第330話 やっぱりかっこいいなこんちくしょう

 次の日、目を覚ますと、目の前には――――誰もいない。


「あ、あれ?」

「起きたか?」

「どわぁぁぁぁああ!?」


 え、ど、どこ!?

 あっ、後ろだ……。


「なに、驚いてやがる」

「いや、気配もなく背後に立たれるとは思わないじゃんか……。しかも、寝起きの頭で…………」


 頭をがガリガリ掻きながら欠伸を零していると――――え、腕を掴まれた?


「さっさと準備しろ。昨日の続きをするぞ」

「…………」


 まじで、俺の事壊そうとしていないか?


 ※


 部屋の外に出ると、廊下の奥からアルカとリヒトが駆け寄ってきっ──全力疾走じゃね?


「カガミヤさーん!」

「カガミヤー」


 おーおー。朝から元気がいい事で。

 一体なんっ――………


「「たすけてぇぇぇぇええ!!!!」」

「嫌だ」

「酷いです!!!」


 二人同時に助けを求められ、咄嗟に拒否しちまったが、こいつらは一体何から逃げてんだ?


 ――――ガシッ


 おっ? リヒトの肩に子供の手が乗っかる。

 アルカの肩には男性の手。


「あ、あれ? アマリアとグレール? どうしたんだ?」

「修行をしていただけですよ。そしたら二人が逃げ出したため、追いかけてきただけでございます」


 …………すべてを察した。


 なに、この世界。

 修行と言えば、厳しい物しか知らないの? 厳しくないと修行にならないの?

 スパルタすぎる方がいいとか思ってんの?


 ふっっっっつうに!!! 体壊すわ!!!


「って、あれ? クラウドはどこだ?」


 確か、昨日はいたよな? どこに行ったんだ?


「安心してください。クラウドは私が面倒を見ています。アルカと共に」

「あー、それなら安心だな」


 何が起きて現状のようになったか知らんが、クラウドをグレールが見ているのは、色々安心だ。


「早く、戻って。まだ修行中だよ」

「「ああああぁぁぁぁぁあああ!!!!!」」

「頑張れ~」


 二人は二人で大変そうだなぁ~。

 まぁ、俺には関係ないこっ――――


「俺達もやるぞ」

「……………………逃げてもいい?」

「逃げ切れるのならそれでいい」

「スイマセンデシタ」


 俺にも、逃げ道はないらしい、死んだ。


 ※


 昨日と同じく訓練場に行くと、先にアンキが待機していた。


「待っていたっすよぉ~、ソフィアさん、兄ちゃんも」

「どうも」


 すぐシールドの中に入ると、ソフィアが拳銃二丁を構えた。


「昨日と同じく、一つの炎魔法のみ、魔法を許可する。今日の動き次第では、俺も本気を出す」

「昨日のは本気じゃなかったってか…………」

「当たり前だ。本気を出せばおめぇなんぞ簡単に殺せる」

「ははは……。言ってくれるじゃねぇか…………」

「事実だからな。悔しければ、強くなれ」


 銃口を構え、言い放つ。

 くっそ、かっこいいじゃねぇかよ。


「準備はいいか?」

「あぁ…………」


 良くないと言っても、どうせ来るじゃねぇかよ。

 今回は魔導書をしっかりと構えて、準備しておこう。


「? それは魔導書か?」

「あ? そうだが?」

「今まで使っていたか?」

「使って…………ないな」


 あ、あれ。

 そういえば俺、今まで魔導書、使ってなかった。


 使ってなかったが、普通に魔法を放つことができていたような気がする。


 特に放つ時のラグとかも感じなかった。

 あ、あれ? な、なんでだ?


「今まで使っていないのなら、特に使う必要はないだろう。なぜ今、構えた」

「いや、なんか、癖」

「いらんだろう」

「いや、これには他にも色々役割が…………」

「何だ」


 ……なに、この尋問状態。

 身長小さいけど圧があるから、普通に怖いんだよ。


「えぇっと…………」

「答えられないのか?」

「いやいや……。えっとなぁ、こいつは、魔力の温存も出来るんだ。この中に普段から魔力を少しずつ入れているから、体内に流れている魔力を使わなくても、魔導書を通し魔法を放つことができんだよ」


 これには助けられたなぁ。

 確か、フィルムとの戦いの時だっけ?

 忘れたけど、なかったらなかったで不便。


「なるほどな。つまり、魔力を温存できるものがあれば、魔導書じゃなくてもいいという事か」

「ま、まぁ、今はそうなる…………か?」


 何が言いたいんだ?


「なら、これをくれてやる。これで魔導書は用済みだな」

「ん? なんだこれ」


 投げられたのは――――ピアス?

 え、なんでピアス? ピアスだよね? 


 雫状の黒いピアス。

 太陽にかざしても透き通る事はせず、闇。


 これって、まさか…………。


「それは、俺が作った魔力保管装置。魔法石から作ってみたが、今はもう使わん。おさがりでいいならくれてやる。頑丈だからそう簡単には壊れん」

「え、ソフィアが作ったのか?」


 まさか、魔法石を作ったって……。


「俺は、魔力がない自分を強くするため、様々な方法を試してきた。その結果、魔法石を作り、魔法を無理やり作り出していた」

「そんな事、出来るのか?」

「普通は不可能らしい」


 まぁ、そうだわな。


「だが、不可能ではなかった。俺は、不可能とは思えなかった。だから作った」


 うわっ、つよ。

 俺だったら絶対に諦めてるわ。


「極論、不可能にしているのは人間で、不可能にしないのも人間だ。少しでも可能性があるのなら、それは不可能ではない」


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