第313話 あれは天然というより、あほなだけなんじゃないか?

「な、何を言っているんだ?」

「ん? 俺がお前を育ててやろうかと言っている」

「い、いや、それはわかるが」

「それなら、何を聞いている?」


 え、いや、え?

 何を聞いているって、いや、確かに。


 俺は、何を聞いているんだ?

 ちょちょちょ、頭おかしくなりそう……。


「ソフィアさん~」


 ん? アンキが何やら楽し気にソフィアを呼んでいる。


「なんだ」

「兄ちゃん、言葉の意味は分かっているけど、真意を理解していないんだと思うっすよ~」

「真意? なんの話だ」

「だから、ソフィアさんが兄ちゃんを好きになったから、自分のものというように育てたいんすんよね!! それを伝えきれていないということっす!」


 ……………………馬鹿らしい。

 はぁ、あいつは何を考えているんだ。

 なんか、肩に入っていた力が抜けた。


「? 俺は、好きとは言っていない」

「確かに言っていないっすけど、思っていますよね? だって、育てたいんすよね? それは、つまり好きの始まり。ソフィアさんは兄ちゃんに恋をしたんすよ!!!」


 高らかに宣言するアンキに歓声が広がる。


 なに、言ってんの? なに、言っちゃってんの?


「なにを言ってんだ、あいつ」

「俺にもわからん」


 つーか、これも作戦の一つか? 俺達を油断させようとしているあいつらの作戦か?


 ちょっと、油断しないようにしっ――――おいおい、なに顎に手を当て真剣に悩んでやがるソフィア君や。


 ま、まさか…………。


「…………そうか。これは、好きという感情なのか。俺は、あいつに恋をしたのか」

「ブフッ!!! そ、そっすよ、ソフィア、さん。~~~~!!! さぁ、もう一回、アプローチを、仕掛けましょう!」


 アンキが涙を浮かべながら、グッと親指を立てソフィアに言っている。


 え、なにあれ。


「アプローチ?」

「あー、そうっすよねぇ、分からないっすよねぇ。うーん。なら、耳元でさっきのお誘い文句を言えばいいと思うっす! ソフィアさんの声は低く、艶のある声。絶対にいちころっすよ!!」


 あー、俺は、何をすればいいの?


「わかった」


 わかるな。

 おい、クラウドも俺からナチュラルに離れるな。


 そんで、ソフィアは俺に近付くな!!


「…………」

「…………」


 目の前まで来たソフィアは、何故か俺を見上げて来るだけ。


 警戒しながら見ていると、グイッと背伸びをして顔を近づかせてきた。


 バランスを取る為、俺の両肩に両手が置かれる。


「……………………届かん、しゃがめ」

「なんで俺が命令されてんの?」


 あー、駄目だこれ。

 真面目に対応していたら頭がおかしくなりそう。

 ひとまず、引き剥がそう。


 べりっとな。


「! 何をする」

「お前、本気でやろうとしたのか?」

「? あぁ」

「なんで?」

「俺は、お前が好きらしい」


 ……………………これ、嘘、言ってねぇし、作戦でもなんでもねぇ。

 こいつ、アンキの言葉で俺の事が好きになったと、本気で思い込んでやがる!!!


「……………………よーく聞け」

「??」

「お前は、アンキに騙されている」


 言うと、ショックを受けたように顔を凍らせたソフィア。

 茫然と見られても、これ以上の事は言えんぞ。


 ……おっ、俺から離れた。


 どこに向かうのかとおもぉぉぉぉおおおおおおお!?


「ぐふっ、あ、あの。ソフィアさん、俺、み、かた…………ぐっ」

「その味方を騙して楽しんでいたのは誰だ、殺す」

「や、やだなぁ~。おれっちは、たのしんで、なん、ぎ、ぎぶぎぶぎぶ…………」


 アンキが首を絞められ、体を持ち上げられている。


 あれ、俺もさっき食らったからわかるが、相当苦しいぞ。

 本気で殺そうとしているように見えるのは、気のせいか?


「──あれが、天然の本領発揮か?」

「え、天然? …………あ」


 そういや。ソフィアは普段、ものすごい天然だって、アマリアが言っていたっけ。


 まさか、あそこまで? というか、天然という言葉で済ませていいのか?

 唖然としていると、審判が咳ばらいをした。


「あ、あの。勝負の方は…………」

「あ、今行います」

「よろしくお願いします」


 そうだった、今はタッグバトル中だった。

 あいつらが変なことを言い出すから、思わず空気が流れちまった。


「あ、あのぉ~。続き…………」

「…………悪かった」


 ドスンと地面に叩き落されたアンキは子供のように「いってぇぇえ!!」と泣き喚く。自業自得だろう。


「…………興覚めだ」

「え」

「今のお前と戦っても俺としては特に面白くはない。殺さないように手加減するので精一杯だ」


 ……………………マジで魔力を暴走させてやろうか。さっきは出す間にやられちまったが……。


「だが、今後、お前が本当の意味でそれぞれの魔法の使い方をマスターすれば、俺では敵わない」

「っ、え」

「それほどまでに、お前の持っている魔力、魔法は強力という事だ」


 深緑色の瞳は、嘘を言っているようには見えない。


「だから、俺がお前を育ててやる」

「…………俺が好きだからか?」

「気に入ったが、これが好きという言葉に当てはめていいのかはわからん」

「…………からかいました、スイマセン」

「なに?」


 あ、怒っちまった。


「ソフィアさん、その話は後でにしましょうよ。今は、タッグバトルっす、どうするっすか?」


 おっ、復活したらしい。

 アンキが首元を抑えながらソフィアに問いかけている。


「ただの暇つぶしだ。魔導書も賞金も俺には必要ない。お前の好きにしろ」

「なら、俺っち達の負けでいっすよぉ~」


 言いながら、アンキは場外に足を付けた。

 俺達の、勝利。


 ……………………嬉しくねぇよ!!!!!

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