第318話 いい話ではないことは顔を見ればわかった。

 おっ、アマリアが戻って来た。

 …………いい成果はなかったらしいな、顔が沈んでる。


 部屋で待機していたアルカとリヒトも、アマリアが戻ってきた事で話をやめて、振り向く。


 ちなみに、グレールとロゼ姫はいま不在。

 自身の部屋に戻っている。


 クラウドは変わらず寝ており、俺は通帳を眺めていました。

 祝福の時間だったなぁ。


「何かあったのか?」

「まぁ、なんかあったといえば、なにかあったかな」


 なんだその、曖昧な感じ。

 いい情報をゲットできなかったのはわかるが、そんな曖昧だと逆に気になってくるんだが?


「気にしなくていいよ。明日にはわかるかもしれないし」

「なんだよそれ…………」


 後引く嫌な感じだな。

 悪い方向に動いていないのならいいけど…………。


「今日はもう体を休めようか。明日はソフィアとの対戦があるでしょ? 僕も、リヒトの修行内容を考えようと思っているから集中する」


 え、リヒトの修行?


 よくわからず見てみると、顔が真っ青。

 でも、嫌がる様子はないな。


 なんか、怖いけど、覚悟は決まっているような感じだ。


「よ、よろしくお願いします!」

「うん。厳しく行くから覚悟してね」

「………………………………はい」


 めっちゃ不安そうだけど、本当に大丈夫か?


 ※


 アマリアと別れ、裏道を歩いていたアンキとソフィアは、無言。

 いつもはアンキがうるさいくらいに話して、最終的にはソフィアから鉄拳を食らいようやく黙るのが流れ。


 今回は、アンキがずっと何も話さない。

 ソフィアからしたら思ってもない静かな空間に喜ぶところだが、それとこれとは別問題。


 さきほどのアマリアへの態度と、今。

 絶対に何かあると思い、ソフィアは表情に出さず考える。


「…………アンキ」

「なんすか、ソフィアさん」


 返事に違和感はない。

 一つ言うと、覇気がなく、目線がソフィアへと向かない。

 いつも目を合わせ話すアンキからしたら珍しい。


 ソフィアは、天然発言が多く、よくアンキにからかわれてはいるが、人を見る目には長けており、敏感。


 アンキがいつもと変わらないような振る舞いを意識しても、無理しているのはソフィアにはまるわかり。

 だが、どのように聞けばいいのかは、ソフィアでもわからない。


 今まで人と絡んでこなかった。

 人を殺害の対象としか見てこなかったソフィア。


 言葉の流れ、相手の発言予想。

 色々を考えなければならないため、会話が苦手なソフィアからしたら難しい。


 表情は変わっていないが、内心焦っているソフィアは、次の言葉が出てこない。


 呼ばれたのに、次の言葉が出てこないソフィアに、アンキはやっと目を向け首を傾げた。


「どうしたんすか?」

「…………いや」


 悩んだ末、ソフィアは一度足を止める。アンキも、同じく止め振り返る。


 なんとか頭をフル回転させ言葉を探すが、どうしてもわからないため、もうソフィアは色々諦めた。


「もう、どうでもよくなった」

「え、な、何がっすか?」

「単刀直入に聞く」


 少し前で立ち止まったアンキに追いつくように、ソフィアが歩き目の前に。


「え、えぇっと、ソフィアさん?」


 ソフィアの身長は低いが、アンキはもっと低いため、見下ろされている状態に。

 凄みのある深緑色の瞳に睨まれながら言われてしまい、さすがのアンキもたじろぐ。


 口元を引きつらせ聞くと、ソフィアがやっと本題を口にした。


「さっきの反応と、今。アンキ、おめぇは今、何を考えている?」


 本当に単刀直入だなぁと思いつつ、アンキは呆れたように顔をひきつらせた。


「あー、やっぱりという感じっすよ」

「気配がうざい、反応が気持ち悪い、めんどくさい」

「あ、はは…………。すいませんっす…………」


 今のソフィアと少しでも距離をとるため、後ろに下がる。

「んー」と考え、夕暮れに染まる空を見上げた。


「なんか、あの管理者、おれっち、いやっす」

「嫌? なにがだ」

「何がと言われるとあれなんすが……。なんか、むかつかないっすか?」


 アンキがげんなりとした表情で聞くが、ソフィアはピンとこない。

 考えるが、むかつく要素もなく、首を横に振った。


「あー、まぁ、そうっすよ。ソフィアさんはそうっすよねぇ~」


 ケラケラと笑うが、目は笑っていない。

 ソフィアから顔を逸らし、地面を見る。


 重苦しそうな口を開き、ソフィアに言った。


「なんか、ソフィアさんをいいように利用してやろうと思っていて、むかついたんすよ」

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