第321話 そんな直球に言わなくてもいいじゃん、悲しいよ……。
「やはり、知里はまだ弱いですねぇ~」
「…………」
何が起きたのか、わからない。
今のは、魔法なのか?
いや、呪文を唱えなかっただけで、俺達と同じ魔法を発動しているはずだ。
今のは、見えない刃の魔法、か?
ちっ、何でもありかよ。
魔力が化け物というだけでも、厄介だと言うのに……。
今、ソフィアが居なければ俺の身体は真っ二つ、怪我人に助けられちまった。
「すぐに体勢を立て直せ。次が来るぞ」
「あ、あぁ、悪かった」
ソフィアは直ぐに立て直している。
クラウドも、体を支えながら立ちあがっていた。
俺も、すぐに立て直さないと。
「今の魔法は、見えないだけでただの魔法だ。魔力を感知できる。お前なら、魔道具が無くても感知可能だろう」
え、俺ならって言い方、なんだ?
「魔力をいつでも感知できるように集中しろ。そうすれば、どこからどの範囲の魔法が来るかは大体わかる」
そんなこと急に言われても――――っ!
「来るぞ!」
アクアがまた右手を前に出した。
「――――っ!」
感じたぞ、魔力!!
すぐに魔力の感じた方向とは逆側に飛ぶ。
ソフィアも同じく飛ぶと、またしても地面が抉られる攻撃が放たれていた。
「おやぁ、今度は自分で避ける事が出来ましたか。凄いですねぇ~」
「馬鹿にしやがって…………」
こんな、狭い場所では放てる魔法が限られる。
俺の魔法が圧倒的に不利なんだよ此畜生。
魔力は感知できたから、もう見えない攻撃の対処は問題ない。
それより、攻め方だ。
接近戦に持ち込むか? だが、アクアも獣の爪で応戦してくるだろう。
俺は、まだ刀の使い方を理解していない。
「戦闘中に考え事ですかぁ~?」
「っ!? くそが!!!」
気配を感じさせず、目の前まで来たアクア。
顔に狙いを定め、右手を繰り出す。
すぐに体を捻じり回避。後ろに飛び、距離を取る。
頬を、切った。
だが、その程度で済んだと考えよう。
血が流れる頬をグイッと拭き、笑っているアクアを見る。
まだ、動きに変化はない。だが、いつ魔法を放ってくるかわからない。
「…………スピリト、リンク。任せた」
言うと、眉を吊り上げ戦闘態勢の精霊二人が姿を現した。
『『主の、仰せのままに』』
二人とも、怖気づいていない。
いつもはビビりまくっているくせに。
こういう時だけそんな顔すんなよ、まったく……。
そんなにやる気満々だったら、俺も、全力を出さねぇと、失礼だよなぁ。
魔導書に、魔力を込める。
アクアが動き出すかと思ったが、目を輝かせ見て来るだけ。
余裕じゃねぇかよ。
その顔の吠え面を拝みたくなったな。
「――――
人間くらいの大きさをイメージし発動、スピリトに放つ。
すぐに操作を移し、リンクもアクアの近くにワープゾーンを作り準備完了。
何が起きているのかわかってないな。
周りを見て、何が起きるのかワクワクしながら待っている。
本当に戦闘狂って、文字の如く狂ってんな。
「油断しているのも、今のうちだぞ」
スピリトが杖を抱え、竜を操作し始めた。
『ヤァァァァア!!!』
クルクルと上で回したかと思うと、杖を振り下ろす。
炎の竜が動きに合わせるようにアクアへと向かった。
すぐに消してやろうとしたらしく、右手を前に出す。
だが、リンクがワープゾーンを炎の竜の前に出した。
「っ!」
消えた――――そう思っただろう。
「あっ――」
アクアの近くに出していたワープゾーンから突如、勢いよく炎の竜が現れた。
さすがに避ける事は間に合わず、片腕で防ぐ。
――――ドカン
食らった。
だが、どうせダメージなど受けてないだろう。
もう一度同じ魔法を発動。
二体目の炎の竜を出し、もう一度同じく食らわせる。
煙が舞い上がり、アクアがどうなっているのかわからない。
目を離さないでいると、人影が見え始めた。
「無傷なんてことは、ないよなぁ……」
…………? あれ、ソフィアが消えた?
そう言えば、アマリアとクラウドもいつの間にかいなくなってる。
「一体どこにっ――――」
強い気配。まさか…………。
煙が舞う所をもう一度見ると、絶望。
「今のは少し、驚きましたねぇ~。ですが、その程度でしたらもろにくらっても意味は無いようですぅ~」
余裕の笑顔。
俺の魔力と、スピリトの魔力。二つをリンクが作り出したワープゾーンを使って、あんな近距離でもろに食らったんだぞ?
なんで、無傷なんだよ……。
「悔しそうですねぇ。仕方がありませんよ。私ですから」
「自己肯定感高いな、ナルシストか?」
「強いのは、事実でしょう?」
認めたくねぇ、認めたくはねぇよ。
だが、強い。
マジで、強すぎる。
勝てるビジョンが浮かばない。
ここまでの差、今までの管理者達が戦闘に特化していないのがすぐにわかる。
アクアが別格というのもあるんだろうけど。
「うーん。もうそろそろ、本気で知里を殺すように伝達されているんですよねぇ。今でしたらすぐに殺せそうですぅ~」
「そう簡単に、殺されてたまるかよ……」
だが、どうする。
どうすれば勝てる。
ここまで無傷だと、他の魔法を使っても意味は無いだろう。
ソフィアはどうやってあそこまでアクアを苦しめたんだ。
いや、苦しめてはいないか。
どうやってあそこまで傷を付けた。
見てみた感じ、腕と首は完全に食らってる。
爪で傷つけられた跡があるし、さっきから左手を動かさない。
おそらく、左手、折れているか、傷つき動かすのも辛いのか。
どっちにしろ、左手は使えない状態になっているだろう。
「ふふっ、知里。哀れですね」
「…………は?」
な、なに、哀れ?
おい、何いきなり罵倒しやがる。
流石に、その、あの…………。
現実突き付けるのやめてくれませんか?
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