第310話 ここで俺も、一皮むかないといけないのかもしれないな

 構えると、ソフィアは地面を蹴り駆けだした。


 狙いは――――よしっ、クラウドに行ってくれた。

 さっきの動きを見ていたからか、クラウドは体を捻り簡単に避ける。


「――――っ!」


 ソフィアに気を取られた一瞬、後ろから風が吹く。

 振り向くと、向かって来ているのはドデカイ鉄球!?


「ちっ!!」


 すぐに地面に足を付け、横へとよけっ――……



 ――――――――ズルッ



 っ、風で、引っ張られる!!

 避ける事が出来ない。


「くそがぁぁあ!!! turboflameトュルボー・フレイム!」


 一本の炎の竜巻を出し、鉄球を上へと突き上げた。

 直ぐに竜巻を消すと、前方には鉄球を回収しているアンキの姿。


 ニヤリと笑い、俺を見る。


「へぇ、ソフィアさんに釘付けだと思ったんすけどねぇ~」

「体が敏感に察してくれたおかげで助かったわ」


 あんな大きな鉄球、どうやってあんな小さな体で動かしてんだよ。

 魔法か? 肉体強化魔法的な?


 くすくす笑いながら、アンキが鉄球を頭の上でぶん回し始めた。

 風が舞い上がる、俺の方まで届くから引きづられないように地面を踏みしめねぇと。


 同時に、俺に向かって風の竜巻を向かわせてきた──だと!?


「『風よ、舞い上がれ』」


 アンキが唱えると、竜巻が複数現れ俺に向かってくる。


「ちっ!! turboflameトュルボー・フレイム!」


 竜巻には竜巻!

 炎の竜巻を同じ数だけ出し、ぶつける。


 ――――ガンッ


 複数の重たい物がぶつかる音と、それに伴い舞い上がる風。

 吹っ飛ばされないように足に力を籠め、顔を覆っていると、後ろに気配。


 視線だけを向けると、ソフィアの拳。

 体を捻り、腕で拳を受けとめる。


 気が逸れてしまったせいで、魔法が弱くなり、炎の竜巻が押され始めちまった。


 くっそ、なんだよ! おい!

 クラウドはどうしたんだよ! まさか、もう傷を付けられたのか!?


 そう思ったが、直ぐにクラウドがソフィアの後ろから光の剣を伸ばし、攻撃を仕掛ける。


 ソフィアが簡単に避けると、光の刃は――――すぐさま止めやがれ!!!

 膝を折り回避しなければ、俺の首は吹っ飛んでいたぞ!


 っ!! 後ろ、竜巻が押されている。

 すぐに魔力を高めると、互角に戻った。


「ふぅ……、目まぐるしいな……」


 苦しいが、わかった、こいつらの戦闘スタイル。


 あの二人の狙いは、一発で仕留めること。

 それは、どっちでもいい。


 どっちかが、どっちかに相手の気を逸らせ、隙を見つけ仕留める。

 決まりがなく、やれそうならやれと言った感じだろう。


 連携が凄まじい、心が通じ合っているかのような立ち回り。

 まずいなぁ、連携されるとこちらとしては同じ立ち回りが出来ない。


 クラウドとは連携もくそもないし……。

 それぞれで戦う事が出来ればいいと思っていたが、あんな連携されてしまえば、こちらも連携しなければ勝てない。


 クラウドを見ると、またソフィアと戦闘を繰り返している。

 こっちも、魔力を高め魔法で押し返す。


「ほっ? まさか、兄さん、魔力が多いっすかぁ~?」

「まぁ、チート級と言われておりますよっと!!!」


 瞬間的に魔力を高め、炎の竜巻を強くする。

 すると、風の竜巻はかき消され、炎の竜巻が轟轟と巻き上がる。


「――――行け」


 真っすぐアンキへと向かわせる。

 四本、真っすぐ向かわせているにも関わらず、アンキの笑みは消えない。


 余裕そうに、鉄球をぶん回し始める。


「へっへー。俺っちだって、ソフィアさんほどではないっすけど、強いっすよぉぉぉおお!!」


 言うと同時、アンキはぶん回していた鉄球を投げた。

 だが、投げたところで、鉄球一つじゃ俺の炎の竜巻は消すことできないだろう!!


「――――はっ?」


 鉄球は円を描くように放たれていたらしく、炎の竜巻を次々とかき消していく。


「な、なんでだ」


 一本二本なら消されても仕方がないとは思う。だが、すべてを一発で消しやがった。


 ガタンと、音が鳴った方を見ると、鉄球を撫でているアンキの姿。

 余裕そうに口角を上げ、目は俺をあざ笑うように歪められていた。


 なんだよ、その目、なんだよ、余裕そうにしやがって。


 ……いや、余裕なんだろうな。


 高をくくっていた。

 管理者と戦って生き残っていたという気持ちが、俺の本来の実力を理解出来なくなっていた。


 そうだよな、俺が強かったんじゃなくて、仲間が助けてくれていたから勝てただけだ。

 俺だけの実力で勝っていたわけじゃない。


 管理者に勝ったからというのは、もう通じない。

 ここで、俺も魔力に頼るだけの戦闘は限界だ。


 肩幅に足を広げ、アンキを見据える。


 俺の表情が面白いのか、アンキはくすくすと笑い、次の動きを待っていた。


「ちょっと、苦手を克服しないといけないかもしれないな」


 言いながら、頭には一つの魔法が浮かび上がる。


「俺の苦手克服に付き合ってもらうぞ――――lama・waterラーマ・ワーター!」

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