第308話 魔法にも始まりがあったんだな

 アマリアが、カウを止めちまった。


 …………なに、爛々と目を輝かせてんの、おめぇ……。


 あー、もしかして、あれか?

 新しい知識を手に入れることが出来るとかいう、めんどくさい方向へ目的がすり変わったか?


「え、竜使いについてか?」

「そう。興味があってね。少し、教えてくれない?」


 アマリアの要望に、カウは怪訝そうな表情を浮かべる。

 普通、そうなるわな。


 俺が断ってんのに、共に行動しているアマリアは興味津々なんだから……。


 断ってくれ、頼む。


「…………だが、教えたところでこっちにメリットがない。タダでは嫌だぞ」


 よしよしよし!!

 そのままごり押せよ、カウ。アマリアに負けるな、俺を巻き込むな。


「それって、僕が話を聞きたかったら、知里を説得して協力する事を約束させればいいって事かな?」

「絶対に嫌なんだが?」

「知里は黙ってて」

「酷い……」


 何で俺は、いつもこんな雑な扱いをされないといけないんだ。


 俺の事だろう? 俺が関係しているんだろう?


 何で、俺が関係している話で俺が邪険に扱われないといけないんだ、おかしいって……。


「それが一番嬉しいが、無理やりでは意味がない。俺は、無理やり協力させたいわけではないんだ。だから、この取引は成立しない」

「なら、成立させてあげる」

「なんだ?」

「竜魔法、さすがにまだわからないけど。条件によってはこの場にもう一人、竜魔法使いがいそうなんだよね」


 言いながらアマリアの目線は、アルカに向けられる。


「…………へ?」


 きょとんと目を丸くしている、何を言っているのかわからないらしい。


 俺も、わからん。

 なに、何が言いたいの?


「…………どういうことだ?」

「アルカの属性は地。今はまだ開花していない状態の卵なんだよ。力は未知数、まだまだこれからに期待が出来る有力者だ」

「だから、開花したら竜魔法を出す事が出来るかもしれないって?」

「可能性の話で悪いね。でも、アルカなら持っているような気がする」


 まぁ、確かにアルカは未知数だよな。

 戦闘を重ねれば重ねるほど強くなる。


 だが、竜魔法は、生まれてきた時に持っていたとかじゃねぇのか?

 俺の場合は、カケルのをそのまま引き継いだ形だろうから、特に不思議ではない。


「なるほど」


 おっ、納得できた部分があったらしい。

 やべぇ、このままだと、面倒事に巻き込まれる。


「アマリア様は、本当に竜魔法について全く知らないのか?」

「知らないよ、可能性で話しているだけ。でも、そう言うって事は、やっぱりただの魔法ではないらしいね。話、聞かせてもらってもいいかな?」

「……………………わかった」


 お、おぉ。

 またカウが戻ってきた。


 心理戦……だな。

 相手は藁にも縋る思い何だろう。


 そこで、可能性と言えど、俺以外の竜使いがここにいる事を提示、うまく言いくるめやがった。


 カウもアルカ達程馬鹿ではないにしろ、アマリアには敵わない結果となっちまった、こんちくしょう。


 これは、もう、諦めるしかない。

 はぁぁぁああ、長くなりそうだ。


 俺は、決勝戦について話したかったんだが、もういい。


 クラウドは食べ終わり、一人寝ているし。

 今起こしてもぶちぎれられるだけだろう。


 もう、どうにもでもなれ、はぁぁぁ。


 ※


「竜使いの操る竜魔法は、魔法の根源と呼ばれているんだ」

「魔法の始まりが、竜魔法ということか?」

「そう言われていると言う話だ。本当かどうかは調べている途中だ」


 魔法の根源が、竜の魔法?

 これは、少し興味深いな。


「竜使いに選ばれた者は、最初、炎の竜を作り出した。次に氷、地と。様々な竜魔法を作り出す。周りの者は、魔法という概念を竜使いに名付け、魔法使いが誕生した。属性はここから派生し、魔法使いは増え、遺伝する事もわかった。徐々に魔法を使えるものが増え、今では魔法が当たり前の世界となった。俺の知っている情報はこんな感じだ」


 今のが、魔法の始まりってやつか。


 この世にあるものは、誰かしらが必ず作り出したもの。

 始まりは必ずある。ただ、それが当たり前になりすぎて、考えないだけで。


 魔法も、始まりがあって特に不思議は無い。


「それは、確実な情報なのか?」

「それすら、今はわからない。だから、少しでも竜使いの者に話を聞いて、情報を集めつつ、チィの呪いを解いてもらえないか頼むため、旅をしていた」


 旅をしている時に、たまたま参加したタッグバトルに、俺が現れ話を聞こうと言う流れになったってことか。


 運がいいのか悪いのか。

 俺じゃなくて、カケルに会うことができれば良かったんだけどな。


「……へぇ、興味深いね」

「確かに、アマリア様にとってはいい情報だったのかもしれんな」


 あっ、アマリアの爛々とした表情に、カウが引いてる。

 顔を引きつらせているな、そうなっても仕方がない。


 今のアマリア、死んでいた表情筋がいきいきとしているもんな。


 空気がめんどくさいもんに変化している。

 いつものアマリアに戻ってきてくれ、俺にとっては辛い。


「他にも色々、知りたいなぁ」

「お、俺は、もう行こうと思っている。わかっている情報はこのくらいだからな」


 顔を引きつらせながら、カウはアマリアから逃げるように立ちあがる。


 だが、まぁ、うん。

 アマリアが、逃がすわけないよな。


 ――――ガシッ


「もっと、聞かせて?」

「――――はい」


 アマリアの悪魔の囁きと、笑顔。

 カウ、お前はもう逃げられない。


 木乃伊取りが木乃伊になるとは、よく言ったものだ。

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