第311話 狂ってねぇよ、戦闘が少し楽しくなっただけだ

 lamawaterラーマ・ワーターは、接近戦向けの魔法。

 背後に水の刃を背負っているが、そっちにまで意識を向ける事が今はまだ出来ない。


 だが、まずは、手に持っている水で作られた刀を使いこなせるようにしないと。


 両手で刀を持ち、鉄球をぶん回しているアンキを見る。

 余裕そうに笑っていやがる……、むかつく。


「新しい魔法っすねぇ~。背中に背負っている六本の刃は放つ用っすかぁ? 面白そうっす!!」

「楽しそうで何よりだよ、此畜生。余裕ぶりやがって」


 まずは近づくところから入らなねぇとな。

 懐に入り、一気に首を刈り取る。


 集中力を高め膝を折り、強く地面を蹴る。


「ほわっ!」


 驚きの声を上げているが、すぐに対応してきた。


 ぶん回している鉄球をぶん投げる。

 だが、さっきみたいな予想外な動きはない。

 近づきすぎると足を引きずられる程度。


 離れているうちに横へと逸れ、鉄球を戻す時間すら与えず切り込む。


「おっと?」


 避けたことが予想外だったのか、目を微かに開く。

 距離を詰め、刀を振りかぶる。


 刀の使い方なんて知らんから、まずはたたき落としてやるよ!!


「…………ここまで、苦手なんすねぇ~」

「はっ、いぃ!?」


 な、なぁ?

 え、嘘だろ?


 力いっぱいに叩き落した刀を、こいつは片手一つで受け止めやがった……?


 簡単に受け止めてる。

 力で負けているってことか?


 どんな筋力しているんだよ!


「期待外れ、かもしれないっすねぇ~。これじゃ、ソフィアさんと互角に渡り合うなんて不可能っすよぉ~」


 言いながらこいつは、掴んでいた水の刀の刃部分を、バキンとへし折った。

 水に戻り、バシャンと地面に落ちる。


 まずい、この距離、武器を失った今、早く離れっ――……


 ────後ろから、風?


 少しだけ振り向くと、見えたのは鉄球。


 ――――ガンッ!!!


「ぐっ!!!」

「カガミヤさん!!!」


 背後から迫ってきている鉄球をモロに食らっちまった。


 地面を引きずり、体を強くぶつけちまった。

 くっそ、いってぇ……。


 顔を上げると、あぁ、視界が歪む。

 頭をぶつけちまったのか、血が流れているな。


 拭いてみると、うん、結構深く切っているらしい。簡単に止まりそうにないな。


「カガミヤさん! 大丈夫ですか?!」

「あ、あぁ、大丈夫だ」


 さっき、俺を呼んだのはリヒトだったか。


 場外ギリギリまで吹っ飛ばされている。

 あともう少し、意識が吹っ飛んでいたら負けていた。


 いまだ流れる血を拭い、クスクスと笑っているアンキを見る。

 体はふらつくがまだ動くし、立ち上がり再度水の刀を作り出す。


 まずいな、接近戦はソフィアの専売特許かと思っていたが、甘かった。

 アンキもいける口かよ。


 これは、相手が悪い。

 型もわからない、刀の正しい使い方も知らない。


 知識が全くないまま、こんな強い奴を相手にするのは正直不可能。


 でも、なんだろう。

 怖いのに、痛いのに。


「――へぇ、兄ちゃん、狂っていると言われたことないっすかぁ〜?」

「ねぇよ。……………………タブン」


 口角が上がる、気持ちが昂る。

 これは狂ってねぇ、戦闘を楽しんでいるだけだ。


「俺は、絶対に勝つ。勝って、賞金をもらうんだよ」


 湧き上がる闘志、体が勝手に動くような感覚。

 これは、抑え込んではいけない。心のままに、体のままに行動しないと後悔する。


 ここで、感覚を掴む。

 アンキを、利用して。


「面白いっすねぇ~。これは、もう油断はできねぇかもしれねぇ~す」


 いいながら、鉄球を撫でる。

 藍利休色の瞳はメラメラと燃え上がり、先ほどまで纏っていた空気感とはまるっきり違う。


 本気を、出してくれるらしい。

 鉄球を空中に投げ、ぶん回す。


 っ、風が巻き起こる。

 さっきまでは、ここまで強い風は巻き起こっていなかった。


 ここからして、本気を出していなかったということかよ。

 本当に舐められていたんだな。


「それじゃ、第二ラウンドっす。準備はいいっすか?」

「あぁ、いいぜ。さっきみたいになるとは思うなよ」


 目線を合わせ、地面を抉るほどの強さで蹴る。

 アンキの目の前まで移動、一瞬だったはずだが微かな隙すら見せない。


 刀を横一線にはらうが、すぐに受け止められる。

 こいつの腕は鉄か何かでできているのか!?


 ――――いや、違う。当たってない……?


 微かに、刀が空で止まっている。

 まさか、さっきもそうなのか?


「戦闘中に考え事っすか? まだまだ余裕っすねぇ~」

「っ、くそ!」


 上から鉄球、すぐに後ろへ下がり距離をとる。

 鉄球は、地面を抉る勢いで落ちてきた。


 ──っ、風が!

 体が後ろに流れる!!


 顔を両手で覆うと、視界が遮られる。


 ――――まさか、ここで登場するとは思わなかった。


「ソ、フィア?」


 隣から拳が吹っ飛んできた――……

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