第322話 嬉しくねぇ優先順位なんだよそれ

「どう言う意味だ」

「勝てないとわかっているはずなのに、立ち続ける。今すぐに逃げればいいのに…………」


 そんなこと言われてもな……。


「今回の目的は知里ではないため、追いかけるようなことはしませんよ」


 あー、なるほど、そういう事か。

 確かに、今の俺ではアクアに勝てない。


 でも、俺の辞書には、逃げるという文字は存在しっ――てはいるし普通に逃げるけど、今は逃げるという選択肢は適切ではないからしない。


 それに、俺がいなくなったらソフィアを追いかけるという事だろう?

 何故か今は気配すら感じないけど。


 そう言えば、アンキもいなくなってる、どこ行ったんだ?


「まぁ、良いです。ここで知里を殺す事が出来れば、こちらとしては願っている事ではありますので」


 ニンマリと笑うと、右手を前に出した。

 また、さっきの見えない攻撃か!!


 魔力をかんっ――――なんだ!?


 一瞬で距離を詰められ、拳が放たれる。

 腕で受け止めるが、力が強すぎる!!


「がっ!!」


 後ろに吹っ飛ばされた。

 地面に背中をぶつけ、い、きが、しにくい、くっそ!!


 まさか、くっそ、やられた。

 俺の警戒心を、フェイクに利用された。


「ゴホッ!! ゲホッ!!」

『ご主人様ぁぁぁ!!』


 っ、スピリトのこえっ――――


 アクアが、俺を蹴り飛ばそうとしている。

 近距離、避けられねぇ!!


「~~~~fistflameフィスト・フレイム!!! ――――グッ!!」


 腹部を蹴り上げられた。

 地面に叩き落される。だが、布石は、うったぞ!!


「…………おやぁ?」

「ひ、ろがれ!!! fistflameフィスト・フレイム!!」


 アクアの足に、俺の炎魔法が纏わられた。

 合図を送ると、勢いよく炎が広がり始める。


「どうだ、火だるまになる気分は……」


 叫びもしなければ、余裕そうに立っている。

 火だるまになるだけでは駄目らしい。だが、それだけじゃねぇぞ。


 fist flameフィスト・フレイムは、属性違いの魔法なら同時に発動可能。

 しかも、纏わせることも出来る。


lama・waterラーマ・ワーター


 背後に六本の刃、手には水の刀。

 両手で掴み直し、火だるまになっているアクアへと突く。


「なるほど。属性二つ持ちだと、このような事も出来るんですねぇ~」


 ――――ガキンッ


「なっ――――」


 刺さらない、防がれているのか?

 無理やり押すが、震えるだけで変わらない。


 手で、抑えてんのか?

 炎が効いてねぇのか……。


「魔力、私の方が多いみたいですねぇ~」


 ――――パチン シュッ


 炎が、消えた。

 姿勢を低くしていたし、上から見下ろされる。


 俺の刀は、アクアの左手で防がれている。

 いや、防いではいない。しっかりと刺さっている。


 まさか、もう使いもんにならんから、あえて左手で庇ったのか?


「私の属性は、覚えていますかぁ~」


 こいつの、属性は水。

 …………弱点魔法は全く効かないという事なのか。

 隙を突いたとしても、意味は無いのか?


 っ、まずい!!

 右手に水魔法を纏わせた。獣のように大きくなる。


「――――なっ!?」


 刀が抜けない!? しかも、足も動かない。


 見ると、水が俺の足を固定してやがる。

 いつのまに!!


「残念です、知里。貴方がもっと強くなってから、目一杯楽しみたかったです」


 なんだ、こいつ。

 なんでそんなに、泣きそうな笑みを浮かべてるんだ?


「――――さようなら」


 獣の手が俺に向かって突き出された。

 体が――動かない。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「なら、殺すんじゃねぇよ」


 ――――っ!? ソフィア!?


 今まで姿を晦ませていたソフィアが、アクアの手を掴み止めた。


「おやぁ? ――――っ!」


 ――――ザシュッ!!


「光の、刃?」


 アクアの横腹に刺さっている。


「なにがっ――――っ!?」


 ――――ガシャン!!


