第306話 なんでこんなにも俺は巻き込まれ体質になってしまったんだ

 炎の竜を再度出すと、炎の竜巻は消える。だが、それでいい。

 先ほどより小さなDragonflameダーク・フレイム。炎の竜巻に気を取られていたカウの目には映らない。


 そのまま突っ込ませる。


「――――っ!?」


 気づいたな。だが、もう遅い。

 おめぇはもう、魔法を発動させる余裕はないだろう。


 腕をクロスにし、炎の竜を防ぐが、力が分散したらしいな。

 勢いを殺す事が出来ず、場外へ運ばれる。



 ――――ドシャッ



「カウ、場外! 勝者、チサト、クラウドペア!!」



 ――――ワァァァァァァァァァァアア



 一際大きな歓声が沸き上がる。

 同時に、餓鬼が「カウ!!」と名前を呼びながら駆けだした。


 結局、あの餓鬼は何もしなかったな。

 一体、何のために参加したんだ?


 よくわからんが、満足そうにしているクラウドと共にフィールドを下りる。


 そんな時、後ろから足音が近づく。

 肩越しに見ると、カウが必死な顔で俺の方へ走ってきていた。


「ちょっと待ってくれ!」

「…………断ってもいい?」

「え、い、いや、駄目だ!」

「えぇ…………」


 今の「ちょっと待ってくれ」は、大抵変な事に巻き込まれる気配しかしない言葉なんだよ。


 今の言葉で、俺の頭に嫌な予感が走った。

 巻き込まれると、瞬時に察した。


 だから、断りたい。

 このままほっといて場外に行けば問題はないかな。いいよな、良いな。


 良し。


「俺は忙しい、さらば」


 ――――ガシッ!!!


「待ってくれと言っているだろう、話がしたい」

「チッ」


 腕、掴まれた。

 つーか、復活速くね?


 確かに、そこまで傷もつけていないし、場外に出しただけだけどよ。

 早くフィールドから降りないと、裁判に怒られるぞ、良いのか?


「お前、強いな!!!」

「…………………………お願いだから離してくれ!!」


 嫌だ、目を輝かせて俺を見ないでくれ!

 何で俺を見て来る!! やめろ、やめてくれ!!!


 だ、誰か!! たすけてぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!


 ※


 次の試合は、準決勝。

 あの、元殺し屋の戦いだ。


 見たい、正直集中してみたい。

 だが、見る事が出来ない、理由は……。


「話をさせてくれよぉぉぉお!! 竜使いぃぃぃいい!!」


 さっきからカウが抱き着いて来る。

 引き剥がすため頭を押し返しているんだが、必死にしがみついてきて離れてくれない。


 まぁ、このままでも見ることはできる。集中出来ないだけで……。



 ――――ピィィィイイイイイイイ



 おっ、開始の合図だ。

 今回も瞬時でおわっ――――たな、やっぱり。


「ソフィア・ウーゴ。一戦、交えてみたかったが仕方がない」


 おっ、抱き着いて来るのをやめたらしい。

 スクッと立ち上がり、腕を組みかっこよさげにそんなことを言っている。


 さっきのが無かったら良かったんだがなぁ~。

 今、どれだけかっこつけても意味ないぞ。


「…………お前は知ってんのか? あいつのこと」


 聞いてみると、フィールドから目を離さず答えてくれた。


「元殺し屋で、実力が化け物級。管理者とも渡り合えるほどの実力者と言われているぞ」


 えっ、管理者……?


「それは、本当なのか?」

「噂でだけだ。おそらく、比喩表現だろう。誰も管理者に勝つことなど出来んよ。あの化け物は、昔の英雄、カケル=ルーナでさえ勝てなかったのだから」


 ……………………へぇ…………。


「ちなみになんだが、お前は管理者を見た事はあるか?」

「ない! 興味もない!」

「見た目は知らんという事か。名前は?」

「それくらいなら知っているぞ。よく耳にするからな!」


 見た目は知らなくて、名前は知っているのか。


「…………アマリアっていう名前は聞いたことあるか?」

「あるぞ! 確か、ギルドの管理者だったはずだ! そこまで管理者の中では有名ではないはずだが……」


 目立ちたがらないアマリアからしたら、その立場は悪くはないか。

 ウズルイフみたいに、完全に名前を消す事はしなかったみたいだが。


「ふーん」

「なんでそこまで聞くんだ?」

「いや、別に」


 後ろにいるアマリアに視線を飛ばすが、ガン無視。

 これ以上話すと長くなることを察したらしいのと、自分に矛先が向くと思ってのことだろう。


 今話す事ではないし、いいけどさぁ。


 ――――おっ、フィールドから降りてきた。

 ん? な、なんだ? ニコニコと、ソフィアじゃない方……アンキが俺の方に来るんだが?


