第112話 命を安く見ている奴は、絶対に許さねぇ

 ぁぁああ、魔力の消費が酷すぎる。


 仕方がないだろうけど……。

 時空を歪めてブラックホールもどきを出しているのだから、魔力が吸い取られるのは必然か。


 ブラックホールから出ると、地面にうまく着地が出来た。


「グレール、助かったぞ。危うくアルカ達が殺られるところだった」

「間に合って良かったですよ、本当に危ない所でした」


 さてさて、アルカとリヒトに怪我はないみたいだな。

 それは良かったけど、アマリアとフェアズの空気が険悪な感じがするな。仲間割れか?


「なんか、タイミング最悪な感じだが、いいわ。フェアズ、お前は俺の怒りに火を点けた。ただで終わると思うなよ」


 魔導書を開き、地面をしっかりと踏みしめフェアズを見上げる。

 顔を青くしているみたいだが、どうでもいい。


 俺は今、ものすごく怒っている。


「何よ、何をそこまで怒っているの。私、聞いたわよ。貴方、お金にしか興味が無いのでしょう? 報酬がもらえないと動かないのでしょう? なぜそこまで、感情的になるの?」

「それ、あいつらから聞いたんだろう」


 後ろで吊るされている二人を親指で指すと、フェアズは息を飲んだ。

 やっぱりな、そうだろうと思ったわ。


「言っておくが、確かに俺は金が無ければ無駄な事はしたくないし、モンスター退治といった、命を賭けなければならないことは絶対にしたくない」

「なら──!」

「だがな、勘違いしてんじゃねぇよ。金があったところで、失った命は戻らない。金があったところで、人の絆は生まれない。おめぇは、金ではどうする事も出来ない物を奪おうとしたんだ、金と命を天秤にかけたんだよ。どんなに大金を積まれようと、その罪を許す事はない。アルカとリヒトは返してもらう。そいつらは、俺の大事な仲間なんだからな!! turbo flameトュルボー・フレイム


 右手を前に出し唱えると、フェアズの四方から炎の竜巻が出現し、轟音が響き渡る。

 赤い光に囲まれ、フェアズは慌てたようにその場から逃げようと宙を舞うが、俺が逃がすと思うか?


 必ず、罪を償わせる。


「逃がすかよ、炎によりチリとなれ!」


 炎を操り、逃げるフェアズを追いかける。

 上手く掻い潜っているみたいだな、うまく捕まえる事が出来ない。


「あ、アルカ、リヒト!! お前ら動けるか?」

「え、この状態で動けというのか!?」


 あぁ、吊るされていたなぁ、そういえば。


「私が切りますね」

「いや、その必要はねぇよ」


 グレールが俺の方を見て来るが、本当に必要はないんだ。

 見たところ、あれは木の蔓。燃えるだろう。


 アルカとリヒトを燃やさないように調整し、蔓だけを燃やすことを意識すれば簡単なこと。

 左手をアルカ達に向け、頭の中で燃やすイメージを浮かべると、イメージのままに蔓が炎により燃え散りとなった。


 二人はそのまま落ちてしまったが、グレールがキャッチして二人を地面に下ろす。


「カガミヤ、その…………」

「お前らの話を聞いている時間はないらしいぞ。早く立って、俺を助けてくれ。さすがに、一人で管理者を相手にするのはきつい」

「さっきのカッコいいセリフが台無し……」

「聞こえているからな、リヒト。まったく……、本当に感情的に動くと余計なことしか言わないぞ、俺……」


 俺が顔を青くしていると、二人は顔を見合せ立ち上がった。


「わかった、俺達に出来る事があれば何でもするぞ!」

「出来る事が、あるなら、だけど…………」


 アルカは空元気、リヒトはまだ不安が残っているのか声が震えている。

 軽口叩いていたくせに……。こいつら、マジで自分の事わかってねぇな。


 まぁ、セーラ村での出来事が二人の自信を喪失させてしまったのだろう。

 本当は、強いのに。本当は、もっと上のランクなのに。

 俺がいなくても、こいつらは冒険者として立派に活動できのに――……


「…………なぁ、アルカ、リヒト。今回の修羅場は、俺一人では到底解決できるものじゃないんだ。お前らの力が必要なんだよ。だから、助けてくれねぇか? お前らが出せる、最大限での魔法で」