「こ、今度は鎖!?」


 左右の建物から鎖が勢いよく現れ、アクアの両手両足を拘束。

 タイミングを見計らい、ソフィアが手を離し後退。


 俺もすぐに距離を取ると、駆け寄ってくる足音が聞こえ始めた。


「カガミヤさん!!」

「え、リヒト!?」


 よくわからんが、いつの間にかリヒトが汗を流しこの場に来ていた。


「なにがっ…………」


 っ、強い魔力!!


 振り向くと、身動きが取れないアクアの後ろに、巨大な土人形が現れていた。

 逃げ道を塞ぐほどの大きさはある土人形が両手を繋ぎ、上へと振り上げる。


「さっきの、お返しだぁぁぁ!!!」


 ――――ザシュッ!!


「えっ――」


 横腹を貫いていた光の刃は、肉を割き横へと薙ぎ払われる。

 後ろに視線を送ると、クラウドが眉間に深い皺をよせ光の刃を握っていた。


 すぐに飛びその場から離れると、上から影が差す。

 アクアも目を丸くし、土人形を見上げた。


 これ以上の言葉を許さないとでも言うように、土人形は手を思いっきり叩き落した。


 ――――ガンッ!!


「っ、土埃が!!」


 顔を両手で覆う。

 土人形という事は――……。


「カガミヤ!!」

「アルカまで来たのか…………」


 ふよふよと、アマリアが近づいて来る。

 まさか…………。


「さすがにやばそうだったからね。アクアも知里とソフィアに気を取られていたし、すぐに呼びに行かせてもらったよ」

「助かった」


 いつの間にいなくなっていたのは、二人を呼びに行ってくれたからだったのか、アマリア。


「おい、黒髪」

「おう、って、普通に反応してしまった……」


 黒髪っていう名前じゃないんだけどなぁ、良いけど別に。こだわりないから。


「まだ、あいつは動くぞ」


 見ると、土埃が晴れ、土人形の大きな手がアクアを潰した形で止まっている。


「――――まっ!」

「え、どうした、アルカ」


 アルカが驚きの声を上げた。

 同時に、嫌な音を土人形が鳴らす。


 この場にいる全員で注視していると、土人形に突如、ひびが入り始めた。

 それは徐々に音を立て広がり、最後には土人形が濡れたように変色し、崩れ落ちた。


「いってて……。さすがに、油断しましたねぇ。驚きましたぁ~、知里の気配に隠れていたのですねぇ~」


 カラカラと小石や土を払い、アクアが立ちあがる。

 頭から血を流しているな、強打はしたらしい。


 あと、横腹も抑えている。


「アマリア、酷いですぅ。まさか、仲間を呼びに行くなんて」

「いつも言っているでしょ、アクア。君、視野が狭すぎ。僕が離れた事に気づかなかったでしょ」

「気づきませんでしたねぇ。今はアマリアより、ソフィアと知里でしたのでぇ~」


 嬉しくねぇ優先だな。


「まぁ、人数が増えたところで意味はありません。知里より弱いのだから」


 俺を基準にするな!!

 なんか、腹立つわ!


「それは、どうだろうな」

「っ、あ、あれ?」


 ソフィア、しっかりと立ってる?

 しかも、いつの間にか止血もされている。


 そういや、クラウドも怪我が、ない。普通に光の刃を出しているし。


 まさか――……


「…………あぁ、そう言えば、後ろの魔法使い。回復持ちでしたねぇ」


 リヒトを指しているのは明らか。

 振り向くと、息は切れており、辛そう。それでも、杖を強く握り、アクアを睨んでいる。


 その奥には、アンキもちゃっかりと治されていた。

 だが、さすがにちぎれた腕までは治せなかったらしく、そこだけは白い布で巻いている。


「…………これは、少々厄介ですねぇ」


 ソフィアの怪我は、もう完全に完治している状態。

 逆に、アクアは傷だらけ。


 互角にやり合ったであろうソフィアが立ち直った今、不利なのは確実にアクアの方だ。


「これは――――面白くなってきましたねぇ~」

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