第316話 裏社会とは関わりたくはないな

 だが、さすがに俺ももうそろそろ止めないといけないとは思っている。

 グレールが限界なのと、ソフィアも不機嫌になって来たっぽい。


 アルカからも視線で訴えられているし……。

 …………もう!!!!


「ロゼ姫、さすがに話せないことを話させるのは色々めんどくさい。それに、そっちが信用していないのなら、こっちも信用しなければいい」

「そういう問題ではありません。今後、共に行動するのでしたら、少しでも知っておかなければならないです」


 まぁ、そうなんだけどさ。

 正直、俺も興味ないんだよね。こいつらのこと。


 悪いことを企んでいるのなら別だけど、そうじゃないのなら、特にいい。

 変なことをしそうなら、直ぐに警戒を強めればいいだろう。


「こいつらと共にこれから冒険していくわけじゃないぞ。あくまで、俺を育てるという名目の元、一時的に一緒にいるだけだ」

「そうだとしても…………」

「それに、こっちも情報を明かさないでこのままの距離感でいくつもりだ。バレて困る情報がある訳じゃないけど」


 説得するが、まだ渋い顔を浮かべてんなぁ。

 でも、ソフィアを説得させるより、ロゼ姫の方が話は通じる。

 悪いが、我慢してもらおう。


 そう思ったのに、思ったのに……。


「あのさぁ、わかるよ、わかる。自分の主が間違っていると言いたいんですかっていう気配を俺は理解している。でも、さすがにこれはやりすぎじゃないか?」

「チサト様、やりすぎではありません。チサト様は今、ロゼ姫様をぶじょっ――」

「してないからしてないから。ロゼ姫の方が話が通じると思ったからだって。ロゼ姫の方を信用しているから話を持ちかけたんだって」


 何とか誤魔化そうとするが、グレールからの冷たい視線と首に添えられている氷の剣は離れてくれない。


 殺気も微かに感じるし……はぁ。

 これは、どうするべきか……。


 考えていると、今まで静観していたアマリアがやっと動き出した。


 何か算段があるのか? 

 頼む、俺を助けてくれ。


「グレール、ロゼ。一つ忠告するけど、裏社会について少しでも知ってしまえば、管理者以外にも命を狙われる可能性が高くなるよ」


 ――──え。


 今、なんか、最悪な言葉が聞えたような気がしたんだけど、気のせい?


「…………」

「グレールはわかったみたいだね」


 グレールが途端に静かになった。

 でも、ロゼ姫はまだわからないのか、首を傾げている。


「裏社会の常識は、表社会の常識とは違うんだ。安易に首を突っ込めば、簡単に狙われ命を落とす。それくらいシビアで、危険な世界なんだよ」


 ロゼ姫が息を飲んだ。


「今まで知らなかったかもだけど。だからこそ、聞かない方がいい。グレールが守るにしても限度があるからね」


 アマリアの言葉に、ロゼ姫は口を閉ざす。

 目線を落とし、「わかりました」と、引き下がってくれた。


「アマリアは、裏社会について詳しく知っているのか?」

「まぁね。ただ、命は狙われていないよ。さすがに返り討ちにされると思っているみたいでね」


 そりゃ、そうでしょうよ。

 今はわからないけど、仮にも管理者だったんだからさ。


 はぁ、話の持っていき方とか、少しヒヤッとする内容ではあったが、二人は落ち着いてくれた。


 一段落ついたかと、ソフィアが周りを見たあと、最後に俺を見てきた。


「もう、本題を進めてもいいか?」

「あ、あぁ」


 なんか、なんだかなぁ。

 ソフィアという男、話は通じるし、冷静でいいんだけど、これはこれでめんどくさいな。


 多分だけどこいつ、なにか行動を起こす時は、自分に利益がないと動かないんだ。


 理由がなければ動かず、話さない。

 さっきも、ロゼ姫の安否を気にしたのではなく、自分に利得がなかったから話さなかったんだろう。


 今も、これ以上の無駄話をしないように本題に無理やり入りやがったしな。


 その方が俺も無駄に時間を使わなくていいからいいんだけど。

 絶対に、この場にいる俺とアマリア以外とは合わないな。


 俺と意見が合うと言うだけで、他の奴とは合わん。

 深く考えず頷くと、ソフィアが腕を組み話し出した。


「それなら、まず、お前の通常の戦闘能力を見せてほしい」

「え、それならさっき、タックバトルで見ただろう?」

「あれはお前の本気ではない」


 言いきられた……だと?


「単体で戦った方が、お前の場合は実力を発揮するタイプだろう」


 何故、ここまではっきりと言い切る。

 まぁ、確かにそうだけど。少し悔しいな。


 ペアだと、相手のことも考えて戦わなければいけなかったし、二対二だったから集中も出来なかった。


 でも、そうだとしても、大きく実力が変わるなんてことはないと思うぞ。


「俺は、実戦で相手を知るタイプだ。悪いが、一戦やるぞ。明日にでもな」

「あ、今すぐではないのね」

「さすがに疲労があるだろう。俺は、お前の最大値を見たい。魔力も減り、体力も削られている今のお前と戦ったところで、意味はない」


 本当に、意味のないことは嫌いらしい。


「それなら、今はもう解散か?」

「俺はそれでもかまわない」


 言うと、ソフィアは外套を翻し、ドアへと向かう。


 アンキも慌てたように立ち上がり、「待ってくださいっすよ~、ソフィアさ~ん」と、共に行く。


 ドアがパタンと閉じられると、さっきまで重かった空気が途端に軽くなった。

 アルカとリヒトも、やっと肩の力が抜け、息を吐く。


 クラウドは欠伸を零し、グレールとロゼ姫はまだ納得できない部分があるのか、ドアを見据えていた。


 一人、アマリアがふよふよと俺に近づいて来る。


「ちょっと、ソフィアと話して来てもいい?」

「え、いいが、何か気になることでもあるのか?」

「少しね」


 言うと、アマリアも部屋を出る。

 あまり離れすぎないように気を付けるんだぞ~。

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