第314話 俺の声って、相手にとっては聞こえないモノになるのか?
今回の勝敗は、俺達の勝ちとなり、タッグバトルはここで幕を閉じた。
「なんか、納得いかない勝利だな」
「素直に喜べるものではないね。…………一人を除いて」
リヒトからの視線を感じるが、知らん。
アルカとアマリアの会話が聞こえてくる。が、俺は知らん。
クラウドは、今だ興奮しているのか、ホクホクと俺を見てくる。
リヒトとはまた違った目線、気にしたら負けだし無視だ。
俺は、受け取った賞金、三百万ヘリトの入った通帳を見ているんだ、邪魔をするな。
この通帳は、アルカが持っていた通帳ではなく、別物。
最初は、賞金を鞄に入れて渡してきやがったから、さすがに三百万ヘリトを現金そのままでは受け取れないと。
それを申し出すと、専用の通帳に三百ヘリト入れてくれた。
その後に魔導書を貰って、表彰式とかあったが、正直出たくなかったから欠席させてもらった。
困惑していたが、賞金さえ手に入れる事が出来れば俺はどうでもいい。
そう、どうでも、いいんだ。
通帳を手に入れたから、三百万ヘリトを手に入れたから、どうでも……はぁ……。
二人からの視線がうるさい。
「…………なんだ、ソフィアにカウ」
二人が俺の方を見て来るのがどうも鬱陶しい。
見ると、カウがソフィアの顔色を伺いながら一歩前に出て、俺の方に来る。
「試合、お疲れ様だった。まさか、あんな結果になるとは思ってはいなかった」
「俺も同じだ。殺される覚悟だったが、まさか、あそこまでの天然だとは思っていなかった」
実力を認めてくれたのも意外だったな。
今の俺では面白くないから、面白くなるように指導してやると言ったような言い方だったのが気に食わないが、まぁいい。
「お前はこれからどうするんだ? まさか、アルカが開花するまで付きまとう訳ではないだろうな?」
「さすがにそこまではしないさ。俺より、もう一人の方がお前に用事があるようだからな」
後ろを向くと、ソフィアが俺達の話が終わるのを今か今かと待ち構えていやがった。
隣にはアンキが面白そうに顔を覗き込み、何かしらを企んでいるような顔――――あぁ、うざいと思ったのか。ソフィアが頭を鷲掴み、強制的に離れされてる。
すっげぇ痛そう。
今は投げ飛ばされて、涙目を浮かべながら頭を押さえている。
まぁ、自業自得だな。
「俺は、また旅に出る。チィと共に」
子供のような姿をしている大人の頭を撫で、カウがそんなことを言ってきた。
正直、こいつらとはタッグバトルの時しか共にいないし、話も少ししかしていない。
別れを惜しむほどの間柄じゃないし、すぐにバイバイだ。
「それでだ、俺から一つ、お願いしたい事が――……」
「断る」
「アルカという少年が竜魔法を発動した時や、竜魔法について情報が入れば俺に教えて欲しい」
「おいおい、俺の言葉は聞こえていないのか? 断ると言っているんだが?」
「この魔道具で俺に連絡する事が出来る」
言いながら押し付けてきたのは、四角い機械。
なんか、スマホとも違うし、なんだこれ。
スマホのような大きさ、スピーカーみたいのが真ん中に付き、上には電波を受信するようなものが付いている。
「それは、これに繋げる事が出来る」
取り出したのは、イヤホン。
「さっきまでは、魔道具の使用が禁止だったから付けていなかったが、普段はこれを耳に付けて行動しているんだ。これで、いつでも俺にお前は話をすることが出来る」
へぇ、便利だな。
スマホとかがあれば一発解決なんだけど。
「…………って、おいおい。待ってくれ。俺は了承してねぇよ」
「それじゃ、任せたぞ」
「まるで俺の言葉が聞こえていないみたいだ。おい待てや、おい!!!!」
…………え、待って?
ガチでそれだけを言っていなくなりやがったんだが?
まさか、本当に俺の声は届いていなかったのか?
