第326話 突然すぎて何も出来なかったんだが?

 自然と放たれたflameフレイム

 魔力コントロールを全くしていない、威力も考えていない。


 そんな、何も考えなしに放たれたflameフレイムは、目前まで迫ってきていた水の鷹を完全に蒸発させた。


 ブワッと吹き荒れる風と水蒸気。


「――――こんの、化け物!!


 水蒸気が晴れ、顔を覆っていた腕の隙間から、面白がっているアクアが見える。


 …………見なければ良かった。

 なんだよ、気持ちわりぃ。


「まだまだ、戦えそうですねぇ~。面白い。次の魔法、放ちますよぉ~?」


 目が、いっちまってる。

 もう、戦う事しか考えてねぇよな、あれ。


 っ、やばい!

 あいつの魔力、徐々に強くなってやがる!


「アクア!! 待って!! 場所を考えてよ!」


 アマリアも気づき叫ぶが、アクアには届いていないのか魔力が高まり続ける。


 ここで威力を考えずに魔法を放たれると、さすがに俺一人ではどうする事も出来ない。


 やべぇ……。放つ前に何とかしねぇと!!!


「フレイっ――……」


 また、咄嗟にflameフレイムを出そうとした時、アクアとはまた違う魔力を察知。


 さ、まさか、応戦?


 嫌な予感が頭をよぎるのと同時に、アクアの後ろに黒いローブをかぶった人が、どこからともなく現れた。


 黒ローブで顔が覆われてっから、表情も何もわからん。

 だが、黒いローブという事は、管理者だろ。

 ここで、管理者が増えるのはマジで勘弁しろよ!!!


 歯ぎしりし、魔法の準備をしていると、黒いローブの奴は意外な動きを見せた。



 ――――ガンッ!!



「ガハッ!!」

「っ?! なっ、んで?」


 奴が、なぜかアクアを気絶させた。

 地面にパタンと倒れ、動かなくなる。


 倒れたアクアを見下ろしている奴は、俺達に一切目を向けず、アクアを肩に担ぐ。

 そのまま、何事もなかったかのように背中を向け、いなくなろうとした。


 待て待て待て、ちょっと待てよ。

 何もなかったかのように行くんじゃねぇよ!


「おい!!」


 呼び止めると、やっと奴が口を開いた。


「――――今は、その時ではない」


 じじぃみていな声。

 そう思った瞬間、奴はアクアと共に消えた。


 何が起きたのかわからない、奴は何者なのかも予想が出来ない。


 空気が、わからなかった。

 何を思っているのか、何故現れたのか。


「…………管理者達も、さすがに焦り始めているね。これは、本気で話し合い始めないと、まずいかも」


 アマリアが隣で、そんな不穏なことを言いやがった。


 何が、起きているんだ。

 何を、管理者は考えている。


「知里、今は城に戻ろう。そして、話し合うよ。管理者という組織をぶっ壊す方法を」

「…………あぁ、そうだな」


 ソフィアも拳を下ろし、俺達を見て来る。

 だが、何も言わずに、外套を翻し歩き去ろうとした。


「あ、おい」

「また、明日行く。一度、話し合った部屋に行けばいいんだろう?」


 肩越しに問いかけられ、咄嗟に頷く。

 すると、「そうか」とだけ残し、闇の中に姿を消した。


 後ろを振り向くと、いつの間にかアンキも消えており、残ったのは、いつものメンバー。


 なんか、気まずい空気だけが残っていて、気色悪い。


「…………帰ろうか」

「そうだな。体も痛いし、早く部屋に戻ろう」


 今は、もう何も考えない。

 考えると、思考の渦に巻き込まれ、戻ってこれない気がするし。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 アクアを担ぎ、真っ暗で景色も何もない空間を歩いているのは、管理者をまとめている存在、クロヌ。


 黒いローブで表情などは隠されているが、どことなく呆れているように感じる。

 運ばれている時の振動で、アクアは目を覚ました。


「――――っ」

「目を覚ましたか、小童こわっぱ


 アクアが目を覚まし、現状を理解するのに少しだけ時間がかかる。

 数回瞬きすると、やっとクロヌに抱えられていることに気づき、顔を真っ青にした。


「く、クロヌ、様?」

「やっと意識がしっかりとしたらしいな。何か言い訳はあるか」


 声だけで人に圧をかける。

 アクアでも、クロヌからの怒りの気配は笑えるものではなく、逃げるように視線を地面に向けた。


 ガタガタと体が震え、口が動かない。

 怯えすぎて、何も言えない。


 そんなアクアを横目に、クロヌは歩みを進める。


 カツン、カツンと。一人分の足音が響く中、大きな扉が姿を現した。

 目の前に立つと、見上げる程大きな扉が音を立て開く。


 目の前に広がるは、管理者達が話し合うために使っている大空の間。

 中に入ると、扉は勝手に閉まり始めた。


 瞬間、やっとクロヌが顔を動かしアクアを見た。


「次、目的を忘れた時はどうなるか、わかるな?」


 地を這うような声、そんな生半可のものではない。


 声だけで人を殺せるほどの圧があり、アクアは何も口にすることが出来ず、汗が滴り落ちる中、やっとの思いで頷いた。


 それだけを見届けるようにゆっくりと閉じられていく扉は、二人を断絶するように、バタンと完全に閉じられた。

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