 肩越しに問いかけると、まだ不安げだった二人だが、最後は力強く頷いてくれた。

 グレールも剣を構えて準備完了。んじゃ、いっちょやりまっ――――――


「っ、アマリア…………」


 上から、アマリアがローブを揺らしながら降りてきた。

 地面に足を付けると、俺を見上げて来る。なんだよ、何をする気だ。


「…………身勝手だとは思う。でも、お願いだ。フェアズの事を殺さないでほしい」

「は? なんだそれ。本当に身勝手だな。俺はアルカとリヒトが殺されそうになっていたんだぞ。そんな俺に、お前は仲間を殺すなというのか?」

「確かにその通りだよ。本当に酷い話だよね。でも、それでも、僕はフェアズがまだ好きだから、助けたいんだ。でも、知里にも酷い事はしたくない。したく、ないんだ」


 胸を押さえ、アマリアが目を伏せる。


 くそ、めんどくせぇな。つーか、そんな事俺に言われても困るっつーの。

 結局のところ、フェアズが考えを改めない限り、殺さないという選択肢はない。じゃなければこっちがやられる。


 だが、アマリアも本気で言っているみたいだし……。

 どうすればいいんだよ……。


「カガミヤさん。アマリア様のお願い、聞いてはいただけませんか?」

「はぁ? リヒト、お前……。さすがにお人好しがここまでくると、それはただの馬鹿だぞ? お前らは殺されかけていたんだよな? アマリア達に。なら、何故こいつの願いを聞こうと思うんだ」

「私達が死ななかったのは、アマリア様のおかげなんです。アマリア様がフェアズ様を止めてくださっていなければ、私達は死んでいました」


 リヒトの言葉がいまいち信用できない。

 だって、二人を助けたところでアマリアにメリットなんてないだろう。

 確認の意味も込めてアルカを見ると、リヒトの言葉に同意するように頷いた。


「そうだ、アマリア様は俺達を助けてくれたんだ。俺も正直、フェアズ様の事は許せないけど、アマリア様が助けて欲しいというのなら、助けたい」


 嘘だろ、マジかよ。


「…………はぁ、わかったよ。俺も、出来る事なら殺しはしたくないからな」


 見上げると、フェアズが俺の竜巻を魔法で相殺していた。

 数が多い分時間がかかっているようだが、あと数秒で全ての竜巻が消されてしまう。


 再度アマリアを見ると、気まずそうに眉を顰め、目線を逸らしやがった。


「おい、お前がフェアズを助けたいと願うんだったら、お前も協力してくれるんだよなぁ? 管理者である、アマリア様?」

「当たり前だよ。僕に出来る事はサポート位だけど、協力する。フェアズを、昔の優しくて、温かい頃に戻してあげたいんだ」

「わぁーったよ。まったく、本当にめんどくせぇな」


 頭をガシガシと掻きみんなで見上げると、ちょうど俺の魔法を全てかき消したフェアズと目が合った。


「アマリア、貴方、やっぱり寝返ったのね。そんな気はしていたわ」

「違うよ、フェアズ。僕は寝返ったわけじゃない。君を助けたいんだ。今の君は、力に捕らわれている、ただの化け物。心も人でなくなってしまった。そんな君を救うため、知里にお願いをしていただけだよ」

「何ですって? 私を救う? 馬鹿なことを言わないでちょうだい。私は強い、今の私が本来の私だったの。救うためとか、意味わからないことを言わないで!」


 鞭を振り下げると、地面が大きく揺れ始めた。


 なんだこれ!?


 地面に膝を突き耐えていると、アマリアが俺達に向けて叫んだ。


「魔法を出す準備をして!」


 その声と共に、フェアズが魔法を発動した。


restraintリストイレイント


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