第329話 もう、何を言っても無駄なんだな……

「…………ずりぃ…………」


 クラウドが知里達の模擬戦を見て、ふてくされたように零す。

 隣に立っていたアルカとリヒトは、眉を下げ二人の戦闘を見続けていたが、今のクラウドの言葉に視線を外した。


「何がずるいんだよ。カガミヤが危険な目に合っているのに……」


 アルカが効くと、クラウドは横目で見て、ため息を吐いた。


「何言ってんだ。あいつは殺そうとしている訳じゃねぇ、強くしようとしてんだろうが」

「そうかもしれないけど……」

「俺様も、もっと強くなりてぇ……」


 目を細め、零した言葉。

 アルカとリヒトは目を合わせ、もう一度クラウドを見た。


「…………強くって……。クラウドは十分強いじゃねぇか」

「まだだ。俺様は、まだ強くなれる」


 横に垂らしている拳を振るわせ、下唇を噛む。

 本気で悔しがっている表情に、アルカは口を閉ざした。


 次に口を開いたのは、不安そうに眉を下げ、知里に目線を逸らしたリヒト。


「私も、もっと強くなりたいです。もっと、カガミヤさんの役に、立ちたいです」


 その言葉にクラウドは強く握っていた拳を緩め、リヒトと同じく戦闘を繰り広げている知里を見た。


 三人が黙ると、後ろから足音。

 アルカが振り向くと、そこにはアンキが白い歯を見せ笑いながら立っていた。


「それなら、おれっちが相手をしてやるっすか? 修行の相手を――……」


 ※


 夜になり、周りが見えなくなってきた頃。


「動きが鈍くなってきている。早く魔法を放て」

「~~~~~~~~るっせぇ!!!」

「隙が生まれている、死ぬぞ」


 っ!! 右!!


flameフレイム!!」

「遅い」


 っ、ひだっ――――ガンッ!!


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 ――――パタンッ。


 知里は、右にソフィアがいると感覚的に感じ取りflameフレイムを放った。

 だが、それを読んでいたソフィアが、地面を蹴り反対側まで跳び裏へと回る。


 銃底で頭を殴り、とうとう気絶させてしまった。



 ソフィアが知里を連れ出し、模擬戦を始めてから八時間以上。

 休憩なしでずっと行っていた。


 最初はソフィアに食らいついていた知里だったが、体力も落ち、集中が切れて追いつけなっていた。


 それでも、ソフィアは止まらず攻め続ける。


 無理やり魔法を出させ戦闘を行っていたため、最後は満身創痍。

 体力の限界、視野が狭くなり知里は最後気絶させられた。


 外では、アルカとリヒトがシールドを開けようとしている。

 外から開ける事も可能なため、ソフィアは放置。開くと、中へと駆けだした。


「カガミヤさん!!」

「カガミヤ!!」


 中に入り、気絶している知里に駆け寄る。

 体を起こし、楽な体勢を作り顔を覗き込んだ。


「…………寝ている、だけ?」

「当たり前だ、変に痛みつけると体に不調が残る。明日も同じことをするんだ、無駄に疲労などは残したくない」


 ソフィアが腕を組み、言い放つ。

 すぐに周りを見て、誰かを探し始めた。


「アンキはどこだ」


 誰に問いかけたわけではない言葉に反応したのは、意外にもアルカだった。


「アンキなら、クラウドと共に模擬戦してた。もう、終わると思う」


 アルカの言葉にソフィアは、近くの訓練フィールドを見た。

 アンキとクラウドが戦闘を繰り広げているのが目に映る。


「…………ほう」


 どこか楽し気に近付いて行き、眺める。


 ソフィアが終わったことに気づいたアンキは、ぶん投げていた鉄球を回収。

 すぐにクラウドが駆け出し、アンキを光の刃で切り裂こうと振りかざす。だが、腕で簡単に防がれ、カウンターを食らった。


 拳で吹っ飛ばされ、地面を引きずる。

 すぐに立ちあがろうとするが、咳き込んでしまい動けない。

 ちょうど溝に入ったらしい。


 咳き込んでいるクラウドに近付き、アンキは笑みを浮かべた。


「んじゃ、待っている人がいるっすから、これで」


 去って行くアンキを呼び止めようとするが、クラウドの身体は思うように動かない。

 ソフィアと合流すると「いいのか?」と聞かれ「大丈夫っす」と返し、二人はいなくなった。


 残されたクラウドは悔し気に唾を吐き出し、今度こそ立ちあがった。

 自身の手を見下ろし、拳と強く握る。


 口角は上がり、左右非対称の瞳はキラキラと輝いていた。


「つえぇ…………」


 楽し気なクラウドの横を、アマリアとグレールが城からやってきた。


「お疲れ様、色々面白そうなことをしていたね。外から見ていたよ」


 アマリアが言うと、リヒトはキッと睨みつける。

 隣に立っていたグレールがアマリアの言葉を弁解するように口を開いた。


「無茶のある模擬戦ではあると思いますが、よい訓練だと思いますよ」


 アルカもグレールを見る。

 納得していないに、グレールは言葉を繋げた。


「頭で考えるより、実践の方が知里様の場合は覚えが早いです。今までも、管理者との戦いで真の力を発揮して来たのではないですか?」


 グレールの言葉に、アルカとリヒトの頭に今までの戦闘が蘇る。


 今までの戦闘では、頭で考えるより、知里は実戦で強くなっていった。

 怒りで魔法を放つことも多々あったが、それもいい結果として終っている。


 咄嗟の判断で勝ち進んできたと言っても過言ではない。


 それも踏まえての今回の修行なのかと理解、アルカとリヒトは何も言えなくなってしまった。


「魔力というのは、使わなければ扱えない。感覚を掴み、魔力の流れを体に覚えさせ、魔法を発動。今回は、一つの魔法を極めるという目的でやっている修行だったはず。これが一番手っ取り速いし、知里にあっている」


 アマリアが言うと、リヒトが「でも!」と顔を上げる。

 続きを言おうとするが、アマリアが近づいてきたことで口を閉ざしてしまった。


「それに、君は君の心配をした方がいい」

「――――え」


 アマリアの無表情が眼前まで近づかれ、リヒトは思わず後ろに体を下げる。


「君も、修行をするんだよね?」

「あ、はい」

「それなら、明日から始めるよ。スケジュールは、もう組んでいる」


 アマリアからの言葉と、にんまりと上がった口角に、リヒトの顔は真っ青。

 顔を引きつらせながらも、小さく頷いた。


 隣にいたアルカも、アマリアを見つめる。


「ん? どうしたの?」

「…………あの、俺も、修行したい」

「…………僕が相手?」


 目を微かに開き、アマリアが再度問いかけると、アルカは首を横に振る。


「アマリア様という訳ではなく、俺ももっと強くなりたいから修行したいなって」


 一人佇んでいるクラウドを横目で見て、アルカは呟く。

 彼の様子に、アマリアは腕を組み考えた。


「僕でもいいけど、アルカの場合は実戦の方がいいと思うんだよね。知里と同じで感覚派だし。僕は実戦はちょっと…………」


 と、アマリアが肩を落とす。

「そうか」と、アルカも俯き、寝ている知里を見た。


「…………俺がもっと強くなれば、ここまで負担をかけなくていいのにな…………」


 アルカのボヤキを聞き、アマリアは再度考える。

 だが、何も思いつかず、肩を落とした。


「それはっ――――」


 アマリアが諭すように言おうと口を開いた時、グレールがいきなり歩き出し、アルカの前で片膝を突いた。


「でしたら、私が修行相手をしましょうか? もう一人も加えて」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る