第333話 そんなことを言われたら、昂っちまうだろうが

 まっ、う。嘘だろ?

 え、ま、え??


「む、無傷……だと?」


 地面にしっかり足をつけ立っているソフィアは、無傷。

 外套は少し焦げているみたいだが、怪我はないみたい。


 なんか、素直に安心出来ない自分がいるんだが?


 大きな怪我をされるのはさすがに嫌だが、無傷もなんか……。

 せっかく、やっと攻撃を当てることが出来たのに、悲しいのだが?


 何とも言えない気持ちを抱えていると、アンキが鼻を鳴らした。


「ソフィアさんの体は頑丈っすよ、今回の攻撃なんぞ屁でもねぇっす」


 どや顔すんな、腹立つ。


「あいつ、本当に人間か?」

「人間っす。化け物に見えるようにしているだけっすから」

「? それはどういうことだ?」


 アンキに問いかけるが、ニコッと笑みを返されるだけで終わっちまった。

 な、なんだよ、気になるじゃねぇかよ。


 また聞こうとしたが、それよりソフィアが俺の元に歩いてきた。

 体が勝手に強ばり、警戒が高まる。


「その警戒心、ずっと持っていろ。だが、話だけは聞け」

「お、おう…………」


 攻撃を仕掛けてくる訳はなさそうだ。

 少し肩の力を抜く――なんで拳が吹っ飛んでくるんだよ!!


 …………まぁ、えーっと、うん。

 右手で受け止めることが余裕で出来るようになったと、成長したとそう思おう。


 うん、素直に喜ぼう。


「警戒を緩めるな。まだ、戦闘は終わってはいない」

「…………くっそ。そんで、話ってなんだよ」


 ギリギリと押されて右手が疲れてきた。

 何処から出てるんだよ、その小さな体で。んな力…………。


「今の炎、やっと出たな」

「らしいな」


 …………押されて話に集中ができねぇ!!


「それに、今までより濃厚で、熱い。しかも、二つの魔法を放っているように見えた。まさか、他の魔法を同時に放ったわけではないだろうな?」

「んなこと出来るわけねぇだろうが!! つーか!! 話に集中させてくれよ!!!」


 俺の叫びがやっと届いたのか、手を下ろしてくれた。


 はぁ、疲労困憊の体に鞭打って戦闘をしていたんだぞ、おじさんの体をなめるな。


 何度も言うが、俺は若く見られがちだが、体は年に勝てないんだぞ。


「なら、今の威力が基本魔法で出せるということが今回の戦闘で分かった。今回のを極めることが出来れば、他の魔法も活きるだろう」

「そ、そういうもんか?」

「あぁ、基本魔法とは、誰にでも出せる、だが弱い。そう思われがちだが、俺はそう思ってはいない」


 腕を組みなおし、ソフィアは話を続ける。


「誰にでも出せるお手軽な魔法。簡単で、調整も可能。だが、それで終わっちまっている」

「終わってる?」


 どういうことだ?


「俺達の脳は、数に捕らわれやすい」

「ん? うん」


 な、何の話だ?


「多数派が正しい、数が多い方が有利。そう思われがちだが、実際はそんなことはない」


 一拍置き、再度口を開く。


「魔法も、数が多い方が強い。だが、魔法がどんなに多くても、魔力がどんなに多くても。一つ一つの魔法を、魔力を理解していなければ、意味はない。結果、俺は魔法を使えない弱者だが、負けたことは指で数えられるくらいしかない」


 努力し、強くなってきた奴の発言だ。


「極めれば極めるほど、強くなる。増やせば増やすほど強くなる。この二つが重なり合えば、俺は、無敵なんじゃないかと思っている」

「一気に子供臭くなったな」

「だが、事実だろう? 俺は、数が多ければ有利になるなどといった言葉を否定している訳ではない。普通に、強い。それは、今までの経験でわかっている」


 目を閉じ、腕を下ろす。


「だが、それだけではないということも知った。それだけで強くなるわけじゃないと、俺は知った。世間の考えと、一部の人間の考え。どっちもあっているのなら、二つを兼ね備えれば強く、無敵となる。それが出来るのは、今のところお前だけだ、カガミヤチサト」


 ソフィアの深緑色の瞳が俺を射抜く。

 心臓がドクンと音を鳴らす。


 これは、俺、どう思ってんだ?

 なんか、何かわからんが、体が熱い。


 胸が苦しい。けど、不快ではない。

 口角が上がる、笑いが止まらない。


「兄ちゃん?」


 隣に立っているアンキが困惑の表情を浮かべる。

 俺も、今の俺が何で笑っているのかわからない。


 わからないが、なんか、気持ちが昂る。


「――――サンキューな、ソフィア。今の言葉、しっかりと胸に刻んだ」

「そうか、それならよかった」


 振り向き、その場からいなくなろうとする。

 今日はここで終わりらしい。


 だが、俺は、まだ終わらせたくない。


「待て」

「? なんだ?」


 呼び止めると素直に止まり、振り返る。

 右手に濃いflameフレイムを灯し、ソフィアになにも言わずに放つ。


 反射でなのか、拳銃を素早く懐から取り出し、発砲。

 今回は爆発が起こり、黒煙が視界を覆う。


 だが、すぐに晴れ、ソフィアを見ることができた。


「なぁ、まだだ。俺は、まだ出来るぞ」


 再度、炎を灯した右手を突き出す。

 すると、ソフィアの、今まで動いたところなんて見たことがない表情筋が動く。


「そうか、わかった。付き合ってやろう」


 口元が横へと引き伸ばされ、白い歯を見せ笑う。

 俺も、自然と笑みが浮かんじまう。


「「行くぞ」」

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