第319話 ここからまたしても大きく何かが動き出したような気がする

 アンキが気まずそうに言うと、ソフィアは沈黙。

 何も言わず、表情一つ変えない。


 数秒、気まずい空気が流れ、最初は我慢していたアンキだったが、徐々に恥ずかしくなり顔が赤くなる。


 それでも、ソフィアは何も言わない。

 我慢の限界というように、アンキが子供のように地団太を踏み始めた。


「なんで何も言わないんすか!? 恥ずかしいから何か言ってくださいっす!!」

「いや……。さすがに予想外だったからな。唖然としてしまった」


 なにも言わなかったのは、言えなかったからだというのが今の言葉でアンキは理解。

 そうだとしてもと、また抗議しようと口を開く。


 だが、それより先にソフィアが口を開いてしまった。


「安心しろ。利用される気はさらさらない」

「でも、ソフィアさんは天然だから、いいように言いくるめられるかもしれないじゃないすか…………」

「天然? 誰がだ」

「…………何でもないっす」


 ソフィアは、自分が天然だということを理解していない。

 問いかけるが、アンキは答えず肩を落とし項垂れた。


「よくわからないが、まぁいい。俺は、バラバラ野郎の言うことを素直に聞くほど愚かではない」


 バラバラ野郎というのが誰なのかすぐに理解できなかったが、アマリアの瞳が左右で違うのを思い出す。


「バラバラ野郎は面白すぎっす。髪の色じゃないんすね」

「目の方が印象が強かった」

「ソフィアさんらしいっすね。表情一つ変わらないのに」


 ケラケラと笑うアンキがわからず、ソフィアは首を傾げる。

 ひとしきり笑うと、アンキは満足したように腰に手を持っていき、地面を見た。


「あー、まぁ。いいっす。おれっちの気にしすぎだったっす」

「よくわからん奴だ」


 最後の言葉に、またアンキは笑う。

 時間を無駄にしたと、ソフィアはアンキの隣を通り、歩みを進める。


 アンキは、その場で振り返り、ソフィアの背中を見続けた。

 足は前に出ず、進まない。


 目を細め、じぃっと見続ける。


「…………ソフィアさんは、俺っちが見つけたんすよ、誰にも、渡さないっすっから」


 誰にも聞こえないほど小さな声で、呟く。

 ソフィアは、そんなアンキの心情など全く気付いておらず、何事もなかったかのように振り返り、「行かないのか?」と、問いかけた。


「今行くっすよぉ~」


 笑顔を浮かべ、駆け寄り隣を歩く。

 そのまま、足音一つさせず二人は歩みを進めた。


 先ほどとはまた違う沈黙、気まずさはなく、今まで通りの二人に戻る。


 だが、すぐに二人の歩みが止まってしまった。

 理由は一つ、人ではない何かの気配を感じたから。


 その場で止まった以外に、二人の行動に変化はない。

 空気は一定、気配も変えない。


 そこは、今まで培ってきた経験が二人の行動を決めていた。


 気配殺気を感じ取った二人は、相手に悟られないように目を合わせ、次の動きを確認。


 そんなことをしていると、闇が濃くなり始める。

 すぐに顔を上げ警戒を強めると、闇が霧のように一つに集まり始めた。


 徐々に大きくなり、そこから一人の青年が姿を現した。


 銀髪を揺らし、藍色の瞳を向ける。

 手は獣のように大きく、爪は鋭くなっていた。


 黒いローブを翻しながら、地面に足を付ける。


「いきなりすいませ~ん。ソフィア=ウーゴ。あなた、管理者になりませんかぁ~?」


 ※


 深夜、アルカやリヒト達が寝静まった時だった。


「……………………」

「目、覚ましたんだ」

「あぁ」


 アマリアも気づいたらしいな。

 外からの、異様な気配を。


「誰だ」

「誰かは定かではないけど、実力は高いだろうね。知里以上かも」


 だよなぁ。

 どこだ、どこで戦闘をしている。


「まさか、管理者というわけじゃないよな?」

「…………管理者だと、一番可能性があるのはアクアかな。気持ちが昂ると殺気を隠し切れないし」


 アクアかぁ。

 もし、アクアが動いているんだったらやばすぎる。関わりたくないし、危険だ。


 だが、俺の所に来ないという事は、他が目的という事だよな。


「タイミング的に、一人だけ思い当たるね」

「え、誰だ?」

「わからないかな。なら、ヒントをあげる」


 ヒントじゃなくて、答えをくれよ。


「管理者は今、知里のせいで三人失っている。人数が足りない状態、実力の高い人材を探していてもおかしくはないよね?」

「…………え」


 それって、仲間に出来る人材を今、勧誘しているって事?


「少しはわかったらしいね。でも、アクアと決まったわけじゃないし、確認しないと確定は出来ないよ」


 あぁ、左右非対称の目が俺を見て来る。

「行かないと駄目だよね?」と、訴えて来る。


 くっそ…………俺の睡眠時間……。


 悲しみながら扉を潜ろうとすると、後ろで動く気配。

 振り向くと、クラウドが目を擦りながら俺達の方を見て立っていた。


「俺様も行く」

「………………………………はい」

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