくるか。


 ベッドから降りて、部屋の扉を開く。

 一瞬、壁に寄りかかり眠っているクラウドが微かに体を振るわえたが、起きてはいない。


 そのまま、音を立てずに閉める。


「くわっ……ねむ」


 あーあ、ソフィアからの課題、結局わからずじまいだったなぁ。

 一応、部屋に戻って考えてみたし、周りに被害が出ないように気を付けながら魔法も発動してみた。


 それでも、やっぱりわからなかった。

 新flameフレイムは出す事すら出来なかったし……はぁ。


 ため息を吐きあるいていると、外に出た。

 ここからどこに向かおうかなぁ。


 城の屋上…………前回はグレールに抱えてもらったんだっけ。


 行きたいが、なんとなく行くという理由で呼び出すのは些か気が引ける。


 アマリアに抱えてもらうか?

 どこにいるかは気配を感じればなんとなくわかるけど……。なんか、それは、負けた気分で嫌だ。


「うーん…………」


 俺の魔法で上がる事は出来ないだろうか。

 流石に、炎じゃ無理だし、水もさすがに無理。


 それこそ、氷じゃないと厳しくないか?


 んー…………。


「あっ、そう言えば、水は集中するとどんな形になるんだろう」


 flameフレイムは、色が濃くなり。威力が上がった。

 なら、acqua《アクア》はどうなるのだろうか、気になるな。


 今は、flameフレイムしかやっていないが、acquaアクアも極めれば何か違う事が出来るんだろう。


「…………acquaアクア


 集中し、発動。


 右手の上に水が現れる。だが、今までと変わらない普通の水の球。

 集中が足りないのか、それともやり方が違うのか。


「…………そういや、ロゼ姫の酸魔法は、水魔法から派生したと言っていたな」


 それなら、粘着質な水をイメージすれば、acquaアクアはイメージ通りになってくれるのだろうか。

 イメージで、変わってくれるだろうか。


「…………少しでも可能性があるのなら、試してみるか」


 一度、acquaアクアを消し、目を閉じ集中を高めてみる。

 flameフレイムを出す時と同じく、集中。


 右手に魔力が集まる感覚がわかってきた。

 頭の中で粘着質な水のイメージを具体的にする。


「――――acquaアクア


 水がブクブクとでき始める。

 目を開けると、見た目は今までと変わらない普通の水の球。だが、親指で触ってみると――……


「…………ブヨブヨ」


 スライムのようなブヨブヨになった。

 これ、壁にくっつけること出来るか?


「…………くっついたな」


 集中すると、意外と出来るもんだな。


 足裏にくっつけて、壁を歩いてみる。

 ────うっ、腹筋と背筋が辛い。


 まぁ、重力に逆らっているんだもんな、そりゃ、重たいか。

 だが、前に傾けながら歩けば何とか上に向かう事は出来る。


 そのまま壁を上り、屋上にたどり着いた。

 男性一人を余裕で支えられるくらいの粘着。これは、他の場面でも使えるかもしれねぇな。


 だが、今はflameフレイムを当たり前のように出せるようにしないと。


「────星空はないけど、やっぱり綺麗だな」


 深海の夜空。

 深い青の中には、優雅に踊る様々な魚。


 魚には詳しくないから名前まではわからん。これ、知っていたらもっと違う楽しみ方が出来たんだろうか。


 まぁ、景色に名前は関係ないな。

 綺麗だし、心洗われる。ここで少し休むのもいいかもしれないな。

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