俺は、自分が声を出していると思っていたが、本当は出していなかったのか?
「アマリア、俺の声はきこっ――……」
「――えているから安心しなよ、ほら、次に話さなければならない相手が来たよ」
アマリアの言う通り、ソフィアが怖い顔でこっちに歩いて来る。
アンキも頭を支えながらこっちに来た。
……………………頼む、もう、勘弁してくれ。
無表情だから普通に怖い。ニコリとかわらって…………も、それはそれで怖いな。
「話をしてもいいか?」
…………こいつの実力は、さっきの戦闘でわかった。
マジで強い。
何だったら、グレールよりも強いかもしれない。
んなやつが指南してくれるというのなら、願ったり叶ったり。
これから、管理者との戦いも幾分か楽になるだろう。
ウズルイフは事前準備がえげつないが、戦闘自体は魔力でごり押しして何とかする。
戦闘で最も警戒しなければならないのは、おそらくアクア。
アクアの戦闘能力は、管理者の中でもトップクラス。
戦闘メインで行ってこなかった管理者でも、今までの俺は精一杯だったんだし、アクアを相手にするのは難しいだろう。
それなら、めんどくさいけど、ソフィアを利用するのはこっちとしてもメリットはある。
「俺を育てたいって話だろ?」
「そうだ。その点で、確認したい事がある」
「なんだ?」
「お前は、強くなりたい、という気持ちではなく、状況的に強くならなければならない。で、あっているか?」
なぜ、今そんなことを聞いてきた。
なんで、知っている。
こいつは、どこまで俺の情報を知っているんだ。
「怪しんでいるな」
「当たり前だ。なんで、俺について知っている。どこでその情報を手に入れた」
聞くと、少しだけ口を開くが、いきなり周りを意識し始めた。
「…………ここでは少々周りの目が気になる。詳しくは、もっと他で話したい」
「なら、俺がいつも世話になっている部屋にでも行こう」
「部屋?」
「あぁ」
もうそろそろ、グレール達にも話さないといけないしな。
部屋に戻れば、あっちから来るだろう。
そこでまとめて話した方がいい。
※
部屋に戻ると、案の定、グレールとロゼ姫が少し遅れて部屋にやってきた。
「先ほどまで見ていました。お疲れさまです、チサトさん」
「おー」
ロゼ姫が入って来たことで、さっきから興奮が隠せないアンキが口をあんぐり。
俺に近付いて来た、なんだ?
「ちょ、ロゼ姫様と友達みたいに話していたっすっけど。は、話せるんすか?!」
「え、お、おう」
「なっ! な、なんでそんなことになっているんすか!? うらやましいっす!!」
まさか、こいつ。
ロゼ姫に気があるのか?
まぁ、見た目は綺麗だし、姫だし。淡い恋心を持ってしまうのは仕方がないが……。
こいつ、結構な過激派だからやめておいた方がいいぞ。酸魔法で溶かされる。
「もし、姫とお近づきになれたのなら、なれたら…………色んな所で優遇されるじゃないっすか!!! 財宝とかも、いらない物とかを貰えるんじゃないすか!? それを売れば金になるじゃないっすか!!」
目が、金になってる。
あれ、なんか、急に俺、恥ずかしくなってきた気がするんだけど、気のせいかな。
なんか、既視感が……。
「アンキ、盗むなよ」
「大丈夫っすよ、目利きが鋭いのはわかっているでしょう、ソフィアさん」
頭の上に手を持っていき、適当に返事をしているが、ちょっと待て?
盗む? え?
まさか、あいつ。手癖悪い?
「盗まれて困るもんは、肌身離さず大事に持っていろよ」
「…………アンキって、元盗賊なのか?」
「盗賊ではない。裏社会で、俺と組む前は盗人として生活をしていたらしい」
…………なんか、もう。
この二人、キャラ、濃すぎる……。
また、俺が薄くなるじゃないかぁ~。
主人公じゃなかったか? 俺。
まぁ、このまま薄くなって村人Zまで落ちていくなら、それはそれでいいか。
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