元殺し屋
第315話 頼むからもう少し冷静に話し合おうぜ
定位置に座り、アンキは床に胡坐。
ソフィアは、他の部屋から持ってきた椅子に座り、足を組んでいる。
俺はベッド、左右にはアルカとリヒト。
椅子にはロゼ姫、出入り口にはグレール。
空中にはアマリア、アンキの隣にクラウド。
こう見ると、結構な大人数だな。
部屋が広いから狭くはないけど。
「…………」
……………………。
誰も、話さない。
え、これは俺が切り出さないといけない感じ?
しきれと無言で言われてる?
嫌だよ、めんどくさい。
でも、この重い空気もどうにかしたい。
どうすればいいんだよ……。
遠い目を浮かべている俺の心情を察してか、アンキがソフィアに話すよう促してくれた。
「…………ソフィアさん、まずはソフィアさんの事を話さないとややこしくならないっすかぁ~?」
「それもそうだな」
言いながら、ソフィアが俺の方に顔を向けた。
やっと話してくれる気になってくれたかぁ。
待っていると、長い前髪を右手で掻き上げ始めて――――え。
掻き上げた事で、今まで隠れていた右目が露わになる。
そこは、予想もしていない程に黒く染まった肌に、黒い瞳。
左目が深緑色で鮮やかなだけに、隠れていた右目が酷く、どす黒く感じる。
「これは生まれつきだ。俺の右目は、人のマイナスな思考、言葉が文字になり見えちまう」
「マイナスな、思考?」
「人を恨む心、憎む心。怒り、悲しみといった負の感情だ」
そんなこと、あるのか?
「俺は、これを一種の呪いだと思っている」
「呪い?」
呪いという言葉、最近聞いたな。
カウもチィにかかった魔法、呪いを解くために竜魔法使いを探していた。
この世界では、魔法が当たり前。
その代償として、呪いにかかる人なども結構な数いるのだろうか。
世界のバランスを崩さないように、どこかでそろえなければならない。
それが、呪いなのか。
勝手に考えていると、ソフィアが付け足すように話す。
「それだけじゃなく、俺は魔力を持っていない。だから、魔法が一切使えない」
「…………え、そんな事、あるのか?」
「あるらしいぞ。俺がそうだからな」
当たり前のように言っているが、この世界でそれは、大変という言葉では片づけられないほどの悲惨な人生を送ってきたんじゃないか?
「おい、哀れむようなことはするなよ。俺は、そこまで困っていない」
「…………哀れむかよ、お前なんぞ」
「それならいい」
それだけを言うと、口を閉ざしちまった。
え、いや、待って? 口を閉ざさないで?
まさか、今の情報だけで全てを理解しろって事?
無理やろ。
「ソフィアさんは、魔法が使えない分、筋力強化と武術を独学で学んできたっす」
「ん? 武術?」
「そうっす。それだけじゃなく、魔道具についても色々調べ、自分に合う物を探し出したっす。それが、今の服っすよ」
自身の腕を差し、堂々と言ってくる。
服が、魔道具?
「あの、一つよろしいでしょうか」
おっ、ずっと黙っていたロゼ姫が手を挙げ、はつげっ──……
「なんすか!? 姫様の質問なら何でもお答えするっすよ! ここで恩を売り、いらなくなった金目のもんはおれっちのっす!!」
「出てる出てる、本音まで全て口から出ちまってるから。ついでに表情にも出ちまってるから、涎は拭え」
はぁはぁと、息荒く受け答えをするアンキは本当に気持ち悪い。
金目のもんに貪欲というか、欲望に忠実というか。
「もっと、自分の欲を抑える事は出来ないのかねぇ…………ん?」
なんか、アルカとリヒトが俺をじぃ~と見て来る。
なに、なんだよ。なんだよ、その目。
なんか、疑われてる?
…………分かんないから、いいか。
ロゼ姫は特に、アンキの本音に対しては何も思わなかったらしく、表情が変わらない。
いつでも冷静なのは、ロゼ姫のすごいところだよなぁ。
「貴方達の素性、話してはいただけませんか?」
あ、めっちゃ警戒している。
裏社会の人間は、確かに信用は出来ないよなぁ。
こいつらは、なんて返すのだろう。
「あー、なるほどっすねぇ。どうするっすか? ソフィアさん」
アンキが、ソフィアにすべてを託した。
大丈夫だよな? 漏らしてもいけない情報まで、言ったりしないよな?
いや、隠されている方が俺としては嫌なんだが、聞きたくない情報まで知るのも、今後の付き合いに関わってきそうだし。
ヒヤヒヤしながら待っていると、ソフィアが少し考え、答えてくれた。
「素性をすべて明かすのは不可能だ。俺も、まだ命は欲しい」
「つまり、話せない話が多々あるということでよろしいのでしょうか?」
「そういうお前は、話せないことが一つもないのか?」
おっ、ソフィアの反撃。
ロゼ姫はどうするんだ?
というか、今、ソフィアがロゼ姫を”お前”呼ばわりした時、グレールが一瞬牙をむいた気がしたんだが?
一瞬、部屋一帯が寒くなったような気がしたんだが?
「…………そうね。確かに、誰であろうと、話せないことはあるわね」
「ふん」
腕を組み、ソフィアはそっぽを向いた。
さっきのグレールの気配を感じとったらしいな。
「それなら、話せる範囲で話してもらえないかしら」
「それは必要か?」
「貴方を信用したいの」
「お前からの信用は、俺にとってなにか特になるものはあるのか?」
やばい、我慢しているけど、もうそろそろグレールが限界だ。
今は何とか抑えているけど、GOサインが出たら一瞬にしてここが戦闘場になるだろう。
アルカとリヒトも体を震わせている。
アンキも「やっべぇ」という顔を浮かべてんな。
「助け船、出さんでもいいのか?」
「俺は巻き込まれたくはない」
なんで、クラウドが俺に耳打ちしてきやがる。
ほんと、勘弁してくれって!!
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