第111話 本当の想い

「黙れ!! 私はもう弱い頃の私には戻らない! そんなことを言うあんたなんていらない。邪魔をするなら、貴方も殺すわ」

「管理者同士の戦闘は固く禁ずる。世界を管理している君が、違反する気?」

「管理者の立場を脅かそうとする人物の排除の邪魔をしている貴方は違反者になるわ、私は悪くない!!」

「話しにならないね」


 肩を落としため息を吐くアマリアに、アルカが小さな声で問いかけた。


「なんで、俺達を助けてくれるんだ?」

「君達を助ける気はないよ。結果的に、君達は命を奪われていないだけ。過去を繰り返したくない、フェアズを守りたい。それしか僕は考えていないよ」

「繰り返したくない?」

「それに関しては今話す事ではない。それにしても、まさかここまで時間が経っているのに来ないなんて思っていなかったよ。もしかして、本当に君達、見捨てられたのかな」


 肩越しにアマリアが言うと、アルカとリヒトは悲し気に眉を下げる。


 自分達に価値はないと思っている為、助けに来ない知里に関して、何も思わない。

 ただ、自分が弱いから悪いと、考えていた。


 そんな二人からアマリアは目を逸らし、ぽつりとつぶやく。


「知里は、君達が思っているような薄情者ではないと思うよ」

「「え?」」


 アマリアの言葉に聞き返そうとしたが、それより先にフェアズが動き出してしまった。


「何を話しているのかわからないけれど、今更何を企んだところで意味はないわよ。アマリア、貴方も私の邪魔をするのなら容赦しないわ。今ここで、私の強さにひれ伏しなさい! herbes fouetエルブ・フウェ!」


 魔法を唱えると、フェアズの手に握られていた鞭が生き物のように動き出した。


「でも、まずは、約束を守らなければならないわ」


 前に出した鞭を、引くような動きを見せた。

 すると、アルカ達二人を縛っていた木の蔓が動き出す。


「っ!」


 二人の叫び声にアマリアが振り向くと、両手両足だけではなく、体全体を覆う程の蔓が伸びており、身動き一つとれない状態となる。


「まさか、絞め殺すつもり?」

「痛みは感じさせないと言ったはずよ」


 アルカ達の周りを動き回る、刃のように鋭い蔓。きらりと光っており、普通の蔓ではないことは明らか。


 アルカもリヒトも、もう何も出来ないと涙を零し、諦めてしまった。


「──って…………ちっ」

「邪魔はさせないわよ、アマリア」


 アマリアが右手をアルカ達に向けようとすると、それより先にフェアズが鞭を伸ばし拘束。アルカ達に向けているのと同じ刃を向けた。


「怖いとは思うけれど、それだけよ。私の言葉を信じて。痛みはないわ、ふふっ」


 下唇を舐め、恐れている二人の顔を楽しむようにゆっくりと刃を操作。


「ばいばい」


 ゆっくり操作していた刃を振り上げたかと思うと、勢いよく振り下ろされた。


「やめろ!!!」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・



 ――――――ザシュッ ザシュッ!!



 アマリアの焦り声と共に、宇宙にあるブラックホールみたいなものがアルカ達の目の前に現れた。

 そこから風の如く速さでが飛び出し、周りを囲う蔓を切り裂かれ始めた。


「なっ! 誰!?」


 周りの木や無害な蔓を利用し飛び回り、切り裂かれていく刃のように鋭い蔓。

 ボタボタと落ち、全てが切り終わると飛び回っていた青年が地面へと降り立った。


「っ、間に合ったみたいですね。良かったです」


 フェアズを見上げ、水色の髪を靡かせ立っている人物。

 汗を拭きながら氷の刀を下ろし、安堵の息を吐いた。


「グ、グレールさん!?」


 吊るされていたアルカは何が起きたのか理解できないまま下を向くと、そこに立っていたのは、ロゼ姫の執事であるグレールだった。


「あら、もしかして。鏡谷知里が動かなかったから、貴方が来たのかしら? こんなことに巻き込まれるなんて思ってもいなかったでしょう、哀れね」

「何を言っているのかわかりませんが、来たのは私だけではありませんよ。勘違いしないでください」

「なんですって?」


 フェアズが困惑の声をあげると、彼女の背後にまたしてもブラックホールのようなものが出現。


「っ!? 何がっ!?」


 すぐさま距離を取り、突如現れたブラックホールを凝視。

 アルカ達も同じく見ていると、そこから現れた人を目にし、言葉にならない声が口から盛れた。


「どっこいしょ……。うわぁ、魔力がぁ…………」

『大丈夫ですか!? ご主人様!』

『ふん! この程度でへばるなんて。しっかりしなさい、それでもわたくしのご主人様なのかしら』


 気だるげな聞き覚えのある声と、高い声が二人。

 リヒトは思わず涙を流し、現れた人物の名前を呼んだ。


「カ、カガミヤさん…………」


 ブラックホールのようなところから姿を現したのは、めんどくさそうに眉間に皺を寄せ、頭をガシガシと掻いている知里と、精霊二人だった。

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