第323話 無茶な事ばかり言われて感覚が麻痺して来たぞ

 ――――まっ、だろうなぁ。


 アクアとあろうバケモンが、自分に不利な状況になったからと言って、帰るなんてことはないよな。


 だが、これはこれで俺的にはラッキー。

 クラウドとソフィアが完治した今、精霊達もまだやる気十分。


 まだ、可能性はゼロではない。

 アルカとリヒトが加わったことで、出来る事も増えた。


「油断するなよ」

「っ、わ、わかってはいるが、何故だ?」

「あいつは底知れないバケモンだ。俺も幾度となく人を殺めてきたが、そんな奴らなど比べ者にならないほどの圧、魔力量、魔法のテクニック」


 前だけを見て、ソフィアは焦り気味に言葉を繋げる。


「言葉の比喩とかじゃねぇぞ。正真正銘のバケモンだ、あいつ」


 汗をにじませ、眉間に深い皺を寄せる。

 ソフィアに、ここまで言わせるなんて……。


 管理者の中では、戦闘メインで行ってきたアクア。

 戦闘能力だけなら管理者の中でもトップクラス、ソフィアが警戒するのも無理はない。


「では、やりましょう? 楽しい楽しい、戦闘殺し合いを――――」


 にんまりと笑ったアクア。殺気が鋭く、体が震える。

 いや、震えるだけなら、問題はない。


 重たい、息苦しい。

 まるで、俺の身体に大きな石が乗っているような感覚だ。


 一歩も足を前に出す事が出来ない。

 だが、動かないと殺される。

 動かないといけないというのに、言う事を聞いてくれねぇ!!


「――――面白れぇぇじゃねぇかよ!!!」


 っ!? クラウドが、光の刃を掲げ、満面な笑み――――狂気的な笑みを浮かべアクアに向かっていく。


「おい、待て!! またすぐに傷つけられるぞ!!」


 すぐにまた傷つけられる。そう思っていたが、アクアの見えない刃魔法を全て避けていた。


 魔力を感知しているのか? わからんが、クラウドがアクアの所までたどり着く。

 すぐに獣の手を作り出し、光の刃を防ぐ。


 ガキンと、硬い物同士がぶつかり合う音。

 そこから続く連撃。クラウドは、殺気のを見置て、一瞬でアクアの強さを知り、合わせていた。


「すっげ…………」


 今まで見てきたクラウドとはまるでまるで違う。

 俊敏さ、判断力、観察眼。すべての能力値が高まってるように見える。


「――――魔力の使い方、魔法の放ち方。まずは、一つの魔法だけを意識し、極めろ」

「っ、は?」


 クラウドに気を取られていると、ソフィアがいきなりそんなことを言ってきた。

 突然そんなことを言われても……。しかも、こんな時に。


「基本魔法。あれは、他の魔法より使い勝手がいいらしい。お前の属性は水と炎だろう。どっちか極めろ、今すぐ」


 ────無茶言うな!!

 しかも、どっちもアクアにとっては属性的に相性最悪なんだよ!


 炎は俺が魔力量勝っていなければかき消されるし、水は同じ属性。

 俺の魔法を操られ終わりだ。


 それなら、慣れている炎の方がいいが……。


「俺も行く、全力で基本魔法を極めろよ」

「え、ちょっ!!」


 風を感じたかと思うと、すでにソフィアがクラウドとアクアの殺り合いに混ざっていた。


 クラウドは嫌がるかと思ったが、絶妙なソフィアの手助けに、何も言わず自由に刃を振るう。


「くっそ、無茶言いやがって!!」


 どうしろってんだよこの野郎!! 困るって!!


『主、カケル様の基本魔法の使い方をお伝えします。なにか、参考になれば』

「え、ま、任せた」


 何かよくわからないけど、聞いてもいい気がする!! 勘だけど!!


『カケル様は、水を様々な形へと変化させ、基本魔法だけで様々な攻撃を繰り出しておりました』


 ・・・・・・・・・・・・・・。


「あのぉ? 言いにくいのですが、俺が今使おうとしているのは炎の方なため、水より炎属性魔法を教えていただけませんか?」


 時間がないし、水魔法より、炎魔法を使いたい。

 使い慣れているし、威力でゴリ押してみせる。


 弱点魔法ではあるが、使い慣れていない水よりはまだ可能性はあるだろう。

 水魔法の主導権を取られてしまうよりはマシだ。


『わかりません』

「え、わからない? なにが?」

『カケル様の属性は水。炎属性は持っていません』


 な、何だって?

 なら、俺は何で炎魔法を使えるんだ?


「水魔法が自由に形を変えられるのなら、炎魔法も変えられるんじゃない?」

「え」


 アマリアが隣からそんなことを言ってきた。


 水属性基本魔法が自由自在に形を変えられるのなら、炎も自由に形を変えられる?

 それなら、他の魔法が必要なくなるんじゃないか?


 色々思う所はあるが、考えたところで結局はやってみないとわからない。


「考えるより、やるしかないか」


 右手に、いつものように魔力を込める。

 火の玉が一つ完成。


 これを頭の中で好きな形にイメージすれば、良いのかぁ?


 それなら、ナイフのような形をイメージしてみるか。

 それを放てば、少しでも気を逸らしてくれるだろう。


「…………出来ない」

「違うみたいだね」


 なんなんだよ!!! 時間がねぇというのに!!


 ――――ドカンッ!!


 固いもんがぶつかりあう音!

 アクアとソフィア、クラウドを見てみると、まだ戦闘が繰り広げられていた。


 さっきの音は、おそらくアクアが壁に追い込まれた音。

 ……追い込まれたって音じゃないけど。


 壁に背中を付け、ソフィアからの連撃を転がるように逃げている。

 だが、逃げた先にはクラウド。光の刃を振りかざすが、獣の爪で弾き、難を逃れた。


 お互い、一歩も引かない攻防。

 でも、おかしい。違和感が……。


「――――そっか。アクアは魔力が多い分、使える魔法が限られているんだ」


 俺と同じ。

 俺も、今広範囲攻撃を使ったり、魔力を考えずに放つと、自分に被害が来るから制限している。


 つまり、大きな魔法はお互いに、放てない。


 …………俺の右手に灯られている炎は、赤く燃えている。

 炎を使う理由は、威力を上げる事が出来るから。


 この、小さな炎のまま、威力を上げる事って可能だろうか。


 いや、出来るかどうかはやってみよう。

 それこそ、意識でどうにか出来るかもしれない。


「集中する」

「なら、僕ももうそろそろ参戦してくるよ。こっちに意識が来ないようにする。精霊二人は知里を任せたよ」


 アマリアが言うと、スピリトとリンクは顔を見合せ、頷いた。


「それじゃ、頑張って」

「当たり前だ」


 やってやる。

 ここで、アクアと互角に戦えるように進化してやるよ。


 ………………………………めんどくさいけど。

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