第107話 苛立ちと情けなさ
アルカとリヒトは今、二人の管理者を目の前に、体を木の蔓により固定され身動きを封じられていた。
四人がいるのは熱帯森林、プルウィア。
自分達より遥かに大きな樹木に囲まれ、周りは泥水。
気温が高く、自然と汗が滲み出てしまう。
青空を隠してしまう程高い樹木に吊るされている二人は、地面から見上げて来る管理者二人、アマリアとフェアズを睨みながら藻掻いていた。
「なんでこんなことをするんだ! 俺達は何も違反などしていないぞ!!」
アルカが蔓から逃れようともがきながら叫ぶが、彼の言葉はどこ吹く風。
フェアズが口角を上げ、当たり前だろうというように答えた。
「確かに貴方達は何もしていないわ。だから、今回は処刑人であるアクアがいないでしょ? 罪を犯しているのであれば、動くのは私達ではなく、アクアとクロよ」
「なら、なんで…………」
「もう薄々気づいているんじゃないかしら。私の狙いは貴方達の仲間である、鏡谷知里よ。あの魔力、魔法。百年前のカケル=ルーナを思い出させるような力。あのまま野放しにするわけにはいかないの。この世界のバランスが崩れてしまうわ。だから、私がやるのよ。私が、鏡谷知里を葬るの」
フェアズの言葉に歯ぎしりするアルカは、顔を一度俯かせ、小さな声でぼそりと呟いた。
「待っていても、おそらくカガミヤは来ないぞ……」
「あら、何故かしら? 仲間である貴方達を見捨てるような薄情な方なの?」
「薄情……。いや、違うな。薄情とかではなく、俺達を助けるメリットが、カガミヤにはないからだ」
アルカの言葉が理解できないフェアズだったが、アマリアは思い当たる節があったらしく、目をかすかに開き「なるほど」とぼやく。
「だって、俺達を助けたところで―――金が手に入るわけじゃないからなぁ…………」
「――――ん? 金?」
最初は理解出来なかったが、知里が金の亡者なのを思い出し、「あぁ、そういう事?」と、変に納得していた。
「そうだ。カガミヤは自分に金が入らない限り、自ら動き出さない。金が自分を動かしていると公言しているくらいだからな。だから、今回お前らは人質にするもんを間違えたんだ。俺達じゃなくて、カガミヤからは金を奪い取った方が良かったんだぞ!」
その言葉にはリヒトも小さく頷いている。
二人は、知里がどれだけお金に執着しているか知っている。
何をしてでも、金が入るのなら最後までやり通す事を知っている。だが、逆に。
金が入らないのなら、知里のやる気はゼロ。他人がどうなろうと、自分の欲が満たされないのなら自ら動かない。
知里の性格をそう理解している二人は、遠い目を浮かべながらそのようなことを言い放った。
目を丸くし、隣ん五いるアマリアを見るフェアズ。
同感するように頷いている彼を見て、苦笑いを浮かべた。
「そ、そこまでなの? なんだか、頭痛くなってきたかも……」
「知里は、カケル=ルーナよりある意味相手にするの難しいよ。だから、辞めておこうと何度も言ったのに」
今だ唖然としているフェアズは、何とか気を取り戻し咳払い。
「ま、まぁ、いいわ。明日までに鏡谷知里が来なかった場合、他の手段を考える事にするわ」
「ほ、他の手段?」
「貴方達を消した後、今度は助言通りお金をちらつかせておびき出してみるわ」
当たり前のようにアルカとリヒトを消す宣言したフェアズに、二人は顔を青くした。
歯を食いしばり、何も出来ない自分にいら立ち。どこにもぶつける事が出来ない怒りに苛まれた。
それはリヒトも同じで、歯を食いしばり、ぽつりと一言、投げ捨てた。
「やっぱり、私達はカガミヤさんと共にいても、意味はないんだ……」
リヒトの呟きは二人に届かず、何事も無かったかのようにこの場から去ろうと振り返る。
「そのままここに居なさい。逃げようとしても意味はないわよ。私は、いつでも貴方達を見ているわ」
それだけを言い残し、フェアズ達は姿を消した。
残された二人はお互い何も口にすることはなく、静かな空間が流れた。
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