第327話 起きてから怒涛のように迫り来る困惑は勘弁してくれ

 城に戻り、寝ようと布団に入り目を閉じる。

 だが、眠れるわけがない。


 横目で部屋の奥を見ると、クラウドはもう寝ている。

 くっそ、なんであんな戦闘を繰り広げた後なのに、そんなすぐ寝る事が出来るんだよ。


 俺の脳や体はまだ興奮しているように熱いし、頭の中にはさっきの光景が蘇っているというのに……。


「眠れないの?」

「まぁな」

「眠らせてあげようか?」

「頼む…………ん?」


 アマリアにノリで返事していると、なぜか手をかざしてきた。


 な、なんだ? 

 眠らせるって、何をする気だ?


muzierムゼィーク


 えっ、この魔法って人の鼓膜を壊すほどのジャズがながっ──あ、あれ?

 耳に心地の良い音楽……?


 あっ、瞼が重く……意識が――……


 ※


「起きませんね?」

「起きないな」


 っ、ん。

 なんか、声が聞こえる。


 呆れたような声……なんだ。

 なんか、ふわふわする感じ。というか、眠い。


 まだ、寝ていてもいいだろう。

 どうせ、まだ朝方…………。


「待ってくださいソフィアさん!! それは死んじゃいます!!」


 ん? リヒトの声? なんだっ――――


 目を開けると、拳が振り下ろされっ――……


「どわぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「ゴッホン。あのなぁ、ソフィア。あれは確実に俺、死ぬぞ」


 やっと意識が覚醒した。

 ソフィアの拳脅しのおかげで……。


 俺は昨日、アマリアの音魔法を喰らい、一瞬にして意識を飛ばしたらしい。んで、爆睡。


 起きたのは昼過ぎ、我慢の限界となったソフィアが俺を起こそうと拳を振り下げた。


 タイミング良く俺が起きたから助かったが……はぁ……。


「意識は少しあっただろう。反射でどうにかしろ」

「どうにかした結果、flameフレイムをぶっ放して部屋の壁を一部こがしたけどな」


 咄嗟に放ったflameフレイムをソフィアが避けたことにより、壁まで炎が吹っ飛び当たっちまったんだよなぁ。


 これには流石のロゼ姫も眉間に皺を寄せたが、タダで直してくれることになった。

 これくらいならと──本当に助かった。


 グレールは、俺に氷魔法を放とうとしていたけどな。


「まぁ、寝過ごした俺が悪いからこれ以上は何も言わない。話しを進めようか」


 まだ、欠伸が零れる。

 眠いなぁ、音魔法、すげぇ。


「昨日の出来事は、みんな覚えている感じでいいのかな」


 アマリアが質問すると、アルカとリヒトが頷いた。


 ちなみに、今はアルカとリヒト、ロゼ姫とグレール、アンキとソフィアと俺、アマリアとクラウドの九人。一つの部屋にいる状態。それでも狭くないからすげぇ。


「それじゃ、管理者が大きく動き出したのはもう伝えなくていいね」

「いえ、私達は何も知らないのですが?」

「…………あっ」


 アマリア、確実にロゼ姫とグレールを忘れていたな。


 アマリアの代わりに簡単に俺が説明すると、眉間に深い皺が徐々に刻まれる。

 グレールは冷静にしていたが、ロゼ姫が本当に怖くなってきた。


 ――――え、どうしたの、ガチでキレてない? 大丈夫?


「……なぜ」

「…………はい」


 お、思わず圧に負けて返事しちまった。

 な、なんだ。俺は、何を言われる。


「なぜ、私達にも声をかけてくれなかったのですか。なぜ、私達を起こしてくださらなかったのですか!!!」

「え、えぇ、そこぉ?」

「重要ですよ!!!」

「わっ!?」


 え、ちょっ、胸ぐら掴まれたんだけど!?

 首をグワングワンされてる!! シェイクするなシェイク!!


 脳みそが揺れっ――気持ち悪い!!


「なぜですかぁぁぁあ!!」

「ろ、ロゼ姫、そのあたりで……。あの、知里様が死にそうな顔を浮かべております」


 うん、死んだ。

 吐く、本当に、吐く。

 二日酔いを味わった気分。


 グレールが手を離させてくれたおかげで吐かずに済んだ。

 助かったぞ、グレール。


「私だって、メンバーなのに…………」


 ガチへこみしてやがる。

 何でここまで重くとらえるんだ。まったく…………。


「トラウマなのかなぁ」

「なにが?」

「知里が危険な目に合うのが」


 …………はぁ??


