第312話 敵に情けをかけてもらった気分で腹立たしいのだが?

「――――えっ」


 何が、起きた?


「ソフィアさん!!」


 アンキの焦った声がフィールドに響くのと同時に、赤い血が地面に落ちる。

 それはもちろん、俺のではない。


 俺の背後に背負っていた水の刃が勝手に動き、ソフィアの腕に突き刺さったのだ。


 今は、ソフィアが後ろに下がり、腕を支えている。


 色々わからんことが多い。

 ひとまず、クラウドは、どうした?


 周りを見ると、唖然とソフィアを見ている姿。

 見ている限り、傷はない。手には短い光の刃が作られていた。


「…………これは、おめぇの意思とは反する動きをする魔法、なのか?」

「い、いや、わからない」


 ソフィアが腕を支えながら問いかけてきたが、最近使い始めた水魔法、わかるわけがない。


 返答を聞くと、ソフィアは「そうか」と、傷ついた腕から手を放し、スクッと立ち直す。


「大丈夫なんすか? ソフィアさん」

「問題ない。問題にすら、なっていない」


 水の刃を無理やり引き抜くと、血がしたたり落ちる。

 だが、力を込めたのと同時に止まった。


 まさか、筋肉で止血した、のか? 

 え、そんな事、普通出来るのか?


「…………今は、期待できないな」


 は、はぃ?

 俺を見て、なに残念そうにしてやがる。


「おい、馬鹿にしてんのか?」

「馬鹿にはしていない。ただ、今のお前は弱すぎる。本気を出す価値すらない」


 ――――――――カチン


 ほう、へぇ、ふーん。


 チート魔力を持って?

 二つの属性を持って?

 精霊を持っている俺が、弱い?


 強制的とはいえ、この世界から恐れられている管理者を二人も倒してる俺が、本気を出す価値すらないって?


「……………………」


 ――――――――ブワッ!!


「っ、な、なんすか、あれ」


 アンキも、いつもの笑みを消し、驚愕の表情を浮かべている。


 それも、そのはず。


「なら、本気、出させてやるよ。俺の、本気でな」


 片手に水属性魔法、lama・waterラーマ・ワーター

 もう片方には、炎属性魔法を放つ準備として赤く光っている。


 あんなことを言われちゃー、仕方がねぇわ。

 確かに? 俺も? 本気を出してはいなかったしぃい?


 別に、今までのが全力でもなかったしぃい?

 苦手を克服できたらいいなとか思っていただけだしぃい?


「ふふふふっ、いいぜ、いいぜ。やろうじゃねぇか? なぁ、元殺し屋君よぉ~」

「…………わかった。さすがに言い過ぎたらしい、俺も少し本気出そう」


 言いながら、ソフィアは拳を握り、構えを取る。

 魔法は、出さないらしい、


 いや、もう魔法は発動しているのかもしれない。

 絶対に、油断してはいけない。


「やれやれ~。こうなってしまったら、もうどちらも止まらないっすねぇ~。それで、俺達はどうするっすかぁ――――あ、あれ?」


 頭の後ろで手を組み、クラウドを確認したアンキ。


 まぁ、言葉を失うよな。


 クラウドの視線、めっちゃ感じる。

 俺の炎魔法を楽しみにしてやがるな。


 まぁ、今はそっちはどうでもいい。

 ソフィアが動きだっ――――っ!


「ちっ――――heathazeヒートヘイズ


 自分の幻覚を作り、視線を誘導。

 視界から消えたソフィアは、俺の幻覚に一瞬眩んだみたいだが、すぐ横に避けた俺を追尾して来た。


 拳は眼前、水の刀で受け止める。


 ――――ガツン


「ぐっ!」

「この程度か、おめぇも本気は」

「~~~~んな訳ねぇだろうが、糞が!!!!」


 無理やり押し返そうとするが、ソフィアは動かない。

 それなら!


turboflameトュルボー・フレイム!」


 一本の炎の竜巻をソフィアの足元に出す。

 後ろに下がり回避したみたいだが、次の動き出しが早い。


 複数の竜巻を放ち、動きを制限しようとするも、ソフィアはすぐに対応。

 竜巻の隙間を縫い、俺へと迫る。


「なら、これならどうだよ! Mitrailleuse flameミトラィユーズ・フレイム


 竜巻を消し、炎のガトリング砲を放つ。

 だが、それすらソフィアは体を捻ったり、横に跳んだりと簡単に回避する。


 やっぱり、ソフィアを倒すには飛び魔法では駄目らしい。

 ちっ、クッソ。


「お前は、強力な魔法に胡坐をかき、無駄が多い使い方をしている」

「っ、無駄?」


 それは、グレールが教えてくれた、魔力が広がっているって事か?

 でも、それはもう意識しているはず、無駄に飛んでいないだろ。


「――――っ?!」

「…………宝の持ち腐れだな。そんな魔力、俺が欲しいものだ」


 首を、掴まれた。

 まずい、このままこいつが俺を殺す事を厭わなければ、一瞬で骨を折られ殺される。


 下から見上げて来るソフィアの深緑色の瞳から目を離せない。


 離せば、殺される。


 グググッと、体を持ち上げられる。

 やばい、苦しい。


 足をばたつかせても意味はない、このままじゃ……。


 リヒトやアルカの声が微かに聞こえるが、なんて言っているのかわからない。


「大きいのを放てば強力という訳ではない。弱い魔法でも、使い方一つで相手を抑え込むことが可能だ」


 ソフィアが、そんなことを言ってくる。

 今、そんなことを言われても…………。


俺でも、お前に食らいつくことは可能だ。お前は、もっと魔法一つ一つを極めろ。そうすれば、もっと強くなる」

「――――え、らそうな、こと、いっ、てんじゃ、ねぇ…………よ!!!」


 思いっきり足を蹴り上げると、冷静にソフィアが俺の首から手を放した。


 地面に落とされたが、まぁ、いい。

 息を吸えるって幸せだ。


「はぁ、はぁ…………」

「……俺が、お前を育ててやろうか」

「…………はぁ、っ、え、はい?」


 今、こいつ、なんつった?

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