「えっ、なに?」

あんちゃんが、決勝相手っすね!!」

「…………うっす」

「楽しみにしているっすよ!!」


 言いながら俺の後ろへと駆けだしていく。


 振り向くと、今度は深緑色の瞳と目が合う。

 ちょうど、あっちも俺の方を見ていたらしい。


 お互い目を離さないでいると、アンキがソフィアを呼び、目線が逸らされた。


「…………なんだよ、気持ちわりいな」

「本当だね。何を考えているのか本気でわからない」


 なにか企んでいるような感じで気持ちわりぃが、考えたところで結局は無駄。

 何も思いつかないだろうし、今は決勝に備えるか。


「決勝戦は、午後からの開始となります」


 あ、アナウンス。


 へぇ、決勝だけは時間を空けるのか。

 これなら少しだけでも魔力、体力共に回復が出来る。


「んじゃ、昼めしを食って決勝にそなっ――――」



 ――――ガシッ



 肩を後ろから掴まれた。

 振り向くと、輝かしい瞳と目が合う。


「話、出来るな!!」


 カウの眩しい視線を受け、俺の心に大ダメージ。

 何とか、何とかこいつを離れさせたい。


「…………オレ、ジンゴガワカリマセン」

「それじゃ! 昼飯を食いながらでもお前さんの事を聞かせてくれよ!!」

「いーやーだぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 昼飯を全員分奢るという事で、渋々話しをすることを了承した。


 今は、喫茶店的な場所にいる。


 周りはリヒトと共に入ったカフェみたいに水族館チック。

 メニューは甘い物だけではなく、しっかりとした定食もあり、胸やけしなくて済みそうで助かった。


 んでもって、この店は個室があるらしく、俺達とカウとチィ以外には誰も周りには人がいない。


 それぞれ頼んだ物が届き食べようとすると、カウが待っていましたと言うように話し出しちまった。


「んじゃ、早速本題に入るぞ! お前は竜使いとして選ばれているみたいだが、使い方がまるでなっていない。宝の持ち腐れ状態だ」


 ――――グサッ


 心に、鋭利な刃物が刺さったような気がした。


「ねぇ、一ついい?」

「ん? なんだ? というか、名前は……」

「僕の名前はナナシでいいよ。名前がないでナナシ」


 あ、こいつ!! 


 名前は知られているからか、明かさない方向で話を進めようとしてやがる!!

 めんどくさい話に持ち込まれないように先手を打ちやがった!


「な、何を言っているんですか、アマリア様。貴方にはしっかりとした名前があるじゃないですか」

「そうだぞ、アマリア様。なんで、名前を隠すんだよ」


 ……………………~~~~~~~~~ざまぁぁぁあああ!!!


 アルカとリヒト、ナイス。

 純粋に聞いているからアマリアも何も言えず、拳を微かに震わせるだけで留めている。


「なに? アマリア、様? え、アマリアって、え? 管理者……え、同名」

「そうそう。同名同名。君が思い描いているアマリアじゃないから」

「ギルドの管理をしているって…………」

「僕はギルドの管理なんてしてないよ、していたらここになんていないでしょ?」


 うわぁ、絶妙に本当の事も入れてやがる。

 確かにはしてないもんな。ギルドの管理。


「何を言っているんだよ、アマリア様。ギルドの管理していたじゃないか」

「アルカの口、一度縫い合わせてもいいかな?」

「しゅいましぇんでした」


 アルカの頬をぎゅっと挟んでも、意味はなさそうだぞ。

 俺へ向かっていた意識がアマリアに向かったからな。


「管理者のアマリア様!? マジで!? ほ、本物!? な、なぜこんな所においでなんですか!? なぜタッグバトルにいるのですか!? ギルドはどうしたのでしょうか!?」


 アマリアが救いの目を向けて来る。

 ……………………ざまぁぁああああ!!

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