第115話 まさか、こんな事態になるなんて……

 魔法を発動すると、手からバスケットボールくらいの炎が出現。

 リンクが作り出したブラックホールもどきに吸い込まれていく。


 これがどこに行くかというと――……


「っ、な、なにこれ…………」


 フェアズの周りに突如、俺の右手にあるようなブラックホールもどきが複数も現れ、炎の球体が襲う。


「――――ちっ!!」


 放たれた炎の球体から逃げるため、フェアズは空中を舞うように全てを避けられる。

 炎は俺の視線で自由自在に動かすことができる、フェアズさえ見逃さなければ追跡可能。


 絶対に逃がさんぞ。


「こんのっ!!」


 苦い顔を浮かべていたフェアズは、空中でくるんと振り返ると、鞭を振り上げ薙ぎ払う動きを見せた。


 そうはさせるか!!


restraintリストイレイント!!」

turboflameトュルボー・フレイム!!」


 フェアズとほぼ同時に魔法を発動、属性的ん位俺の勝ち。

 炎の竜巻でフェアズの魔法をかき消した。


「こんの!! クソガキ!!!」


 え、俺って餓鬼なの? いや、確かに餓鬼だな。

 何百年も生きている管理者と比べると。


 あ、またしても逃げようと振り返りやがった!!


「逃がすか!! grounddollグランド・ドール!!」


 アルカがすぐさま地面に両手を突き、巨大な土人形を作り出す。

 周りに立ち並ぶ木と同じくらいの大きさはある土人形により、フェアズは俺の炎から逃げられなくなった。


 土人形がフェアズを捕まえるためゆっくりと手を動かすと、脇辺りから逃げようとフェアズが突き進む。


 だが、その動きは予測済み。


chainチェイン!!」


 避けた先から伸びるのは、リヒトの鎖。

 急ブレーキをかけ、体を捻り何とか回避しているが、リヒトも負けじと鎖を操りフェアズを捉えようと操作する。


 炎で動きを制限、土人形で逃げ場を制限。


 目まぐるしく動き回るフェアズ、魔法を発動させようとするも俺がさっきと同じく炎の竜巻でかき消すため意味はない。


 とうとうリヒトの鎖は、フェアズの鞭を持っている手を捉えた。


「なっ!! こんな鎖!!」


 振りほどこうとするが、一度捕まってしまえば終わり。

 その鎖は、そう簡単に解けねぇぞ。


 動けば動く程、解こうと藻掻けば藻掻く程、その鎖は腕に食い込む。


「なに、この鎖!!」


 鞭を持っている手だけを掴まれていたフェアズは、次にもう片方の腕、足、腰と。

 次々鎖に掴まれ、フェアズの動きを完全に封じる事が出来た。


「この!! この!! なんで、なんで私が!! あんな人間に負けるのよ! 私は管理者になったのよ、この世界を司る力を手に入れたの。ただの人間に負けるなんて、そんな事ありえない!!」


 がしゃがしゃと、鎖に捕まりながらも抗おうと体全体を動かし藻掻く。だが、リヒトも負けないように魔力を強め、逃がさない。


 フェアズを捉えたため、リンクは俺達の方へと戻ってくる。

 見上げると、眉間に皺を寄せ俺の髪を掴み、怯えるように縋ってきた。


『あの人、魔力が増幅しているわ。主、早くどうにかしない危ないわよ!!』

「そんなこと言われても…………」


 アマリアも警戒してその場から動かない、ただ鎖がぶつかる金属音だけが響く空間。


「私は、私は!!! ただの人間より何倍も強いのよぉぉぉおおおおおお!!!」


 フェアズが叫ぶと、周りに立ち並ぶ木々が動き出した。


 地震が起き、立っていられなくなる。

 膝を突き周りを見ると、アルカとリヒトも激しく動く地面に対応が出来ず転んでしまった。


 リヒトの集中が切れてしまった事により、フェアズは緩まってしまった鎖から抜け出した。


「貴方達は私とは違うの、私が最強なの。私が、強いの。私が!!! あんたたちに負けるわけがないのよ!!!」


 フェアズの左胸辺りが高まる魔力と連動するように光り出す。


「な、何が起きている?」


 光が強くなったかと思うと、左胸から今までフェアズが操っていた蔓が勢いよく噴射。フェアズを包み込み始めた。


「アマリア、あれはなんだ!!」

「わからない。僕も初めてだよ、何が起きているんだ」


 アマリアすらわからないのか。


 くそっ、どうすればいいんだ。

 今、炎魔法を放ってしまえばフェアズも危ないかもしれないから、迂闊に放つことが出来ない。


 何が起きるのかわからないまま動けずにいると、フェアズを包み込んだ蔓が徐々に動き出す。


 次に蔓の中から姿を現したフェアズは、俺達が知っているフェアズの姿ではなかった。


 背中には、大きな蔓の翼。肌は白くなっており、結ばれていた茶髪は解かれ、足元まで長くなっていた。

 手に持っていた鞭は、魔法を発動していないはずなのに、地面に突く程に長い。


「本物の、化け物になったって事か?」

「わからない。あのお方の強い魔力に呑み込まれてしまった姿なのかもしれないな。もう、諦めないと駄目なのか……」


 目を細め、諦めの言葉を出すアマリア。


 殺す勢いで魔法を出した方がこちらとしては楽。だが、それはアマリアまでも感情に呑み込まれ、逆恨みされる可能性がある。


 今も、感情を何とか抑えているが、肌に感じる気配でわかる。


 アマリアは今、完全にぶちぎれている。


 これ以上アマリアを刺激はしない方がいいだろう。


 殺さず、力に捕らわれたフェアズを解放する方法を、考えろ、俺。

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