第317話 情報交換と焦り

 知里から離れ、アマリアは城から出たソフィア達を探していた。


 すぐに追いかけたつもりだったが、もうすでに二人はいない。

 魔力を感知しようとしても、ソフィアには魔力自体がないため、意味はない。


 せめてアンキの魔力だけでもわかればと思い、アマリアは魔力を探す。


「…………」


 目を閉じ集中するが、見つからない。

 上から探すかなと思い、顔を上げる。


「――――あ」


 一瞬、気配を感じた。


「…………あっちからかな」


 微かに感じた魔力を頼りに、アマリアは上空から向かい始めた。


 今の時間帯は、夕方くらい。

 まだ人の通りは多く、気配が探りにくい。


 それだけならまだマシなのだが、裏社会の人間として生きてきたソフィアとアンキの気配は、他の人とは異なる。


 感じにくく、他人に悟らせない。


 だが、ほんの少しだけでもわかれば、アマリアなら見つけることが可能。


「人込みを避けた動きをしているな」


 すぐに軌道を変え、人が少ない場所へ移動。


 どこの町にも寂れた場所は存在する。

 建物が続く裏側は、人がいないため静か。


 上から覗く必要もないため、アマリアは下へと降りる。

 地面に足を付けると、思っていたより体が重く「うっ」と唸る。


「…………ダイエット、しないと駄目とか、ないよね…………」


 少し落ち込んでいると、後ろから気配を感じた。

 振り向こうとするが、風を微かに感じたため、姿を確認する前に横へと飛んだ。同時に体を捻り、後ろの存在を確認。


「…………ご挨拶が過激だね」

「まぁな、何の用だ」


 後ろから近づいてきていたのは、アマリアが探していたソフィアとアンキ。

 拳を繰り出されていたため、咄嗟に避けたのはいい判断だった。


 アマリアは冷静に服を正し、空中に飛び、そう簡単に拳が届かない位置に移動。

 口に長い袖で隠れている手を持っていく。


「少し、聞きたいことがあって追いかけて来たんだけど、いいかな」

「内容による。早く話せ」

「わかった。君は、なぜ表社会に来たの?」


 アマリアから放たれた言葉に、ソフィアは微かに眉を顰めた。

 隣にいたアンキは「あ~」と、気まずそうにソフィアを横目で見る。


「それを答える理由はなんだ」

「僕が知りたいから――じゃ、駄目なんだっけ」

「話にならんな」


 ソフィアはアマリアとの話を早々に終わらせようと、クルリと振り返り歩き去る。

 だが、そこでアマリアが諦めるなどありえない。すぐに呼び止めた。


「まぁ、そんなこと言わないでよ。情報交換をしよう」

「いらん」

「本当に? あ、もしかして知らないかな。僕、元管理者なんだけど、それでも情報、いらない?」


 再度、アマリアが挑発するように問いかけると、ソフィアは一度足を止めた。

 視線だけを後ろに向け、アマリアを見上げる。


「管理者としてのプライドはさすがにあるのでね。その、僕が持っている情報と引き換えに、僕が聞いた質問に答える。これでお互い、悪いようにはならないでしょ?」


 アマリアの言葉に、アンキが片眉を上げ、不機嫌そうに口をへの字にし、先に動き出した。


「情報が手に入れることが出来ても、それがなんで俺っち達のメリットになるんすか? デメリットしかないと思うんすけど」


 アンキが抗議する中、ソフィアは何も言わない。

 体を振り向かせ、アマリアを見上げる。


「ここまで行っても情報交換出来ないのなら、今回は諦めるよ。でも、君の大将はそう思っていないみたいだよ?」


 アマリアの言う通り、ソフィアは何も言わず、考え込んでいた。


 自分にとって何が一番不利にならないか、デメリットが少ない方法は何か。

 それを考えている。


 まさか、考え込むとは思っていなかったアンキは、今度はソフィアに抗議。


「何を考えているんすかソフィアさん! 考える必要もないでしょう! 情報なんぞ、いくらでも自ら手に入れることができるっす。今までと同じじゃないっすか!」


 なぜか、アンキは必死だった。焦りも滲み出ている。

 ソフィアは、なぜここまでアンキが必死なのかわからず、首を傾げ何も言わない。


 アンキを落ち着かせるため、ソフィアの代わりにアマリアが情報交換の大切さについて伝えた。


「確かに、今までは自ら欲しい情報を集めてきたのかもしれない。でも、その情報を予め僕が持っていたら? 必要な情報が僕が持っていたら? すぐに情報を手に入れることは出来るし、時間の短縮にもなる。それに、情報は、なによりも強い武器となる。それをしっかりと理解してから発言した方がいいよ」


 アマリアが言い切ると、アンキがまた言い返そうとするが、言葉が見つからず、口を閉じる。


 苦虫を潰したように顔を歪ませ、拳を握った。


「…………おい」

「なに?」


 今まで黙っていたソフィアがやっと口を開いた。

 アマリアはソフィアを見下ろし、目を丸くする。


「今回は保留にさせてもらう。お前は黒髪と共に普段は行動しているんだろう? これからは俺も行く。決まったら今回の件、伝える形でも問題はないか?」


 精一杯の譲歩。

 アマリアはソフィアの言葉に少し考えた末、頷いた。


「わかった。いい返事を待っているよ」

「あぁ」


 ここで二人の会話は終わり、それぞれ離れ、何事もなかったかのように静寂な空間が裏路地に広がった。

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