第119話 人をここまで愛せるのは本当に珍しい事だよなぁ
俺が作り出した特大
スピリトは満足と言いたげにお腹を摩り、ぺろりと唇を舐める。
満面な笑みを浮かべ、俺の元へと飛んできた。
『ご主人様!! 濃厚でジューシーで美味しく、体の中はもうポカポカです!! ありがとうございました!!』
「まさか、あれを全て食べるとは正直思ってはいなかったが、助かった。あんがとよ」
スピリトの頭を撫でていると、アルカとグレールが俺達に駆け寄ってくる。
リヒトは魔力を大量に使ったため、ふらふら。アルカが受け止め腕を肩に回し支えているが、今にも眠ってしまいそうだな。
正直、俺も眠い。今にも瞼が落ちてしまいそうになっていた。
だが、まだ眠るわけにはいかない。
フェアズは、どうなった。
上を見ると、頭を抱えながらゆっくりと地面い降りて来るフェアズの姿。
足が地面に突くと、ふらついてしまっている。
転びそうになったかと思うと、アマリアが急いで駆け寄り支えてあげた。
「…………グレール、肩を貸してくれないか?」
「はい」
グレールの肩に手を回し、重たい体を引きずり二人の元に近付く。
フェアズの手はグレールの魔法により凍っている。
周りにあった蔓も、姿を維持できず薄くなり消えた。
「もう大丈夫だろう、解いてやれ」
「わかりました」
グレールが指を鳴らすと、パリンと音を立てフェアズの手を凍らせていた氷を消した。
アマリアがフェアズを支えながらその場に座る。
顔はアマリアの肩に埋めているから確認はできないが、さっきまでの邪悪な気配は消えていた。
もう、俺達に襲ってくることはないだろう。
「…………フェアズ、意識はある?」
アマリアの問いかけに、フェアズは微かに頷いて見せた。
「良かった。本当に、良かった」
安堵の息を吐いている、本当に心配だったんだな。
「…………ねぇ、フェアズ。僕達が魔石を体に埋め込まれてから最初に行ったのは、僕達自身の復讐だったよね」
「そう、私が村の人達が許せなくて。何も罪を犯していないのに殺されるなんて許せなくて、逆に殺してやりたかった」
おっと、まさか返答があるとは思わなかったな。
アマリアも同じらしく、チラッとフェアズを見ている。
「…………そうだね。僕のせいで、君まで殺されそうになってしまった。それは本当に申し訳なかったよ」
「っ、違う。貴方のせいじゃない!!」
お? アマリアから無理やり離れ、俯きながらフェアズが感情的になり叫んだ。
「あれは全て、村の人達が悪い! アマリアは何もしていないのに。ただ、他の人と目の色が違うだけ。それだけなのに、知りもしないでアマリアのことを悪く言って、災いを呼ぶと思って殺そうとした!! 全部、勘違いした村人のせい!! アマリアは何も悪くない!」
っ、そうだったのか。
アマリアの左右非対称の目は、生まれつき。
他の人と違う瞳をしているアマリアが、村に災いを招き入れると思われ、村人が二人を殺そうとした。
胸糞悪い話だな……。
「ねぇ、アマリア。貴方が村の人を焼き殺した時、何を思っていたの。なんで、私がやる事なす事に邪魔して来たの。人の命がかかわる時だけしつこく止めてきたのはなぜ。教えてよ、アマリア」
今にも泣き出しそうな顔でアマリアを見ているフェアズ。
アマリアは答えるのか、それとも答えないのか。
「…………それには、ちょっと答えるの難しいかも」
え、そこで言葉を濁すのは絶対によくないでしょ!!
それは人の感情に鈍い俺でもわかるぞ!! 絶対にこれは答えないと駄目なやつ!!
「待て待て待て、アマリア。今は何でも言い合う時間だよ、秘密にしないといけない理由は何!?」
「いや、僕の身勝手な考えだから、言ってしまっていいものかと」
「身勝手なのはお互い様なんだからいいでしょ。フェアズはどうなの、聞きたいでしょ? 聞きたいよな?」
俺の質問でフェアズはアマリアを見て、小さく頷いた。
流石に俺からの言葉だけではアマリアは口を開かないだろうが、フェアズからの言葉なのなら簡単に開くだろう。
現に今、フェアズが頷いただけで言うかどうか悩んでいる。
「…………君に、苦しんでほしくなかったんだよ。人を殺してしまったと、後悔してほしくなかった。だから、止めていたんだよ、邪魔をしていたんだよ。君のやることなす事を……」
「それって……。でも、アマリアは何人も人を処刑していたわよね? 村の人も焼き殺していた」
「まぁ、ね。だから、わかるんだよ。人の命を奪う時の気持ち悪さ、奪った後の胸糞悪さ。心に残っている、手に残っている、人を殺した時の感覚が。多分、君には耐えられない。だから、僕が代わりにやっていたの。僕はもう、村の人を殺しているから、これから何人殺そうと良かった。君が同じ苦しみを感じなければ、それでよかったんだ」
アマリアは、本当にフェアズが好きだったんだな。
いや、アマリアだけではないだろう。
「フェアズ、アマリアは正直に話したぞ。次は、お前の番じゃないか?」
アマリアから顔を逸らし、下唇を噛んでいる。
地面に触れている手が震え、拳を強く握り始めた。
「…………フェアズ、いつも言っているように、僕はフェアズが何をしても好きでいる、愛し続けるよ。たとえ、君が僕の事を嫌いでも──ね」
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