第118話 修行をしていなかったらマジでやばかったぞ、今回の作戦……

 右手に鎖、左手でflameフレイムを出し、その先にはスピリトが涎を垂らして今か今かと強い魔力を待っている。


『な、なにを…………』

「莫大な魔力だから、まだ体に違和感はないのか。まぁ、良い。このままお前の魔力を俺の魔法で使わせてもらい、おめぇの魔力を枯渇させてやる」


 俺の言葉にフェアズは目を開き、慌てたように手に巻かれている鎖を解こうと藻掻き始めた。

 だが、鎖は食い込むばかり。汗を流し解こうとするも、無理。


『こんの!! こんのぉ!!!』

「足掻いたところで意味はないぞ、無駄に肌を傷つけるだけだ。やめておけ」

『早くこれを解きなさい!!』

「断る」


 flameフレイムがどんどん大きくなり、コントロールが難しくなってきた。

 いい加減、魔法に集中しないと爆発させてしまうかもしれない。


 城の裏で行っていた修行と感覚は似ている。

 あの時の事を思い出せば、問題ないはずだ。


 まさか、グレールとの修行がここで役に立つなんて思っていなかったけど、役に立って良かった。


『っ。鎖が壊せないのなら、魔法を出している本人を殺せばいいわね』

「っ!」


 刃のように鋭い蔓が動き始めた。

 狙いはもちろんリヒト。今は、魔法に集中している為、周りの声や気配に気づいていない。

 今狙われてしまうと、リヒトは何も抗うことなく殺される。


 だが、俺も新たな魔法を出してしまうと、flameフレイムが爆発してしまう。リヒトを守ることが出来ない。


 グレールとアルカ、アマリアを信じるしかない。


 滲み出る汗、体に襲う倦怠感。

 視界が歪んできた時、リヒトに向かう蔓が勢いよく動いてしまった。


「リヒト!! 避けろ!!」


 俺が叫ぶとリヒトは現状を理解したが、もう遅かった―――…………



sunetスネト

ground spadaグランド・スパーダ

frostフロスト


 三人の声が重なり合う。


 アマリアの音魔法で蔓の先を爆発。次にアルカが剣を拾い上げていたらしく、地の刃で蔓の根元を切った。

 最後に、これ以上蔓を伸ばさせないため、グレールが冷たい冷気をフェアズに向けて放ち、両手を凍らせた。


 今の一瞬でここまでの連携をするなんて、さすがとしか言えない…………。


「カガミヤとリヒトは周りの事を気にしなくていい。俺達を信じろ!!」


 アルカが周りでまだ動いている蔓を切りながらそう言ってくれる。

 他の二人も頷き、俺達にフェアズの攻撃が行かないように防いでくれていた。


 三人の背中が頼もしいなぁ。

 リヒトの方を向くと、ちょうど俺の方を向いていたらしく目が合う。


 見つめ合っていると、リヒトが汗を流しながら苦し気ではあるが、どこか安心したような笑みを浮かべた。


 俺も、なんか安心したよ。

 周りの事は三人に任せ、俺は少しでも早くフェアズの魔力を吸いとる。


「すぅ………」


 flameフレイムはもう周りに立ち並ぶ木より大きくなっている。


 まだなのか、まだなのか。


 いや、どんだけだよ。これ以上大きくなると、本当にコントロールが出来なくなる。

 もう、修行の時より大きくなっているんだぞ、これ以上は無理だ。


 …………いや、諦めるな。集中力を切らすな、周りを気にするな。

 俺は、魔力を吸い取る事に集中しろ。


 目を閉じ魔力にのみ集中。

 flameフレイムが膨らみ、俺への負担も大きくなる。

 体が重く、立っているのもきつくなってきた。


 何とか倒れないように耐えていると、上空から息を切らす音が聞こえ始めた。


 目を開け上を見ると、フェアズが疲れたように項垂れている姿。

 頭を支え、左右に振っている。もしかして、眠いのか?


 拳を強く握り、唇を噛んでいる。

 重そうな瞼を何とか開けているが、時間の問題になってきた。


 flameフレイムはもう、木より高く、この森林を飲みこんでしまうんじゃないかと思う程膨らんでいる。


「もういいと思うよ。これ以上は知里の身体が危ない」

「わかった」


 アマリアがそう言うって事は、本当に大丈夫なのだろう。

 スピリトを見ると、キラキラした顔で俺を見ていた。


 早く、早くと訴えて来る瞳。

 わかったよ、まったく……。


「ほれ、これが食いたかったんだろ? ありったけの魔力、たんとお食べなさいな」


 スピリトに向けて、flameフレイムを放つ。

 動きがゆっくりだったからか、スピリトは我慢ができないというように自ら突っ込んできた。


『頂きますですぅぅぅうううう!!!』


 flameフレイムの中に自ら入ってしまったスピリト。

 数秒間、何も変化がなかったflameフレイムが、突如動きを止める。


 何が起きたのかと見ていると、flameフレイムが突如渦を巻き始めた。

 まるで、中央へと吸い込まれるように。


 見続けていると、中から祈るように手を胸元で繋いでいるスピリトの姿。

 炎は渦を巻き、スピリトの身体へと入っていく。


 flameフレイムは徐々に小さくなり、今はもう半分まで小さくなっていた。

 このまま何もなくスピリトへと吸い込まれていき、辺りを照らしていた大きな円球は、スピリトのおかげで跡形もなくなくなった。

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