「いや、それだけじゃなくて、今まで、姫としての立場だっただけに、話を聞く事しか出来なかった自分に悲観しているのかも。どっちにしろ、今度からは声をかけた方がよさそうだね。精神安定的な意味で」

「…………よくわからんが、とりあえずわかった」


 ロゼ姫も大変な思いを抱えてんだなぁ。

 俺にはわからんから何も言えんけど。


「――――それじゃ、話が落ち着いたところで、管理者について、知っている限りの情報を渡すよ。でも、これだけは理解してほしい」


 ここで一拍置く。

 なんだよ、変なところで一拍置くなよ、緊張するじゃねぇか。


「僕は、管理者という組織について全く興味なかったから、多くはないんだよね。持っている情報」

「ふざけんなよお前、なら、何を話すってんだよ」

「メンバーについてかな。クロヌ以外なら色々教えられると思うよ。好きな食べ物とかは知らないけど」

「興味ないからいいわ。なになら知ってんだよ」


 聞くと、腕を組み、空中で胡坐をかく。

 何を考えているんだ? 


「魔法の属性と戦闘方法。あとは関係性とかかな。管理者の設立とかも少しなら話せるよ」

「少し気になるじゃねぇか」


 管理者がなぜ出来上がったのか、何故ここまで大きな組織になったのか。


 誰が作ったのかは中々に気になるぞ。

 アマリアが知っているのがどこまでなのか知らんが、聞くだけ聞きたい。


「おい」

「え、なに?」


 まさか、ソフィアは聞きたくないのか?

 いや、立場的に気になるわけが、ない、か。


 でも、勧誘されてるよな? そこで興味は持たないのか?


「そもそも、管理者という組織を詳しく知らん。普段は何をしている組織なんだ」

「勧誘されたのに??」

「銀髪野郎は管理者に入れとは言っていたが、詳細は聞いてねぇよ」


 鼻を鳴らしているソフィアの後ろでは、アンキが「あー」と、何か言いたげにしている。


「アンキ、何か言いたい事があるみたいだが?」

「まぁ、そうっすねぇ~」


「よっこらせ」とアンキが立ちあがり、俺の近くまで移動して来た。


 腕がなくなった分のバランスが取れないからか、短い距離だが何度か転びそうになってる。


「大丈夫か?」

「慣れてないだけっすから平気っすよ」


 ヘラヘラしているけど、まだ辛そうだな。

 汗を流している、気づかれていないと思っているのかぁ?


 聞かれるのも嫌だろうし、何も言わないでおこうか。


「確かに、ソフィアさんの言う通り、具体的な話はしていなかったっすねぇ~」


 うーんと考えてる。

 勧誘なのに、詳しく話さなかった? それって、勧誘できないだろう、普通。


「…………そういや、お前らを勧誘した管理者って一人だったか? 説明役はいなかったのか?」

「? いなかったっすよぉ~。アクアという化け物一人だったっす~」


 まじか。


 それもまた不思議なところだな。

 クロはどうしたんだ? アクアの世話係じゃなかったか?


「アクアを一人で行動させれば今回みたいな事が起きるのに、何を考えているんだろうね」


 アマリアもそこはわからないらしい。

 まぁ、今更それを考えても意味は無いだろう。


「一応聞くが、どんな事をアクアは言っていたんだ?」

「そうっすねぇ~。"この世界を管理できる組織に興味ありませんかぁ~"と。言っていたはずっすよぉ~」


 そ、それだけ?

 なんか、勧誘、いや、勧誘か。


 本当に、その辺のお店の勧誘みたいな勧誘だな。


「それで、ソフィアさんが何も返さず帰ろうとすると、攻撃を仕掛けてきたっす」

「アクアらしいな」


 でも、まぁ、そんなもんか。


「おい」

「ん? なんだ?」

「管理者とか俺は知らんし、興味もない。だから、俺は俺の用事を済ます」

「――――え」


 なんか、俺、腕を掴まれたんだけど。


「俺の興味はこいつだけ。他は知らん、自由にしていろ」

「あっ、ちょっ!! ずりぃぃい!! 俺様も連れてけやぁぁ!!」


 え、え?


 えぇぇぇぇ!?

 無理やり部屋を連れ出されたぁぁぁぁぁあ!?!?

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