第309話 これが有名な殺し屋、油断すると殺されるぞ……

 カウから助けを求められた。

 さすがに俺も、元殺し屋が次の相手という事で、アマリアを押さえつけ、次の準備をし始める。


 店から出て、一応ストレッチ。


「……はぁ、不貞腐れるな、アマリア。今は目の前の奴に集中させてくれ」

「分かってる……」


 分かってねぇだろうが……。

 子供の姿だから許されているだけだぞ、頬を膨らませそっぽ向くの。


 大人の姿だったら、普通にはっ倒してる。


「はぁ……」


 ──元殺し屋、ソフィア=ウーゴ。


 絶対に油断してはいけない相手。

 それに、ペアであるアンキも、ソフィアと共にいるのだから弱いわけが無い。


「カガミヤ」

「ん? どうした、アルカ」


 なんか、アルカが不安そうに声をかけてきた。なんだ?


「カガミヤが強いのわかるし、クラウドも戦闘に慣れているから、大丈夫だとは思っている」

「ん? うん」


 な、なんだ?


「だが、なんか、胸騒ぎがするんだ。嫌な感じ、なんだよ」


 胸を押さえ、アルカが顔を俯かせてしまった。


 ……うわぁ、それ、確実に何か起こる予兆じゃん。


 アルカみたいな、感覚で動いている人の直感とかって侮れないんだよ。


 はぁぁぁあああ。

 絶対に、ただでは終わらない決勝戦になるだろうな。


 最悪、でも賞金のために、勝たなければならない。


「────アルカ、確かに危険な戦闘になるかもしれない、殺される思いをするかもしれない」

「なっ! そ、それなら…………」

「だが、聞けよ、アルカ」


 一度、意味深に言葉を止め、一拍、置く。

 アルカの肩に手を置き、安心させるような言葉を伝えてやった。


「俺は――――賞金のために、本気で勝ちに行く。賞金の為、あの、賞金を俺の物にするために、俺は行かなければならない。安心しろ、俺は絶対に死なない、賞金を手に入れるまでは」


 決め顔で言い切ってやった。

 どうだ、これで安心出来るだろう?


 いやぁぁああ、なんて仲間想いの素敵な冒険者なんだ。

 これは、俺を褒め――――あ、あれ?


 アルカが俺の手を払い、リヒト達の元に行ってしまった。

 しかも、なんか、耳打ちしている。


「カガミヤさん…………」

「え、なに?」


 なんか、リヒトに勝手にげんなりさせられているんだけど。


 なんだよ、俺、何か間違えた事でも言ったか? 言ってないだろう?


 なんか、解せぬ。


 ※


 なんやかんやしていると、すぐに決勝の時間になってしまった。


 クラウドは余裕そうに欠伸を零している。 

 まぁ、今は余裕だろうな。相手、まだ来てないし。


 フィールドで待機しているんだけど、ソフィアチームが現れない。

 まだ時間まで十分近くあるからいいんだけど。


 こうなるのなら、俺ももう少し遅れて来るんだったな。

 もう少し通帳を見て時間を潰したかった、暇だ。


「チサト」

「ん? なんだ?」

「来たみたいだぞ」


 審判が腕時計を確認している奥で、人影が二人、徐々にこちらへと向かってきていた。


「本当だな」


 銀髪を揺らし、外套を靡かせ優雅に歩いて来るソフィアと、後ろを歩く、にやけ顔のアンキ。


 緊張感があるな、空気感が今までとはまるで違う。

 というか、あいつらも本気で来ようとしていないか?


 …………アンキ、何かを引き摺ってる。

 あれって、鉄球? え、アンキと同じくらいの大きさはある鉄球を、引きずってる?


 唖然としていると、二人はフィールドに上がってきた。


「よろしくっす~」

「…………どうも」


 まさか、あの鉄球がアンキの武器?

 これは、本当に予想のできない展開になりそうだな……。

 

 俺とお相手さんの間に審判が入り、いつものように準備が出来たのか聞いて来る。


 いつものように頷いたのだが、ソフィアは反応なし。代わりにアンキが「だいじょうぶっすよ~」と答えている。


「では、決勝戦。チサト、クラウドペア対、ソフィア、アンキペア。試合、開始!!」



 ――――ピィィィィイイイイイイイ!!!



 開始の合図が鳴り響くと同時に、ソフィアの姿が消える。

 気づいた時には、拳はもう眼前。


 反射的に体を横へと捻り回避、いつものように腕を掴んでカウンターしてやろうとすると、逆に掴まれてしまっ──?!


 拳はフェイクだったのか!?

 動かした右の手首を掴まれ、一瞬怯む。瞬間、引き寄せられ、腹部を膝蹴りされた。


「――――がっ!!」


 すぐに空いている方の手で顔面を殴ろうとしてくる。

 腹部の痛みですぐに体を動かす事が出来ない!!


acquaアクア!!」


 殴られる直前、眼前に水の球を作り出す。

 ボチャンという音と共に破裂。少しだけ、威力を殺す事が出来た。


 すぐに体勢を立て直し、膝を折り避け、掴まれている右手を振り払い距離を取った。


「はぁ、はぁ…………」

「やるな。殺す気で行ったのだが」


 くっそ、強いとは思っていたが、ここまでって……。


 腹部を殴られた時、隠すようにacquaアクアを出していなかったら、その時でもう勝負はついていただろうな。


 今の攻防、管理者を相手にしているような感覚だった。

 体が反射的に動かなければ、危なかったな。


 すぐに立ち直すソフィア、普通に立っているように見えるのに、隙がない。


 俺もすぐに体勢を立て直さないと、今度こそ殺される。


「大丈夫なのか?」

「大丈夫ではない。絶対に油断するなよ、やっぱり、やべぇぞ」


 クラウドに警戒を高めるように言うと、顔を上げソフィアを見た。

 その表情は、徐々に高揚へと変わり、口角を上がる。


「そうだな。本気、出さないといけねぇよなぁ~?」

「あっ…………」


 これは、変なスイッチを押しちまったのかもしれねぇな。

 まぁ、ソフィアだから、殺されるようなことはないだろう。


 俺は、アンキの方を集中したい。


 あいつも、いつ動き出すかわからん。

 腹部の痛みはまだ残っているが、すぐに姿勢を正し構える。


「…………面白い。やるぞ」

「こいやぁ、ぶっつぶしてやるよ」


 ソフィアの表情が全く変わっていない。

 本当に面白いと思っているのかわからないが、足を肩幅に広げ準備し始めた。


 んじゃ、ここからが本当の闘い、絶対に勝って、賞金をゲットしてやるよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る