第305話 こんなの、日常茶飯事なんだっつーの、悲しいが。

 無傷じゃなくなったクラウドは、正直弱い。

 光の刃は短いし、他の力が使えない。


 接近戦ならいけるかもしれないが、相手が悪い。

 接近戦を好む相手ならまだ可能性があるが、相手は俺と同じで中距離戦を好むだろう。


 それに、後退している餓鬼も気になる。

 接近戦に持ち込んだ瞬間に動き出す可能性もあるし、迂闊にクラウドへ指示を出す事が出来ない。


 ここは、俺がやっぱり頑張るしかないのか。

 くっそ、ここで勝っても魔力や体力がなくなれば、次の相手との戦闘は厳しくなる。


 …………いや、変に渋って魔力を無駄に消費するくらいなら、最初から大きく使い、短時間で終わらせた方がいいかも。


 体力の温存も出来るし、その作戦で行くか。


「スピリトを使えないのには不安が残るが、仕方がない。一発で終わらせてやるよ――――Dragonflameダーク・フレイム


 唱えると、背後に炎の竜が出現。

 クラウドが目を輝かせ、小さな声で「すげぇ」と呟いているのが聞こえる。


 無駄に魔力を使いたくないから、最初から全力だ。

 一瞬で馬鹿な火力を出し、すぐに終わらせてやるよ。


「すぅ…………」


 息を吸いながら炎の竜を一気にワイバーンくらいの大きさまでする。

 よし、


「お前も、竜使いか」

「――――? 竜使い?」


 なんだ、その、竜使いって。

 確かにこれは、竜だが。竜使いって、なんだ?


「これは、これは──面白い!!」


 言うや否や、黒いローブの男が、アイデンティティであろうローブを取っ払う。


 晒されたのは、野太い声とは裏腹な美形。

 黒人なのか、肌は小麦色。

 大きな黄緑色の瞳は、真っ直ぐ俺を見る。


 ノースリーブのシャツに、裾が膨らんでいるズボン。

 動きやすさメインと言った服装だ。


「お前が竜の魔法を発動したというのなら、こちらも出そうではないか!!」

「え、え?」


 なんか、俺、知らないうちにあいつの地雷踏んだか?


「カウ様の竜魔法、しかとその身に受け取るがよい!! 来い! Dragonglaceダーク・グラース!!!」


 ここで、あいつがカウという名前なのはわかった。だが、今はどうでもいい。


 あいつの背後には、俺が作り出した炎の竜と同じくらいの大きさの氷の竜が作りあげられた。


 ――――ガァァァァァアアアアア!!


 口を大きく開き、威嚇する。

 そんなの、どうってことないけどな。


Dragonflameダーク・フレイム、行け!!」


 前に手を出すと、口を大きく開き、氷の竜に向かって行く。


 迎え撃つように氷の竜も大きな口をさらに大きく開き、炎の竜の攻撃をよけ、胴体へと噛み付いた。


 ――――ガウアァァァァァ!!!


 な、なんだ。

 俺の炎の竜が、苦しげな声を、上げている?


 いや、そんなはずはない。

 見た目は竜だろうと、魔法。

 俺が作り出した、魔法のはず。


 もっと、魔力を送り、体を大きくすれば迎え撃てる!


 そう思って魔力を送り込もうとすると、なぜかカウの口元が下がり、への字になる。

 真顔で見られ、体が拘束される感覚に陥る。


 な、なんだ? 急に、冷や汗が……。


「――――お前、もしかして、竜の魔法の本質を、理解していないのか?」

「は? な、なんだよ。本質? 何を言ってやがる」

「…………そうか、残念だ。せっかく、見つけたと思ったのに」


 それだけを言うと、何故か手を顔近くまで上げた。

 パチンと指を鳴らすと、氷の竜が動き出す。


 炎の竜に噛みついている氷の竜は、抵抗させる前に胴の部分を噛みちぎる。

 炎の竜は悲し気な声を上げ、消えちまった。


「なっ――……」


 驚いている暇は与えてくれない。

 氷の竜は、俺に牙を向く。


「終わりだな」


 カウが勝ち誇ったように、でも、何処か残念そうに呟いた。


 ふざけるな、なにが、"終わり"、だよ。


「――――ちっ、ざけんなよ」

「ん?」


 こっちはなぁ、こんなの、日常茶飯事なくらいよくあるパターンなんだよ!!!


turboflameトュルボー・フレイム!!」


 ――――ドシャッ


 魔法を唱えたのと同時に、氷の竜が俺を食ったらしい。


 だが、俺は無傷。


 視界が赤い、地面が崩れてバランスを崩す以外の問題はない。


 周りは、今の俺がどう見えているのか、どんな感情で見ているのか。


 驚愕? 焦り? 

 勝負はもうついたと、思っているのか。


 残念だな、俺はまだ、余裕だ。


 右手に魔力を注ぐと、俺を守ってくれている炎の竜巻が大きくなる。


「――――貫け」


 手を突き上げると、炎の竜巻は氷の竜を簡単に押し返し、溶かした。


「――――なんだと!!!」


 カウからの驚きの声、観客席からは今までにないほどの歓声。


 驚くのも無理はないだろう。

 だって、炎の竜巻が五本、柱のように俺の周りに立ち並んでいるのだから。


「カウ、だったか? 失望したように見えたが、どうだ、俺の魔法は。結構、強いと思うぞ?」


 ついでに、カウの足元にも炎の竜巻を出現させる。

 すぐに魔力を探知したらしく、避けられたが、まぁ、いい。


「これで終わりだ。Dragonflameダーク・フレイム

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